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第1章
バカじゃないの
しおりを挟む(水無瀬side)
「今週、水無瀬ずっと変だったよ」
ガサガサとレジ袋から酒や出来合いのおかずなどを取り出しながら春川が言う。
土曜日の夕方に突然部屋にきて、勝手に上がり込んできたのだ。
「お前ひとり?木田は?」
「木田はインフルエンザだって」
「はぁ?今夏だぞ」
「まぁそこは木田だから。僕じゃ不満ですか?」
「そういう意味じゃねぇよ」
春川が買ってきたチューハイの缶を開けると、少し吹き零れてくる。床にこぼれたそれを袖で拭いながら、チラリと春川の方を見ると、何か言いたそうに水無瀬を見つめる春川と目が合った。
「......なに」
「何があったの。どうせ了くんのことなんでしょ?」
「相変わらず鋭いな、お前...」
「水無瀬のこと、こんなに振り回せる人、了くんしか知らないから」
春川の僅かにからかいを含んだ言葉を否定できない自分に苦笑いする。
他人に軽々しく勝手に話していい内容でないことはわかっているのだが、今さら春川に隠しても仕方ないと思い、了の話を簡単に伝える。
「なるほどねぇ」
春川は何も言わずに聞いていたが、水無瀬が話し終えると顔をあげた。
「それで?水無瀬は何をグダグダしてるわけ?重くて嫌になっちゃったとか?」
「重いとか嫌とかそういうのじゃなくて...ただ、これ以上俺が関わって良いのかわからなくなった。もう了くんに傷ついてほしくない」
「俺じゃ幸せにできないーとか思っちゃってるんだ?」
「そう...かもしれない」
唇を噛み締める水無瀬を見て、春川は床に座ったまま、ソファに背を預ける。ため息のあとに聞こえた春川の次の言葉は予想外のものだった。
「ばっかじゃないの」
吐き捨てるようにそう言い放った春川に驚いて目を見開く。普段はあまりこういうことを言わないだけに、向けられた言葉が重く響く。
「それって、ただ水無瀬が怖いってだけでしょ。自分のせいで傷つけたくない、なんて結局自分のための言い訳じゃん。了くんのことなんか何も考えてない、ただの自分勝手なんじゃないの」
「......っ!」
「今のままだったら、了くんはこれからもよく知りもしない男達に身体開くんだよ。それでもいいの?」
「っ良い訳ねぇだろ」
「じゃあ、お前は了くんにどうなってほしいわけ?笑っててほしい、幸せになってほしい。そういうのじゃないの?」
いつになく勢い込んで畳み掛けてくる春川に気圧されながらも、黙って頷く。そんな水無瀬を見て、春川は語気を緩めた。
「そうなったときに隣にいるのが他の男でもお前は喜べるのかよ」
「っ......」
そんなの答えなんかわかりきってる。
むりだ、喜べるわけない。作り物の色気の吹っ飛んだ無邪気な笑いも、安心しきって緩んだ顔も、全部俺だけのものであってほしい。他の男にそれを向けるところなんか見たくない...
「お前、すげぇな...」
「...急にどうしたの」
ほんとに...こいつには敵わない
自然と頬が緩んで、ふっと笑いが漏れた。
「悩んだ俺がバカみたいじゃねぇか」
「うん、バカだよ。ずっと前からね。やっと気づいたんだ」
そう言う春川の声が優しくて、別のことを言っているのだと気がついた。ずっと心配をかけ続けていたのだろう。
俺が立ち止まってたことにこいつはとっくに気が付いていたんだ...
「ありがとな...」
「......?それより、ちゃんと了くん掴まえなよ?」
ひとの感謝の言葉なんか思いっきりスルーの春川に苦笑いする。
「あぁ、わかってる」
今度こそ、ちゃんと了くんと向き合おう
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