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君たち
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「君たち、今すぐこの洞窟を出た方がいい。ここは危険だよ。俺たちの村に来るといい。ここから歩いて、二十分もあれば着くから」
一息ついた後、高宮はそんな事を言ってきた。すると、全員の表情が変わる。
「えっ? こんな雨の中をですか?」
直枝が、ひきつった表情で尋ねる。だが、高宮は自分の意見を曲げなかった。
「確かに、この雨の中を歩くのは苦しい。だけどね、このままここにいたら大変なことになる。山の夜は、気温が一気に下がるんだ。凍死するかもしれないよ」
高宮は先ほどまでの軽薄な雰囲気をかなぐり捨て、力強い口調で語る。
「村には医者もいるから、万が一風邪を引いても何とかなる。だが、このままここにいたら、食べ物も着る物もない。その上、土砂崩れで入口が埋まるかもしれない」
「だったら迷うことないじゃない! ほら行くよ、みんな!」
言いながら、大場が立ち上がる。やや遅れて、芳賀も立ち上がった。
しかし、口を挟んだ者がいた。
「それは、どうですかねえ」
明だ。座ったまま、高宮の顔を見すえ言葉を続けた。
「どうしても村に行かなきゃ、駄目なんですか? 俺たちを、村に招待したい理由があるように見えますけどね。何か事情があるんですか?」
冷めた口調で尋ねる。すると、高宮の表情が険しくなった。
「はあ? 君は何を言ってるんだ! こんな所にいたら、一晩で凍死するぞ! それ以前に、いつ土砂崩れが起こるかわからないんだ!」
「高宮さん、こいつは頭おかしいんですよ! ほっといて行きましょ!」
そう言いながら、大場が高宮の腕を引っ張る。
「そうですよ! 頭おかしいんです!」
大場の言葉に、芳賀も調子を合わせる。その横では、直枝が困った顔をしていた。
すると、明はため息をつく。
「俺は、こんな雨の中を歩きたくないな。山道を歩くのはキツい。おい上条、それに飛鳥、お前らはどう思う?」
明はそう言うと、僕と上条の顔を交互に見る。
上条は明と目が合うと、怯えたような表情で口を開いた。
「俺は、どっちでもいい……」
そう言ったきり、上条は口を閉じてしまった。いじけたような表情でうつむく。何か、急に別人のようになってしまった気がする。さっきの敗北が、彼を腑抜けに変えたようだ。少なくとも、僕にはそう見えた。
「そうか、わかった。じゃあ飛鳥、お前はどう思うんだよ?」
今度は、僕の顔を真っ直ぐ見つめてくる。仕方なく、正直な気持ちを語った。
「わからない。みんなの意見に従うよ」
そう、今は何もわからなかった。ただ村があるのなら、少しくらい雨に濡れてもそこに行きたいと思ったのは確かだ。村に行けば、暖かい場所と暖かい食事がある。普通に考えれば、村に行く方がいいだろう。
もっとも、高宮の態度におかしなものを感じたのも事実だ。明の表情にも違和感を覚えたが、それは気にするほどのものとは思えなかった。
「そうか。村に行きたくないのは、俺ひとりなのか。まあ、多数決で決まったのなら仕方ない。じゃあ、村に行くとするか」
返事を聞いた明は、冗談めいた口調で言った。そして高宮の方を向く。
「村に行けば、面白いことになりそうですねえ、高宮さん」
言いながら、歪んだ笑みを浮かべる。それは安堵や嬉しさからくる笑みとは、根本的に違うものだ。あえて言うなら、苦笑いである。それも、ここにいる皆の愚かさを笑っているかのようだった。
彼の態度を横で見ていて、奇妙な胸騒ぎを覚えた。明の反応は変だ。いったい、どういうことなのだろう。僕たちはバスの事故に遭遇し、同級生のほとんどが死亡した。だが幸運にも生き延び、運よく駆けつけた親切な男の勧めに従い、山奥の村に行こうとしている。どこにも不自然な点など感じられない。
と同時に、僕の心には得体の知れない不安が生まれていた。ひょっとしたら、みんなで恐ろしく間違った決断を下してしまったのではないだろうか……そんな不安が、胸の中で蠢いていた。
もし、この時に明の言う通り、全員で洞窟に残っていたら……皆の運命は、違ったものになっていただろう。僕が明の意見に賛成していれば、また違った展開になっていたのだろうか?
もっとも、大場や芳賀の態度を考えると、全員が残るというのは無理な話だっただろう。
それに、今さら何を言っても無意味だ。結局、みんなで雨の降る中、高宮の住む村に向かうこととなったのだから。
他の者たちが、村までの道中で何を考えていたのかは不明だが……僕は、一分も経たぬうちに己の選択を後悔していた。雨の中、でこぼこの山道を歩くのは本当に重労働なのだ。
ただでさえ、肉体的にも精神的にもボロボロの状態である。その状況での山歩きは、体に相当の負担がかかる。しかも、高宮の歩くペースは早い。山を歩き慣れているのだろうか。僕は彼に取り残されないよう、必死で歩いた。他の者も、辛そうに歩いていた。
そんな拷問のごとき山歩きの挙げ句、辿り着いた場所は……とても令和の時代に存在しているとは思えないような風景だった。ドキュメンタリー番組に登場する廃村か、ホラー映画のセットにしか見えない。
まず目に映ったのは、木造の家屋だ。村のあちこちに建てられている。しかし、人が住んでいるようには見えなかった。ボロボロで、あちこち腐りかけている。先ほどの地震で、倒壊しなかったのが不思議なくらいだ。
さらに、村に入ると同時に、妙な匂いが鼻に飛び込んできた。獣臭と、腐った木と、様々な種類のゴミが混ざり合った、都会に住んでいたら絶対に嗅がないような匂いだ。村の中は雑草が伸び放題だったし、辺りはとても暗い。高宮の持っている大きな懐中電灯と、数ヶ所に設置されたライトの僅かな光だけが頼りだった。
その上、ネズミなどの小動物の鳴き声らしきものも聞こえる。虫がかさかさ動くような音も聞こえた。正直言って、人が生活している雰囲気が感じられない。
そうした諸々も、次に聞いた言葉に比べればたいしたことではなかった。高宮いわく、ここでは電気が通っていない家が相当数あるというのだ。
「この村で電気が通っているのは、限られた場所だけなんだ。申し訳ないけど、ちょっとだけ我慢して。すぐに迎えが来るから」
村に入った時の、彼の第一声である。皆は疲労と落胆のあまり、何も言えなかった。
あの雨の中を歩き、着いた場所がここ?
いや、それよりも……ここは何処だよ?
何ていう村?
僕は呆然となっていた。他の者たちも、似たような気持ちだっただろう。
ただひとりを除いては──
皆はまず、男女で分けられた。僕たち男三人は、古い小屋へと通される。
その小屋は木造だが、一応はしっかりした造りになっているようだった。中には電池式のランタン、小型の石油ストーブ、ヤカン、数個のコップ、上下そろった様々なサイズのジャージが十人分ほど用意されていた。
ただ、それだけの物しかなかった。しかし、寒さがしのげるのはありがたい話だった。
小屋の中で、僕たちは濡れた体を拭き服を着替えた。その時、ふと明の体が目に入る。
制服を着ている時はわからなかったのだが、明の肉体は普通ではない。まるで格闘技マンガの主人公が、そのまま現実世界に抜け出てきたかのようだった。
まず、筋肉の量が尋常ではない。二の腕は太く、肩回りは丸みを帯びている。胸板も分厚く、背中も異様に広い。それでいて、腰回りは細いのだ。
しかも、独特の発達の仕方をしていた。細かい小さな筋肉が、びっしりと付いているような感じである。たとえるなら、計量時のミドル級ボクサーのようだ。
その上、体のいたるところに傷がある。それも、普通の傷ではない。
鋭い刃物で斬られたような、長いギザギザの線の傷痕。
銃で撃たれたような、丸い点の傷痕。
そして、どこかの大陸のような形の火傷痕。
こんな傷は、普通の暮らしをしていたら絶対に付かないだろう。
僕は、明の体から目が離せなかった。衝撃のあまり、思わず凝視していたのだ。
すると、明が口を開く。
「おい飛鳥、お前もしかしてゲイなのか? 俺の体に興味があるのか? 悪いがな、俺にそっちの趣味はないぞ」
その声に、僕は慌てて顔を上げた。
明は、不審そうな表情でこちらを見ている。僕の視線に気付いたのだ……慌てて目を逸らせた。
「ち、違うよ! ただ、明くんは凄い体してるなって……格闘技か何かやってたの?」
「ああ、これか。まあ、色々あってな。かいつまんで言うと、親父のせいだよ。そんな事より……」
明は言葉を止め、思案するような表情で小屋の中をゆっくりと見回す。
「思った通りだよ。ここは本当にヤバい。もしかしたら俺たち、全員殺されるかもな。ま、あの時に比べりゃマシだけど」
そう言って、楽しそうに笑った。先ほど見た、不気味な笑顔が浮かぶ。
「ど、どうして? 何で殺されるの?」
困惑し、思わず聞き返した。そんな話は無茶苦茶だ。
全員殺されるって、何だよ?
何がヤバいんだ?
でも……。
完全に怪しいとまではいかないが、何かが変だという感覚はあった。言葉では上手く表現できないが。
「なあ飛鳥……ここに来る途中、おかしな点が腐るほどあっただろう。さっきみたいに、頭を振り絞って考えてみろよ。でなきゃ、お前は足手まといだ。俺は足手まといとは組まない。上条、お前も考えろ」
明はそう言って、呆然としている上条の方を見る。
「答えられた方を、俺はパートナーにする。ここから生きて脱出するための、な。それ以外の人間は、全て無視する。死のうが生きようが、俺の知ったことじゃない」
そんな恐ろしいセリフを吐いた直後、明は僕と上条とを交互に見た。
「まあ、はっきり言って、この状況は物凄く不利だ。こっちは何もわかってないってのが痛い。これじゃ、俺は、自分の身すら守れるかもわからない。だからこそ、有能な方を選びたいんだ。さあ……どっちでもいい、答えてくれ。ここに来るまでに見つけた奇妙な点を」
一息ついた後、高宮はそんな事を言ってきた。すると、全員の表情が変わる。
「えっ? こんな雨の中をですか?」
直枝が、ひきつった表情で尋ねる。だが、高宮は自分の意見を曲げなかった。
「確かに、この雨の中を歩くのは苦しい。だけどね、このままここにいたら大変なことになる。山の夜は、気温が一気に下がるんだ。凍死するかもしれないよ」
高宮は先ほどまでの軽薄な雰囲気をかなぐり捨て、力強い口調で語る。
「村には医者もいるから、万が一風邪を引いても何とかなる。だが、このままここにいたら、食べ物も着る物もない。その上、土砂崩れで入口が埋まるかもしれない」
「だったら迷うことないじゃない! ほら行くよ、みんな!」
言いながら、大場が立ち上がる。やや遅れて、芳賀も立ち上がった。
しかし、口を挟んだ者がいた。
「それは、どうですかねえ」
明だ。座ったまま、高宮の顔を見すえ言葉を続けた。
「どうしても村に行かなきゃ、駄目なんですか? 俺たちを、村に招待したい理由があるように見えますけどね。何か事情があるんですか?」
冷めた口調で尋ねる。すると、高宮の表情が険しくなった。
「はあ? 君は何を言ってるんだ! こんな所にいたら、一晩で凍死するぞ! それ以前に、いつ土砂崩れが起こるかわからないんだ!」
「高宮さん、こいつは頭おかしいんですよ! ほっといて行きましょ!」
そう言いながら、大場が高宮の腕を引っ張る。
「そうですよ! 頭おかしいんです!」
大場の言葉に、芳賀も調子を合わせる。その横では、直枝が困った顔をしていた。
すると、明はため息をつく。
「俺は、こんな雨の中を歩きたくないな。山道を歩くのはキツい。おい上条、それに飛鳥、お前らはどう思う?」
明はそう言うと、僕と上条の顔を交互に見る。
上条は明と目が合うと、怯えたような表情で口を開いた。
「俺は、どっちでもいい……」
そう言ったきり、上条は口を閉じてしまった。いじけたような表情でうつむく。何か、急に別人のようになってしまった気がする。さっきの敗北が、彼を腑抜けに変えたようだ。少なくとも、僕にはそう見えた。
「そうか、わかった。じゃあ飛鳥、お前はどう思うんだよ?」
今度は、僕の顔を真っ直ぐ見つめてくる。仕方なく、正直な気持ちを語った。
「わからない。みんなの意見に従うよ」
そう、今は何もわからなかった。ただ村があるのなら、少しくらい雨に濡れてもそこに行きたいと思ったのは確かだ。村に行けば、暖かい場所と暖かい食事がある。普通に考えれば、村に行く方がいいだろう。
もっとも、高宮の態度におかしなものを感じたのも事実だ。明の表情にも違和感を覚えたが、それは気にするほどのものとは思えなかった。
「そうか。村に行きたくないのは、俺ひとりなのか。まあ、多数決で決まったのなら仕方ない。じゃあ、村に行くとするか」
返事を聞いた明は、冗談めいた口調で言った。そして高宮の方を向く。
「村に行けば、面白いことになりそうですねえ、高宮さん」
言いながら、歪んだ笑みを浮かべる。それは安堵や嬉しさからくる笑みとは、根本的に違うものだ。あえて言うなら、苦笑いである。それも、ここにいる皆の愚かさを笑っているかのようだった。
彼の態度を横で見ていて、奇妙な胸騒ぎを覚えた。明の反応は変だ。いったい、どういうことなのだろう。僕たちはバスの事故に遭遇し、同級生のほとんどが死亡した。だが幸運にも生き延び、運よく駆けつけた親切な男の勧めに従い、山奥の村に行こうとしている。どこにも不自然な点など感じられない。
と同時に、僕の心には得体の知れない不安が生まれていた。ひょっとしたら、みんなで恐ろしく間違った決断を下してしまったのではないだろうか……そんな不安が、胸の中で蠢いていた。
もし、この時に明の言う通り、全員で洞窟に残っていたら……皆の運命は、違ったものになっていただろう。僕が明の意見に賛成していれば、また違った展開になっていたのだろうか?
もっとも、大場や芳賀の態度を考えると、全員が残るというのは無理な話だっただろう。
それに、今さら何を言っても無意味だ。結局、みんなで雨の降る中、高宮の住む村に向かうこととなったのだから。
他の者たちが、村までの道中で何を考えていたのかは不明だが……僕は、一分も経たぬうちに己の選択を後悔していた。雨の中、でこぼこの山道を歩くのは本当に重労働なのだ。
ただでさえ、肉体的にも精神的にもボロボロの状態である。その状況での山歩きは、体に相当の負担がかかる。しかも、高宮の歩くペースは早い。山を歩き慣れているのだろうか。僕は彼に取り残されないよう、必死で歩いた。他の者も、辛そうに歩いていた。
そんな拷問のごとき山歩きの挙げ句、辿り着いた場所は……とても令和の時代に存在しているとは思えないような風景だった。ドキュメンタリー番組に登場する廃村か、ホラー映画のセットにしか見えない。
まず目に映ったのは、木造の家屋だ。村のあちこちに建てられている。しかし、人が住んでいるようには見えなかった。ボロボロで、あちこち腐りかけている。先ほどの地震で、倒壊しなかったのが不思議なくらいだ。
さらに、村に入ると同時に、妙な匂いが鼻に飛び込んできた。獣臭と、腐った木と、様々な種類のゴミが混ざり合った、都会に住んでいたら絶対に嗅がないような匂いだ。村の中は雑草が伸び放題だったし、辺りはとても暗い。高宮の持っている大きな懐中電灯と、数ヶ所に設置されたライトの僅かな光だけが頼りだった。
その上、ネズミなどの小動物の鳴き声らしきものも聞こえる。虫がかさかさ動くような音も聞こえた。正直言って、人が生活している雰囲気が感じられない。
そうした諸々も、次に聞いた言葉に比べればたいしたことではなかった。高宮いわく、ここでは電気が通っていない家が相当数あるというのだ。
「この村で電気が通っているのは、限られた場所だけなんだ。申し訳ないけど、ちょっとだけ我慢して。すぐに迎えが来るから」
村に入った時の、彼の第一声である。皆は疲労と落胆のあまり、何も言えなかった。
あの雨の中を歩き、着いた場所がここ?
いや、それよりも……ここは何処だよ?
何ていう村?
僕は呆然となっていた。他の者たちも、似たような気持ちだっただろう。
ただひとりを除いては──
皆はまず、男女で分けられた。僕たち男三人は、古い小屋へと通される。
その小屋は木造だが、一応はしっかりした造りになっているようだった。中には電池式のランタン、小型の石油ストーブ、ヤカン、数個のコップ、上下そろった様々なサイズのジャージが十人分ほど用意されていた。
ただ、それだけの物しかなかった。しかし、寒さがしのげるのはありがたい話だった。
小屋の中で、僕たちは濡れた体を拭き服を着替えた。その時、ふと明の体が目に入る。
制服を着ている時はわからなかったのだが、明の肉体は普通ではない。まるで格闘技マンガの主人公が、そのまま現実世界に抜け出てきたかのようだった。
まず、筋肉の量が尋常ではない。二の腕は太く、肩回りは丸みを帯びている。胸板も分厚く、背中も異様に広い。それでいて、腰回りは細いのだ。
しかも、独特の発達の仕方をしていた。細かい小さな筋肉が、びっしりと付いているような感じである。たとえるなら、計量時のミドル級ボクサーのようだ。
その上、体のいたるところに傷がある。それも、普通の傷ではない。
鋭い刃物で斬られたような、長いギザギザの線の傷痕。
銃で撃たれたような、丸い点の傷痕。
そして、どこかの大陸のような形の火傷痕。
こんな傷は、普通の暮らしをしていたら絶対に付かないだろう。
僕は、明の体から目が離せなかった。衝撃のあまり、思わず凝視していたのだ。
すると、明が口を開く。
「おい飛鳥、お前もしかしてゲイなのか? 俺の体に興味があるのか? 悪いがな、俺にそっちの趣味はないぞ」
その声に、僕は慌てて顔を上げた。
明は、不審そうな表情でこちらを見ている。僕の視線に気付いたのだ……慌てて目を逸らせた。
「ち、違うよ! ただ、明くんは凄い体してるなって……格闘技か何かやってたの?」
「ああ、これか。まあ、色々あってな。かいつまんで言うと、親父のせいだよ。そんな事より……」
明は言葉を止め、思案するような表情で小屋の中をゆっくりと見回す。
「思った通りだよ。ここは本当にヤバい。もしかしたら俺たち、全員殺されるかもな。ま、あの時に比べりゃマシだけど」
そう言って、楽しそうに笑った。先ほど見た、不気味な笑顔が浮かぶ。
「ど、どうして? 何で殺されるの?」
困惑し、思わず聞き返した。そんな話は無茶苦茶だ。
全員殺されるって、何だよ?
何がヤバいんだ?
でも……。
完全に怪しいとまではいかないが、何かが変だという感覚はあった。言葉では上手く表現できないが。
「なあ飛鳥……ここに来る途中、おかしな点が腐るほどあっただろう。さっきみたいに、頭を振り絞って考えてみろよ。でなきゃ、お前は足手まといだ。俺は足手まといとは組まない。上条、お前も考えろ」
明はそう言って、呆然としている上条の方を見る。
「答えられた方を、俺はパートナーにする。ここから生きて脱出するための、な。それ以外の人間は、全て無視する。死のうが生きようが、俺の知ったことじゃない」
そんな恐ろしいセリフを吐いた直後、明は僕と上条とを交互に見た。
「まあ、はっきり言って、この状況は物凄く不利だ。こっちは何もわかってないってのが痛い。これじゃ、俺は、自分の身すら守れるかもわからない。だからこそ、有能な方を選びたいんだ。さあ……どっちでもいい、答えてくれ。ここに来るまでに見つけた奇妙な点を」
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