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第1章
真生の秘密
しおりを挟むビクッと身体を震わせて、慌てたように真生が振り向く。目元に涙を溜め、頬に流れた跡をつけたままの顔で。
「あ...な、んで...?」
「勝手に入ってすいません。通りかかったらピアノの音聴こえたんで、つい」
そう言ってピアノの傍へ歩いていくと、真生は涙を拭って椅子から下りて拓斗の足元に座る。それから震える手で拓斗の左足にすがり付くようにして言う。
「お願い...このこと誰にも言わないで...なんでもするからっ」
「......」
なんでこんなに怯えるのか理解できず、見下ろしたまま固まってしまう。それを真生は勘違いしたようで再び泣きそうになりながら言葉を続ける。
「俺のこと好きにしていいからっ...お願い...」
そう言って、制服のネクタイに手をかける真生を見て、とっくに忘れていた佐倉の話を思い出す。慌ててしゃがんで、真生の手をつかむ。
「ちょっ、ストップ!なにしてんすか!」
「俺としたくない...?」
「なんでそんな必死なのか知らないですけど、そんなことしなくても誰にも言わないですよ」
「ほんと...?」
「ほんとです」
不安そうな顔をする真生を見て、つい頭にぽんと手をのせた。きれいな黒髪はさらさらとしていて手に気持ちいい。真生は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに心地よさそうに目を瞑った。ゴロゴロと喉を鳴らす猫のようで思わず微笑む。
「それより」
頭に置いていた手をするっと沿うよう動かして頬を包むようにし、親指で閉じられた目の下をなぞる。
「なんで泣いてたんですか」
「...内緒」
そっぽを向いて呟くように言う真生を見て、それ以上訊いても答えないに違いないと感じとる。
「じゃあ質問変えます。さっきみたいなことよくするんですか?」
「セックス?」
「まぁ...」
「するよ。俺が役に立てるのそれくらいしかないから」
意味がわからず首をかしげると、真生はそれを見て笑う。
「理久はさ、完璧な会長じゃん?理事長の孫として、南城家の後継としてあんなにぴったりな人いない。俺は勉強も運動も大してできないからね、南城でいさせてもらうために、少しでも使える道具でいないといけないの。俺の取り柄って見た目と股の緩さくらいしかないからやれって言われればいくらでもするよ」
「見た目って自分で言うんですね」
事実でしょ?と言って真生が笑う。少しだけ楽しそうな笑顔にドキッとした。
「ピアノは趣味ですか?」
「まぁそうかな。才能ないからってやめさせられちゃったんだけど、どうしても離れられなくて隠れてここに弾きに来てるの。だから秘密にしてね」
唇に人指し指を当てていたずらっぽく笑う。さっきまで泣きそうな顔をしていたくせに、コロコロと表情の変わる人だなと思う。
「才能とかわかんないですけど、先輩のピアノ好きですよ」
ふっと顔を赤くして戸惑ったように笑いながら言う。
「変わってるね」
「俺がですか?言われたことないけどな...」
「ここの人達は、俺のことセックス人形くらいにしか思ってないから、ヤらせろって近づいてくるか、ビッチだって軽蔑してるかどっちかだよ。だから君みたいに俺に話してくる人はいない」
それって...辛くないのだろうか
訊きたかった。でも真生は笑いながら話すから、その疑問は喉につっかえて出てこなかった。
「...先輩、毎日ここ来るんですか」
「んー、金曜日は生徒会あるからそれ以外の日かな。土日はバレないで寮抜け出せればって感じ」
「また来てもいいですか」
真生が固まる。それからなんとも言えない微妙な笑みを浮かべて言う。
「あんまりこの部屋でしたくないんだけど...」
「なんでそういう思考回路になるんですか。普通に会いに来たいんです」
「......名前は?」
「石川拓斗です」
「石川くん...ほんとに変だね。いーよ、いつでも来て。あ、でも他の人に見つからないようにしてね」
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