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第1章
忠告
しおりを挟む「石川ー、お客さん」
教室で佐々井と佐倉と話していたときのことだった。クラス全体がざわつく。クラスメイトの呼び掛けに振り向くと、ドアのところに立っていたのは理久だった。
「うそ、理久先輩じゃん...!」
「おまえなんかしたのか」
「いや......心当たりないんだけど」
ひそひそ声で話してくる二人を置いて、ドアの方へ行くと、にこにこと愛想のいい笑みを浮かべた理久が口を開く。
「石川くんだよね?」
「はい」
「ちょっと話したいんだけど今いいかな」
「大丈夫ですよ」
ここじゃなんだから、と言って近くの資料室に連れていかれる。中に入り、積み上げられていた椅子を適当に取って座った。向かい合うように理久も腰を下ろす。
「この間、真生がお邪魔したみたいで」
「あぁ、いえ。俺が誘ったんで」
「真生、最近なんか楽しそうなんだ。石川くんのおかげ?」
「それはわかんないすけど......」
真生は拓斗のことをどこまで理久に話しているのだろうか。ピアノのことを隠したがっているから、そこでのことはきっと伝えていないはず。
「......石川くん、真生に関わらないでくれるかな」
「......は?」
唐突な理久の言葉に固まる。
「...っ急になんなんですか」
「真生はさぁ、石川くんに優しくされて勘違いして舞い上がってるんだよ。余計な期待させないであげて?」
なんだよ、それ...
「俺はいい加減な気持ちで真生先輩と関わってるわけじゃない」
「真生はセックス抜きで周りと関係築ける子じゃない。石川くんみたいにきれいなふりして近づいてくる人に免疫がないんだよ」
「あんた頭おかし....」
「俺は真生が心配なんだ」
真剣な目をした理久と目が合う。話し方も振る舞いも落ち着いた、感じのよいいつもの理久の調子だ。でもその裏に違ったものがあるのを感じ取った。
これが"完璧な生徒会長様"ね...
「心配されなくても、俺は真生先輩のこと大切にしますよ」
拓斗の言葉に理久の口元に意味深な笑みが浮かんだ。
「石川くん、中学卒業してないよね」
「......」
「退学になってる。父親のお金と力でここ来たんでしょ?別にそういう人結構いるし、それはいいんだけど...」
理久がにっこりとわらう。
「なんで退学になったの?」
「......知ってて聞いてますよね」
合わせた手を口元にあて、小さなため息をつく。
こんなところにまでまとわりついてくるのか......
「女性教師レイプしたんだっけ?」
わかってるくせに、いちいち訊くなよ.....
「そんなやつに真生と関わってほしくない」
込み上げてくる吐気を堪え、声を絞り出す。
「真生先輩にそんなことしません。俺はあの人を大事にしたい」
「そうやってきれいなふりしても君の中身が変わるわけじゃないから」
それに、と理久が続ける。
「みんなに知られたくないでしょ?」
真生先輩から離れなきゃばらすぞってことか...
悪意なんて欠片もなさそうな爽やかな笑みを浮かべながら話す理久にぞっとした。
「......別にいいですよ」
「入学前のことで学校として処分はしない。けど、暮らしにくくなるんじゃないかなぁ。平和に過ごしたいでしょ?まぁよく考えて」
そういって理久は資料室を出ていった。しばらくそのまま座っていたが、吐気に耐えられなくなり、資料室を飛び出してトイレで吐いた。
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