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第1章
俺の価値 *
しおりを挟む目が覚めると男は消えていて、趣味の悪い天井が視界に広がる。ベッドから起き上がり、床に脱ぎ捨ててあった上着のポケットを確認すると、そこには一万円札が四枚入っていた。昨日、事に及ぶ前に男から受け取ったものだ。
これが俺の値段。俺の価値。
後ろからぐぷっという音をたてて、男の置き土産が漏れ出してくる。慣れてはいても、気持ちの良いものではない。はぁ、とため息をついて、痛む腰をかばいながらシャワーに向かった。
ホテルを出て、近くにあったハンバーガーショップに入る。平日の十時というなんとも微妙な時間であったから、客はほとんどいない。狭い店内の端っこに座り、買ったものには手もつけずにぼんやりと外を眺めた。
通りをサラリーマンの人たちが数人歩いていく。子連れで買い物に来たらしい母親も歩いていた。
彼らは真っ当に生きている人たちだ。俺とは違う...
店内の暖かさのためか、ほとんど溶けてしまったシェイクを口に含む。甘く心地よい冷たさに目をつぶった。
見た目同じようなもんなのに、男のあれよりずっとましだな
そんなふざけたことを考えていると、サラリーマン三人が了の横を通りすぎて奥の席に座った。
「あれどう思う?」
「完全に事後です、って顔だろ、ありゃ」
「あはは、しかもやられた側だな。この辺そういう奴結構いるっていうし」
「おまえ、今フリーだったろ。やらせてもらえよ」
人のいない店内というのは、話し声がよく響くもので、その会話は了はもちろん、店員にまで届いた。
男たちの会話に店員のヒソヒソという声が加わり、いたたまれなくなって店を出る。
別に何を言われようと構わない。男たちの言っていたことは間違ってないし、金さえくれれば彼らともするだろう。
...にしたって、さっきのはちょっとアウェーすぎるな...
そこまで開き直るほどの勇敢さは持ち合わせていない。小さく苦笑いして、うつむいたまま、足を踏み出した。
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