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第1章
いかないで
しおりを挟む(水無瀬side)
アパートの部屋の明かりはついていた。
よかった、いる...
もしいなかったら、その理由を考えて心が重くなっていただろう。ゆっくりとドアに近づき、表札を確認すると、高梨、と書かれていた。
高梨了、か。そういえば、名字知らなかったな
インターホンを押すと、中からチリリと音が漏れ聞こえた。
反応はなかった。
もう一度インターホンを鳴らすが、それでも反応はない。
「了くん、水無瀬だけど。マスターが心配してたから様子見にきたんだ。いたら、出てきてくれないか」
もしかして、明かりを付けたまま出掛けたのだろうか。
-と、微かに中で物音がした。
ガチャン
「了く.........おわっ!」
ガッとドアが開いたと思ったら、了が倒れこんできた。とっさに腕を出して、なんとか受け止める。
「了くん!?」
「みな...せ...さん?...なん、で......」
了の身体は熱く、顔は赤い。それなのに僅かに震えていて、高熱を出しているのは明らかだった。
「っ、ごめん、中入るよ」
了を抱きかかえ、部屋の中に入る。
「......っ」
軽すぎる...
今にも折れるんじゃないかと思うくらいに、頼りない身体だった。マスターの心配は当たっていたというわけだ。
とりあえずベッドが見えたので、そこに了を寝かせる。足の関節が痛むらしく、上がった息に混じって小さな呻きが聞こえた。
勝手に風呂場から持ってきたタオルを濡らし首の後ろに当てると、了は少しだけ心地良さそうに目を細めた。熱のせいで脱水になっているのがわかったので、何か飲ませようとキッチンを覗くが、何も見当たらない。仕方なく水道水をグラスに注ぎ、持っていく。
ほとんど眠りかけていた了を片腕で抱き起こした。
「了くん、眠る前に少しでも飲んだ方がいい」
「ん......」
口元にグラスを持っていく。意識が朦朧としているのか、上手く飲み込めずに口の端から水が零れ落ちる。
なんとか空になったグラスを口から離そうとすると、手首を掴まれた。その手は微かに震えていて、ほとんど力がこもっていなかった。
「...ないで」
「ん?」
「いか、な...で..」
「どうした?」
「置いてっ...ちゃ......や、だ...」
あまりに唐突な言葉に戸惑う。
なにを言ってる...?
了の目からポロポロと涙が溢れてきて焦りが沸き立つ。慌ててグラスを脇におき、両手で了の顔を優しく挟み込んで言った。
「ここにいるよ。どこもいかないから」
「ほ、んと......?」
「あぁ、ほんとに」
了は安心したのか、大きく息をついて目を瞑った。それを見て、もう一度ベッドに寝かせる。しばらくして寝息をたて始めた了からそっと離れた。
部屋を見回すと、ベッドのほかに小さな一人掛けのソファとテーブルがある以外には物が一切ない。キッチンに行き、冷蔵庫を開いてあ然とした。
...は?これだけ?
ヨーグルト一つとコンビニのおにぎり二つが入っているだけだった。
あいつ今までよく生きてたな
薬も飲み物も食べ物もないのではどうしようもない。了が当分起きなさそうであることを確認して、買い物に出た。
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