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金髪にイメチェン
しおりを挟む異世界に来てから一週間が経ってミザリア治療院が休診日のこの日、私は爆発しそうな不満をどうしようか悩んでいた。
「美味しいご飯が食べたい」
ここ一週間ずっと例の薄味のスープを食べていた私はとうとう我慢の限界が来てしまった。
もっともあのスープは権力者問題で不用意に外に出れない私のために、クリストファーさんが好意で用意してくれているものだ。
本来なら病院食なのだが、私がここに来てから現在までミザリア治療院に入院している患者は一人もいない。つまりあれは私だけのために作られているスープ。
好意の塊であるご飯に対してケチをつけるなんて酷いことだって分かってるよ。でもクリストファーさん本当にごめん。私、お肉が食べたい!
そんなことをオブラートに何重にも包んでクリストファーさんに言ってみたけど、返ってきた返事は意外なものだった。
「すまんがワシはあれしか作れんよ」
ほっほと笑いながらそう言ったクリストファーさんに思わずズッコケそうになった。しかし話を聞いてみればこの世界ではそういう職業でもない限り、男性が料理をすることはまずないそうだ。
「ハルカちゃんが料理できるなら自分でやるのも手かもしれんのう」
「料理ならある程度はできます。でも食材を買いに行くとか私が外に出るのは大丈夫なんですか?」
自慢ではないが私の趣味は料理だった。なぜ過去形なのかというと何年も料理をしていなかったからだ。人に作るのならやる気も起きるけど、自分一人のために作るのは面倒なんだよね。
社会人になる前の私は将来の旦那や子どものためにと頑張っていたのに、いつの間にかスーパーではなくコンビニにしか行かなくなっていた。でもきっと体が包丁捌きを覚えてくれているはず!
「ふむ。それなら確か丁度いいのがあったはずじゃのう」
そう言ってどこかへ行ったクリストファーさんは、小瓶に入った何やら金色の怪しげな液体を持ってきた。どう見ても体に良くなさそうなケミカルなその液体をどうするつもりなんだろう。
「これは変色水といって髪の色を変えれる魔道具じゃよ。様々な色があるんじゃが今あるのは金だけじゃった。ハルカちゃんの黒髪という特徴を消せば、外に出ても大丈夫だと思うが」
「それ大丈夫なんですか? なんか変な副作用とかありません?」
気軽に髪の色を変えられるのは面白そうだけど頭皮が荒れるとかなら使うのは嫌だ。女でも薄毛は起こるようだし、お父さんの頭事情を知っている私は頭髪関係に敏感だった。
「特に副作用はないのう。しいて言うなら効果の持続時間が一日ということじゃな。二十四時間経てば自動で元に戻ってしまう」
「それなら大丈夫そうですね。でも使って良いんですか?」
「構わんよ。これはワシの知り合いの魔道具屋が開発した物での。試供品として貰ったんじゃがジジイには縁のない代物だから忘れておったわ。使い方は髪油のように髪に馴染ませれば良いらしい」
「なら遠慮なく使わせて貰います」
早速変色水を手に取って髪に付けてみる。すると筆が絵の具を吸うように私の黒髪が綺麗な金髪に変わってしまった。
しかもそれだけではなく心なしか指通りも滑らかになっていて、気になっていた枝毛も無くなっている。
これ凄い。地球で売られてたら女なら全員買うレベルだ。思わず控え室に置かれている鏡を見ると、そこには元々そうだったみたいに綺麗に金髪に染まった私がいる。
大学生の時に茶髪にしたことはあるけど金髪は今までの人生で一度もない。なんだか生まれ変わったようで気分が上がってきた。
「ハルカちゃんは綺麗な顔立ちをしているから金髪も似合うのう」
「やだクリストファーさん。揶揄わないでください」
お世辞だろうけど綺麗と言われたのは本当に久しぶりで照れてしまう。そのせいか来客が来ていた事に私は全く気づかなかった。
「失礼します。クリストファー先生。ハルカの様子はどうですか?」
突然聞こえてきた声に振り返るとそこには休みなのか私服姿のエリアスさんが立っていた。久しぶりに会ったエリアスさんだけど、実際は何度か私の様子を見にきてくれていたみたいだ。
でも私も治癒魔法師として働いていたせいで忙しく会うことはなかった。いつもの騎士姿もカッコいいけど、白を基調とした私服姿のエリアスさんは王子様のようにキラキラとしている。
「ハルカ? その髪はどうしたんですか?」
そういえば私は金髪にしていたんだった。後ろ姿では気付かなかったようで、振り向いた私を見てエリアスさんはビックリしている。
「お買い物しに行こうと思ったんですけど黒髪だと黒の聖女だって見つかりそうで。その時クリストファーさんが変色水をくれたんです。変ですか?」
やっぱり西洋風な顔立ちのエリアスさんと比べて、純日本人な顔立ちの私が金髪なのは変な気がする。そんな私を見てエリアスさんは、その綺麗な顔を柔らかく崩して笑顔を浮かべた。
「全然変じゃありません。似合っていてとても綺麗です」
はぁ。この人は本当に。私は思わずニヤけそうになる顔を見せないようにそっぽを向くので精一杯だ。
自分でも真っ赤になってるのが分かるくらいに顔が熱い。どうか気づかれませんように。照れ臭さを紛らわすように髪の毛を指でイジりながら、私はそう祈ることしかできなかった。
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