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第1章
失くしたくない
しおりを挟む「......くん、石川くんっ」
「え、あ、はいっ」
理久の忠告はガン無視で放課後いつも通り、真生のピアノを聴いていた。真生から離れるつもりなんてない。それなのに、理久の言葉が頭のなかでループする。つい考え込んでしまっていたようだ。
「なんかボーッとしてる。具合悪い?」
「全然。めちゃくちゃ元気ですよ」
真生は納得いかないという顔をする。何か言おうとしたのを遮った。
「ちょっと聴き逃しちゃったんでもう一曲弾いてください」
「...いいよ」
微妙な表情のまま真生はピアノに向き直る。すこし迷ってから弾き出したのはピアノ曲ではなく、流行りのJ-POPだった。
真生の横顔をぼんやりと眺めながら考える。約束でもしない限り、真生とここ以外で会うことはない。理久の忠告通りに自分が真生から離れれば、そのまま関わりはなくなる。だけどもし、このまま理久の忠告を無視し続けたらどうだろうか。
......あの人はほんとにばらすだろうな
口先だけの脅しだとは思えなかった。そうなったとして真生はどう思うだろう。理久の言葉を信じて拓斗から離れていくかもしれない。
どっちにしたって失くすのか...
佐々井や佐倉だって離れていくかもしれない。なにもかも失う痛みはもう十分だった。
どうしたらいいだろう...
ふと、ピアノを弾き終えてこちらをじっと見つめている真生の視線に気がついた。考え事をしていたことを誤魔化すように言葉を探す。
「...あの、めずらしいですね。クラシックじゃない曲」
「...昼休みに放送で流れてたから耳コピしてみた。それより...」
「一回聴いただけで弾けるんですか」
「...っ石川くん!どうしたの、なんか変だよ......」
拓斗の手をにぎり、不安そうな目で顔を覗き込んでくる。真っ直ぐに拓斗を見つめるその視線に胸が苦しくなった。
あぁ、やっぱり......失うとしても自分から手を離すなんてありえない
真生の手を強く握り返し、俯いて大きく息を吐く。
「すいません、ちょっと考え事してました。でも大丈夫ですよ」
「...でもっ」
真生の手を引っ張って、バランスを崩した真生の身体を受け止める。そのまま抱き締めた。真生の肩に顔を埋めたまましばらくじっとしていた。
「い、しかわくん.....?」
いつも通りの真生が見たいと思った。そっと身体を離し、真生を見てにやりと笑ってやる。
「先輩、いい匂いする」
「なっ......」
ほら、もう真っ赤。
「そうだ、佐々井と佐倉がまた遊びに来てって言ってました」
「うそ......」
真生の目が見開かれる。ポカンと口を開けたまま固まってしまった。
「なんでそこで疑うんですか」
「だって...だってっ......」
「次いつがいいですか。俺らいつもあんな感じだからいつでもいいんで」
固まったままの真生を見て首をかしげる。
「......それとももう嫌ですか?」
「違うっ、嫌じゃない。というか、あの...」
「......?」
「俺、ああいうの初めてで...すごい楽しくて......もう次なんかないかなって思ってた、から...」
照れたように笑う真生に、昼間の理久の言葉を思い出す。
『真生はセックス抜きで周りと関係築ける子じゃない』
理久先輩、あんたは間違ってるよ
「いつでも来てください。楽しみに待ってるんで、真生先輩」
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