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未知の食材を前に宇宙猫化する私

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 食材を見て決めよう。そんな私の砂糖菓子くらい甘い考えは市場に着いた途端に粉々に砕け散った。

「……これはなんでしょうか」

「それはルルの葉ですね。瑞々しくてエグみが少ないのでそのまま食べるのに向いています」

「ではこれは?」

「ググラの根です。少し辛いのですが香りが良いので臭み消しによく使われますよ」

 とりあえずと近くのお店に向かうと早速私は異世界の洗礼を受けた。どこを見てみても何一つ知っている野菜が無かったのだ。

 中には真っ青な木の棒みたいな植物や、どう見ても毒があるようにしか見えない真っ赤に白い斑点模様のキノコなんかも置かれている。

 あまりに見慣れない野菜ばかりのお店に私の思考は完全にストップしてしまった。周囲の人には私の周りに広がる宇宙が見えていたと思う。

 それでも手料理を所望されてしまった手前、辞めるわけにはいかないとエリアスさんに野菜の説明を頼むと、中には知ってる野菜に近いような物も存在していた。

 例えばルルの葉なんかは黄色いけど形はキャベツに似ているし、ググラの根は何となく生姜に近い気がする。味が全く違う可能性もあるけど聞いた限りでは遠くなさそうだ。

 とりあえず試しだと気になった野菜を買って次に向かったのはお肉屋さんだ。テーブルにはドンと塊肉が置いてあって、衛生的に大丈夫なのかと心配になるけど傷んでいる様子はなくて、それどころか綺麗な霜降りが宝石のように輝いて見えた。

「あれはなんのお肉ですか?」

「オークの肉ですね。魔物ですがとても美味しくて食用肉の代表といえます」

 オーク! オークってやっぱりファンタジー作品でよく見る豚の頭で二足歩行のあのオークかな。そう言われると手が伸びにくいけど塊肉の状態では美味しそうな豚肉にしか見えない。

「エリアスさんはオークのお肉は好きですか?」

「大好きです」

 そう答えたエリアスさんの言葉には力がこもっているように聞こえた。これは本当に大好物なんだなと今日のメインはオーク肉に決める。でもオーク肉って言うとなんか怖いから豚肉ってことにしとこ。

 よし。それなら献立は決まったぞ。男の人ならきっと好きであろう生姜焼きにしよう。ルルの葉にググラの根、面倒臭いからキャベツと生姜でいいや。その二つはあるから他に必要なものを探す。

 醤油は無かったけど魚醤はあったので代用することにした。臭みは生姜を多めに入れることで解決するはず。

 砂糖もあったけど地球に比べて驚くほどに高かった。向こうでは一キロで三百円程度だったのが懐かしい。それでも背に腹は代えられないと買うことにする。

 しかしここで私はとある重大な欠陥に気づいた。どのお店にも見当たらなかったのだ。そう。お米が!

 お米がないなら当然お米から作られる料理酒やみりんもない。その時点で完全な生姜焼きを作るのは無理だけどそこは我慢しよう。でもお米そのものがないのは許せない。生姜焼きにはほかほかご飯だと日本の法律でも決まっているのだ。

「エリアスさん。お米って知りませんか? 小さくて白い粒みたいな穀物なんですけど」

「白い粒みたいな穀物……。それに似た物ならここから東に向かった位置にあるウェルシュリア帝国、そこより更に東にある小さな国で栽培されていた気がします。ですがさすがにリストロープの街までは流通してませんね」

 そんな。私は足元が崩れるような衝撃を受けていた。日本人としてお米がないのは由々しき事態だ。

 実際は私もお米を毎日食べていた訳ではなくパンや麺に浮気をしていた時も多々あった。それでも無いと言われるとお米が無性に食べたくなるのは日本人としてDNAに刻まれてしまっている。

「泣きそうな顔をしていますが大丈夫ですか? お米がハルカにとってそこまで大切なら商人に頼んで仕入れてもらうのも手ですよ。割高になってしまうとは思いますが」

 絶望の余り地面に膝を突きそうになる私をエリアスさんの声が踏みとどまらせてくれた。そうだ。お米がこの世界にない訳ではないんだ。栽培してる場所が分かるならエリアスさんの言う通り取り寄せて貰えばいい。

 幸い治癒魔法師という高給取りになれたんだから色々と問題が解決したら私はお米を取り寄せるぞ! だからとりあえず今日はパンにしておこう。なんだかんだ生姜焼きにパンでも美味しいだろうしね。

 立ち直った私は市場のパン屋で丸パンを多めに買って帰路についた。落ち込んだり嬉しそうにしたり忙しい私をエリアスさんは不思議そうに見ていた。
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