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手料理を食べてもらおう
しおりを挟む料理をするにあたって一番緊張するのは、自分の料理を食べたことのない人に初めて振る舞う瞬間だ。エリアスさんは生姜焼きを食べたことがないのか、不思議そうな表情でフォークで豚肉を持ち上げる。
タレがたっぷりと絡んだ香ばしく焼けた生姜焼きは見ただけで食欲を湧き立たせる。大丈夫。きっと美味しいはず。そう思ってもやっぱり不安でソワソワとしてしまう。
エリアスさんが生姜焼きをパクリと食べた。どうか美味しくありますように。そう祈っていると突然エリアスさんのサファイアみたいな綺麗な瞳が見開かれ、驚いたように私のことをじっと見つめてくる。
喋りたいけど食べる方を優先したい。そんなことを思っているのか口をもぐもぐと動かしながら、お皿に乗った生姜焼きを指差して何かを伝えようとしてくる。
なるほど。これがギャップ萌えというやつか。普段は穏やかに笑みを浮かべる王子様のようなエリアスさんが、キラキラとした目で美味しいと訴えてくるのは可愛すぎてキュンキュンする。
「ハルカ! これはなんですか! 凄く美味しいです!」
ようやく飲み込んだエリアスさんは立ち上がるとお皿を持って興奮気味にそう伝えてくる。その姿はかなりのオーバーリアクションで、家族も今までお付き合いした彼氏だってこんなに良い反応をしてくれたことはなかった。
「それは私の故郷の料理で生姜焼きといいます。気に入ってくれましたか?」
「はいっ! 今までステーキが一番好きでした。でもこれからはハルカの作ったショウガヤキが一番です!」
エリアスさんの生姜焼きのイントネーションがなぜか英語のようで思わず笑ってしまった。そんな間にも椅子に座り直したエリアスさんは凄い勢いで生姜焼きを平らげていく。
料理した人にとって何よりも嬉しいのは美味しく食べてくれることだ。その点で腹ペコの男子高校生のような勢いで食べてくれるエリアスさんには、私から百点満点をあげたい。
……私の生姜焼きが一番か。そんなことを言われたら困っちゃうな。はぁ。私ってこんなにチョロい女だったっけ?
「どうしたんですか? 食べないならハルカの分も僕が食べてしまいますよ?」
「エリアスさんの食べっぷりが気持ちよくて見入ってました。私も食べますね」
今更思い出したけど味見することを忘れてた。今回はエリアスさんの様子から失敗してはなさそうだけど、まさか味見を忘れるなんて我ながら信じられない。
そのことを反省しつつ生姜焼きを一口食べると、私は取れちゃうんじゃないかってくらい目を大きく見開いた。
なにこれうまっ! 生姜焼きのガツンとした味付けに肉の味が全く負けてない。それどころかタレが引き立て役に回るくらいに脂の旨みが際立っている。オークって凄い。
さっきまで自分の中にあった甘酸っぱい雰囲気が吹き飛ぶほどの美味しさに、私は夢中になって生姜焼きを頬張る。
自分の中の冷静な部分がそんなんだから彼氏ができなかったんだと責めてくるけど仕方ないでしょ。そもそも今回料理したのも私が美味しいご飯を食べたいって理由だったんだから。
生姜焼きが半分になった頃に私は悪魔的な考えを閃いてしまった。キッチンから波打ったパン切り包丁を持ってくると、今まで手をつけていなかった丸パンを真ん中から真っ二つにする。
そこに余った生姜焼きとキャベツを挟めば即席のハンバーガーの完成だ。タレを溢さないように慎重に齧る。
うん、美味しい! パンが硬いのが残念だけど生姜焼きのタレを吸ったお陰かマシになってる。何より炭水化物とお肉の組み合わせは正義だ。
「ずるいですハルカ。僕もそれをやりたいです」
「ふふ。それならエリアスさんのパンも切りますね」
子どものような表情で拗ねるエリアスさんが可愛くて笑ってしまう。パンを切ると笑顔でありがとうと言って私と同じように生姜焼きを挟むエリアスさん。
どうやらご飯が絡むとエリアスさんは少し幼くなるみたい。人によると思うけど私は男の人が少年のように元気いっぱいご飯を食べる姿が大好きだ。
目を細めながら幸せそうにハンバーガーを食べるエリアスさんの姿にこっちまで幸せになってくる。食べ切ってしまい寂しそうにお皿を見つめる表情なんて私のツボ過ぎて困る。
「おかわり持ってきますね」
「はいっ! お願いします!」
私の言葉に顔をパァッと輝かせたエリアスさんの後ろにブンブンと振られる尻尾が見える。食事の時の無邪気なエリアスさんを、心の中でワンコと呼ぼう。
その後もワンコは三回もお代わりして幸せそうな表情をしていた。もう食べれないみたいだけど生姜焼きがまだ少し余っている。
それを伝えると持って帰ると元気よく言うので余りは全てお土産になった。それを持ってホクホクと嬉しそうに帰ったエリアスさんに、私は恩返しが成功したようで良かったとホッと胸を撫で下ろすのだった。
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