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三章

50話 視線の先で / ディエリ

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次回、ルナの続きと終幕のお話、その次が三章終話でキャロルの夢のお話を予定しています。
再来週から最終四章開始です。

< 小さい設定 >
カミュ様はあれこれ融通が利きます。
カミュ様のお母様が「御前試合 小話」で王が語る内側に激しい炎をもつ姉で、ちょっとした権力持ちだからです。離隅の管理者でもあり、ある人の上司でもあります。
答えは四章で出てきます。

< 小話 >

――視線のぶつかる日

 気に入らない相手ほど、すぐに見つけられるのは何故だ?
 渡り廊下の先に銀の髪を見つける。こちらの視線に気づいて、紫の瞳が俺を捉えると穏やかな笑みを浮かべる。
 嫌味しか言った覚えがないのに、こいつは何故か俺をみると穏やかに笑う。

「最悪だ。貴様の笑い顔は企み事をしてるとしか思えん」

 すれ違いざまに足を止めて吐き捨てる。相手も足を止めると、俺が一番気に入らない一言を吐く。

「先に見たのはディエリです。私の顔が相変わらずお好きなようですね」

 にやりと笑う顔は男にしておくには勿体ない美人だ。その顎に指をかけて持ち上げる。

「泣き顔なら好きかもな。貴様はいつか、泣いて跪かせたい」

 女なら無理に攫っていたかもしれない。銀の美しい髪、陶器のような肌、赤い唇、それから生意気そうな宝石の瞳。

「遠慮します」

 挑戦的な眼差しで言い切ると、紫の瞳が色を変える。

「そういえば、そちらの派閥で元気のいい人達がいますね? 火傷しますよ?」

 新しい国の行方に激しい言論を繰り返す能無しがいる。人の名を勝手に出しては派手な喧伝をしていた。
 だが、もう終わった。早々に手を打って黙らせてある。
 燻る悪事を嗅ぎ分けて、搾取して切り捨てるのはバスティアのお家芸だ。こいつに言われるまでもない。

「既に冷たい水の中だ。お前こそ、群がる蟻に運ばれるなよ」

 国策に期待した者がまるで施しを期待するかのように殿下の元に集まっている。寄せる期待の失速は早い。さて、どうさばくか見ものだ。

「蟻には女王が必要でしょう?」

 腹の底を隠した会話に唇を歪め合う。
 やはり、こいつはこのままがいい。
 こいつが女で攫って無理矢理落とすより、男として対等な位置で裏をかき合う方が退屈しない。

 指を離して、立ち去り際にポケットに入っていた蜜玉を投げつける。
 驚いた様に受け取っると口に含んで、綻ぶように笑う。

「子供が好きな蜜玉だ。俺は食わない」

 やる為だけの蜜玉をポケットに入れるようになったのはいつからだ?
 蝕まれた重い体に自分も回復薬を口に含む。綱渡りだな。 

 立ち去る俺の背に、あいさつ代わりのいつもの言葉が投げられる。

「いつか再戦を!」

 いつか。だから、綱から落ちるわけにはいかない。

 いつか、その時は喉元に刃を必ず添わせよう。
 そしてまた、いつかは腹に刃を添わされるかもしれない。
 そして、いつかと何度も重ねる刃。それは剣か論戦か。

 生きる限り貴様と戦うのはおもしろい。
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