バーンアウト・ウイッチ

波丘

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魔女たちの夜⑦

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グラ、グラ、グラ
 すると地面が大きく振動して、音を立ててヒビ割れる。
 ヒイラギはゆっくりと立ち上がると、魔法を使い自身の体を宙に浮かす。
 木の高さ位まで自分の体を宙に浮かすと、キョロキョロと辺りを見回す。そして、離れた所で木に寄りかかって、こちらを見ているユダを発見した。
 ヒイラギは意識を集中して、ユダの体を宙に浮かすと、自分の傍にふわふわと移動させた。
「ユダさん」
「ヒイラギ」
 魔法の力で宙に浮いている、二人は互いに無事を確かめ合う様に名前を呼び手を取り合う。
 グラ、グラ、グラ
 その間も大きく揺れ続けて地面の割れ目が広がっていき、周囲に生えている木々は次々と音を立てて倒れていく。
 赤い月が照らし出す、その光景はまるでこの世の地獄のようだった。
「すごいな、これを君がやったのか」
 ユダは地上を見下ろして、まるで他人事の様にのんきな事を言い出す。
「私の体内には、魔力の塊の様な石が入っているんです」
「今日みたいな触の夜に魔法を使うと、こんな感じで暴走して上手く制御出来なくなる事があるんです」
 ヒイラギは、自分の胸の中心辺りを手で押さえて話す。
「最初はずっとセーブして魔法を使って、それでもあの人を止められないので本気を出したらこんな事に・・・」
 半ば呆然とした様子で、少女は一瞬にして地獄と化した地上を見下ろしている。
「君を怒らせるとエラい事になるな」  
 ユダは何とかこの場を和ませようとこんな事を口にするが、ヒイラギはそれでも暗い表情をしていた。
「テツロウさん達も、さすがに一溜まりもないだろうな」
 ユダはさすがに元同僚の行末を気にしているのか、複雑そうな表情をしていると、ヒイラギが突如口を開いた。
「危ない」
 背後からライトで照らされて、ユダは後ろを振り向く。後ろから近づいていたヘリは、ユダに向かって機関銃の照準を合わせていた。

 ヒイラギは両手を合わせて前方に突き出すと、そのヘリに向かって巨大な火の玉を放つ。
 巨大な火の玉はヘリの真正面、操縦席の辺りに直撃して爆発した。ヘリはあっという間に業火に包まれて、バランスを崩してくるくると回転しながら地上に落下していった。
「ありがとう、助かったよ」
 ユダは少女に向かってお礼を言う。
 しかし、そのヒイラギの表情はどこか暗い。優しい性格のこの少女の事だ、ヘリに乗っていた人の事でも考えているのかもしれない。
「そういえば、リッカはどこだ」
「あっ、リッカさん」
 ヒイラギの目に光が戻り、風の魔法を操作して自分の体とユダの体を器用に移動させる。
 二人は風を切って上空を移動しながら、地上を見渡してリッカの姿を探す。

「あっ」
 ヒイラギは何か見つけたのか、一つの大木を指差す。
 その大木は、地割れから逃れようと根っこを器用に動かして、どしんどしんと音を立て移動していた。
 こんな芸当が出来るのは一人しかいない。
「おーーい」
 大木の枝の上に立っているリッカが、宙に浮いている二人の姿を見つけ、両手を大きく振っている。
「本当に無事で良かった」
 ヒイラギは、リッカを魔法で宙に浮かして自分の傍に移動させると、感極まってそのままリッカをぎゅっと抱き締める。
「良かったあんた達も無事だったんだね」
 リッカ、は抱きついているヒイラギの頭を撫でると、傍にいるユダに向かって笑いかける。
「お互い悪運が強いな」
 ユダも照れ隠しで憎まれ口を叩く。
 いつしか周囲を見渡すと空に浮かんでいた赤い月は消え去り、辺りは青みがかかっていた。
 少女の魔法による大地震も、いつの間にか収まっていた。
「えっ」
 リッカは、ヒイラギの方を見て驚きの声を上げる。
 少女は、肩を震わせて大粒の涙を流していた。声もあげずに、ただ静かに泣いていた。
 その姿を傍で見ていたリッカとユダの二人には、この少女が自分が無事に生き残れて、安堵して泣いているのでは無い事が直ぐに分かった。
 何も言わずにリッカは、少女の手をそっと握る。日頃の訓練のせいだろうか、その手のひらには豆が出来て硬くなっており年頃の少女らしくない手だった。
 リッカは、改めてまじまじとヒイラギの顔を見る。
 その顔は涙でぐしゃぐしゃだったが、少女の表情は、初めて会った時の世間知らずなのほほんとした女の子ではなく、大人びた女性のものになっていた。
 危険が去った夜明けの穏やかな空の中で、二人はヒイラギの気持ちが落ち着くまで無言でただ見守っていた。
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