15 / 18
未知の食材を前に宇宙猫化する私
しおりを挟む食材を見て決めよう。そんな私の砂糖菓子くらい甘い考えは市場に着いた途端に粉々に砕け散った。
「……これはなんでしょうか」
「それはルルの葉ですね。瑞々しくてエグみが少ないのでそのまま食べるのに向いています」
「ではこれは?」
「ググラの根です。少し辛いのですが香りが良いので臭み消しによく使われますよ」
とりあえずと近くのお店に向かうと早速私は異世界の洗礼を受けた。どこを見てみても何一つ知っている野菜が無かったのだ。
中には真っ青な木の棒みたいな植物や、どう見ても毒があるようにしか見えない真っ赤に白い斑点模様のキノコなんかも置かれている。
あまりに見慣れない野菜ばかりのお店に私の思考は完全にストップしてしまった。周囲の人には私の周りに広がる宇宙が見えていたと思う。
それでも手料理を所望されてしまった手前、辞めるわけにはいかないとエリアスさんに野菜の説明を頼むと、中には知ってる野菜に近いような物も存在していた。
例えばルルの葉なんかは黄色いけど形はキャベツに似ているし、ググラの根は何となく生姜に近い気がする。味が全く違う可能性もあるけど聞いた限りでは遠くなさそうだ。
とりあえず試しだと気になった野菜を買って次に向かったのはお肉屋さんだ。テーブルにはドンと塊肉が置いてあって、衛生的に大丈夫なのかと心配になるけど傷んでいる様子はなくて、それどころか綺麗な霜降りが宝石のように輝いて見えた。
「あれはなんのお肉ですか?」
「オークの肉ですね。魔物ですがとても美味しくて食用肉の代表といえます」
オーク! オークってやっぱりファンタジー作品でよく見る豚の頭で二足歩行のあのオークかな。そう言われると手が伸びにくいけど塊肉の状態では美味しそうな豚肉にしか見えない。
「エリアスさんはオークのお肉は好きですか?」
「大好きです」
そう答えたエリアスさんの言葉には力がこもっているように聞こえた。これは本当に大好物なんだなと今日のメインはオーク肉に決める。でもオーク肉って言うとなんか怖いから豚肉ってことにしとこ。
よし。それなら献立は決まったぞ。男の人ならきっと好きであろう生姜焼きにしよう。ルルの葉にググラの根、面倒臭いからキャベツと生姜でいいや。その二つはあるから他に必要なものを探す。
醤油は無かったけど魚醤はあったので代用することにした。臭みは生姜を多めに入れることで解決するはず。
砂糖もあったけど地球に比べて驚くほどに高かった。向こうでは一キロで三百円程度だったのが懐かしい。それでも背に腹は代えられないと買うことにする。
しかしここで私はとある重大な欠陥に気づいた。どのお店にも見当たらなかったのだ。そう。お米が!
お米がないなら当然お米から作られる料理酒やみりんもない。その時点で完全な生姜焼きを作るのは無理だけどそこは我慢しよう。でもお米そのものがないのは許せない。生姜焼きにはほかほかご飯だと日本の法律でも決まっているのだ。
「エリアスさん。お米って知りませんか? 小さくて白い粒みたいな穀物なんですけど」
「白い粒みたいな穀物……。それに似た物ならここから東に向かった位置にあるウェルシュリア帝国、そこより更に東にある小さな国で栽培されていた気がします。ですがさすがにリストロープの街までは流通してませんね」
そんな。私は足元が崩れるような衝撃を受けていた。日本人としてお米がないのは由々しき事態だ。
実際は私もお米を毎日食べていた訳ではなくパンや麺に浮気をしていた時も多々あった。それでも無いと言われるとお米が無性に食べたくなるのは日本人としてDNAに刻まれてしまっている。
「泣きそうな顔をしていますが大丈夫ですか? お米がハルカにとってそこまで大切なら商人に頼んで仕入れてもらうのも手ですよ。割高になってしまうとは思いますが」
絶望の余り地面に膝を突きそうになる私をエリアスさんの声が踏みとどまらせてくれた。そうだ。お米がこの世界にない訳ではないんだ。栽培してる場所が分かるならエリアスさんの言う通り取り寄せて貰えばいい。
幸い治癒魔法師という高給取りになれたんだから色々と問題が解決したら私はお米を取り寄せるぞ! だからとりあえず今日はパンにしておこう。なんだかんだ生姜焼きにパンでも美味しいだろうしね。
立ち直った私は市場のパン屋で丸パンを多めに買って帰路についた。落ち込んだり嬉しそうにしたり忙しい私をエリアスさんは不思議そうに見ていた。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。
花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。
フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。
王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。
王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。
そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。
そして王宮の離れに連れて来られた。
そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。
私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い!
そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。
ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる