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リストロープの街
しおりを挟む空から見えた大きな街が目的地だったようで、近くで降りた私とエリアスさんは街へと続く道を進んでいく。リンちゃんは自分で家に帰るそうで可愛い上にお利口さんなんて本当に凄い。
街に入る時にエリアスさんは衛兵の男性と言葉を交わしていた。そのおかげか私も特に検査をされることなく門を通してもらえて、詳しいことは分からないけど私の身元を保証してくれたみたいだ。
こうして私はようやく文明を感じる場所に来ることができた。それが嬉しくて涙が出そうになる。森の中で餓死することにならず本当に良かった。
「ここがリストロープの街です。ようこそ僕の住む街へ」
私を気遣ってかゆっくり歩くエリアスさんの後を着いて行く。リストロープの街は私がイメージする異世界の街そのものだった。中世ヨーロッパのような街並みと街をぐるりと囲む大きな壁。
すれ違う人の中にはファンタジーな種族も沢山いて、厳つい顔した筋肉ムキムキのおじさんの頭に猫耳があった時は吹き出しそうになってしまった。
あのおじさんは語尾に「にゃ」とか付けるのかな? そんなことを考えていると遠くの方から大きな音と悲鳴が聞こえてきた。私はエリアスさんと顔を見合わせて頷くと騒がしい方に向かって走り出す。
何があったか分からないけど早く現場に向かおう。そう思い全力で走っていた私だったけど騎士と運動不足の三十前の女じゃ相手にならない。とにかくエリアスさんが早すぎた。
あっという間に小さくなった背中をなんとか必死で追いかけた私は、目の前の光景を見てキュッと心臓が締め付けられる。
大きな通りで事故が起きていた。馬車が大きく道を外れて止まっていて、何かを避けようとしたのか地面には急カーブしたような車輪の跡が残っている。
そんな事故現場に大量の血を流したまだ幼い女の子が倒れていた。
少女の近くにエリアスさんがいて周りの野次馬たちに指示を出しているのが、やけに遠くなった私の耳に聞こえてくる。
救急車を呼ばなきゃ。慌ててスマホを取り出したけど、すぐにここが異世界だったことを思い出した。それならあの子は助からないのだろうか? 私は見ているだけしか出来ないのか?
そんなのは絶対に嫌だ。
そう思った時、私の中に小さいけれど温かい光のような感覚が生まれる。それが何かは分からないけど、気づいたら私は今にも死にそうな少女の元へ駆け出していた。
「そこの貴方は急いで治療院から治癒魔導師を連れてきてください! ハルカ!?」
「ごめんエリアスさん。詳しいことは言えないけどここは私に任せて欲しい」
自分でもなんでそう思ったのかは分からない。それでも私はこの子を救えるという謎の確信があった。
その確信に従って少女と向き合う。酷い怪我だ。馬に撥ねられたのか右腕は逆方向に折れ曲がり、内臓もやられているようでドス黒い血の混じった泡を口から吹き出している。
意識がなさそうなのが逆に良かった。あったらこの子は今頃、地獄のような苦しみを味わっていたはず。
あまりの怪我の酷さに手が止まりそうになった私は集中するように大きく息を吸うと、一つ頷いて今にも命の灯火が消えそうな少女に手をかざした。貴女はまだ死ぬ時じゃない。そう強く想って体の中にある光を外に放出した。
「ハルカ……。貴女はいったい」
隣から驚いたようなエリアスさんの声が聞こえてくるけど、この現象に一番驚いているのは他ならぬ私自身だと思う。
少女の怪我が時計の針を戻すように治っていく。逆に向いた腕は元に戻り、真っ白だった顔は血色を取り戻す。ひきつけたような浅く苦しそうに繰り返されていた呼吸も穏やかになった。
「あはは。すっごい」
自分でも何が何だか分からないけど、どうやら女の子の命は救えたみたいだ。そう思ったら体が重くなり急に眠くなってきた。
「不味い。魔力切れだ」
エリアスさんのそんな切羽詰まったような声を最後に私の意識はプツリと途切れた。
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