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第1章
切実な問題
しおりを挟む「っ...ごめん、なさいっ」
「えっ、ちょっと...了くん...!!」
男の腕をすり抜け、走って逃げ出す。幸いなことに、男は追って来なかった。
いつものように、バーで会った男とホテルに向かう途中だった。我慢できなくなったのか、男は路上でキスをしようと身体を寄せてきた。別に珍しいことじゃない。今まで何度もしてきたことだ。
なのに、顔に手を添えられ、もう一方の手が了の腰に置かれた途端、反射的に男を突き飛ばしてしまった。
昨日も一昨日も同じだ。身体に触れられた瞬間に逃げ出してしまっていた。
いやだ...触られたくない...
俺どうしちゃったんだろ...
そのまま走って家に帰り、ドアを閉めると同時にその場にしゃがみこむ。
ふと、包むように抱き締めてくれた水無瀬の腕の感触が蘇る。本当に抱き締められたように体温が上がった気がした。この感覚を覚えていたい。水無瀬の跡を他の男に上書きされたくない。
『彼のこと、好き?』
以前マスターに訊かれたことがあった。それを思い出した途端、顔が熱くなる。
...っ、うそ、だろ?
俺、まじかよ....
こんなハズじゃなかったと、眩暈がしてその場で頭を抱えた。
「いらっしゃい、久しぶりねー」
了の姿を確認すると、マスターはすぐににっこりと笑う。
「あら、ちょっと大丈夫?すごい疲れた顔してるわよ」
この1週間、何度か疲れすぎて倒れるように眠ったの以外はまともに寝ていなかった。そのせいでバイト先で、そんなのでは使えないと怒られた。
「マスタぁ...」
「なあに?」
「...俺セックスできなくなった」
「え...勃たないの!?」
マスターが驚いてカウンターを手でバンッと叩いて立ち上がる。
「ちっがーーーーう!そうじゃない...」
マスターは、あぁ、なんだ...と呟いて座りなおした。
「じゃあ、なんでよ」
「水無瀬、さん...」
「......?」
「......好き...かも...」
自分でも信じられないことを言っているとは思いつつ、テーブルに突っ伏して言った。何も返事が返ってこないことが不安になって、恐る恐る顔を上げると、微笑んでるマスターが目に写る。
「っそう思ったら、他のやつに触られるのダメになっちゃって、だけどそれじゃ俺寝れないし...」
「それでグッタリしちゃってるのね」
了にとっては切実な問題なのだが、マスターはにこにこしている。
「んー、なら水無瀬さんに一緒に寝てもらえば良いじゃない」
「は...?いや、あの人、俺のこと買わないし...」
そう言うと呆れたような顔をされた。大きめのため息を吐いたマスターに両手で頬を挟まれる。
「あんた麻痺してるわよ。お金とらないで普通にお願いしなさいよ」
「でも...水無瀬さん、彼女いるし......」
以前駅で見かけた女の人、あれはきっと水無瀬の彼女だろう。すごく美人でお似合いだった。
マスターが怪訝そうな顔をしていた。意外だったのだろうか。でも了に言わせれば、水無瀬はかっこいいから、いないと思う方がどうかしてる。
「俺の体力が持たない...」
そう呟くと、マスターが裏から箱を1つ出してきて了にくれた。
「とりあえずこれあげるわ。安眠効果の強いハーブティーだから」
マスターはまだ何か言いたそうに見えたが、客が一気に増えてきたためそちらに係りきりになってしまったので、渡された箱を持ち、黙って店を出た。
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