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同情...?
しおりを挟むなんで優しいのかと問う俺を困った顔で男がじっと見つめる。
「...それはおかしいことか?」
聞くまでもない。おかしいに決まってるのだ、だって...
「殴らないし...犯しもしない...意味わかんねぇ」
「酷いことはしたくない。俺は...お前に辛い思いをしてほしくないっ...」
男の目が真っ直ぐに俺を捉えている。その真剣な目がどうしようもなく居心地が悪い。
くだらないと思った。俺を客の元へ送り届けているのはいつもこの男だ。もちろん指示に従って動いてるだけなのはわかってるが、そんな風に思われる筋合いはない。
「...同情かよ......ふざけんなっ...」
「っそうじゃない...!」
そうじゃないんだ、と繰り返す男の手は俺の手を掴んだまま震えている。自分よりかなり大きい男が震えているのなんか、初めて見たような気がする。男の瞳が揺れて、俺は戦意喪失した。
もういいや......
男の手を振り払ってベッドのもとの位置に戻り、男を視界から消すと、男の視線が背中に刺さる。もう出ていってほしい。
「...腹減ってないか?」
「.........」
「......夕方に持ってくるな。大人しく寝てろよ」
音を立ててドアが閉まった。一人きりになった部屋はしんと静かだ。
『お前に辛い思いをしてほしくないっ...』
あの男ははっきりとそう言った。冷めた思考回路ではその言葉をまっすぐに受けとることはできなかった。
「だったら、助けてよ.........」
部屋に響いた呟きに慌てる。無意識とはいえ、まさか自分の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
なに言ってんの、俺......
ついに頭わいたか...?
助けてほしいなんて微塵も思ってない。同情だってされたくない。淫売だなんだと蔑まれる方が、可哀想だと哀れまれるよりずっとマシだ。
バカみたいなことを口走ったのも、今こんなにも苛々しているのも全部あの男のせいだ。二度とここに来ないでほしい。そうすれば、俺はいつも通りに戻れる。
そんなことを思っていたせいかもしれない。俺の思いとは裏腹に、出ていってから数十分しか経っていないのに、男が部屋に戻ってきた。
入ってきた男は俺の目を見なかった。
「...急に予約が入ったそうだ」
なんであんたがそんなに気まずそうに言うんだよ
準備しろ、と言われる前にそろそろとベッドから降り、シャワーを浴びにいく。俺の体力が持たないから、二日続くのは珍しい。
身仕度を済ませて、車で客に指定されたところへ向かう途中で男が口を開いた。
「今日は本番はなしらしい。そういう条件で急な客を引き受けたみたいだからな」
返事はせず、窓から外を眺める。車の速さで通りすぎていく電柱の明かりがきれいだと思った。
「時間は三時間だけだ。終わったら迎えに行く」
男の話なんかどうでも良かった。窓を開けて手を外に出してみる。前のやつには怒鳴られたが、今となりにいる男は危ないぞ、と一言注意するだけだ。
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