電車を寝過ごしたら聖女と呼ばれてプラチナブロンドの騎士と結ばれました

刻芦葉

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電車を寝過ごしたら森の中

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 世間はクリスマスイブというこの日に私、森本もりもと春香はるかはグッタリとしながら電車を待っていた。

「世の中のカップルは今頃美味しいケーキでも食べながらイチャイチャしてるのかしら」

 遠くに見えるイルミネーションに気付けばそんな言葉を口にしていた。すぐに我に返って確認したけど周りには人がいなくてホッとする。

 それも当然か。クリスマスイブなんて特別な日の深夜に、オフィスばかりの駅で電車を待つ人なんて少ないに決まっているよね。

 待ってる人もくたびれたようにスマホか宙を見ていて、クリスマスイブの幸せなんてない物悲しい静寂がホームを包んでいた。

 大学を出てすぐに今の会社に入ったけど蓋を開ければ中々のブラックだった。今更後悔なんて遅いけど就活をもっと頑張れば良かったな。

 最後に定時に帰れたのっていつだったっけ? ダメだ。記憶を辿っても全然思い出せない。もしかして一度もないかも。そんな暗い考えを追い払うように小さく頭を振る。

 今年で二十八歳になり気がつけば三十も見えてきている。女子にありがちな小さい頃の夢はお嫁さんだった私だけれど、今の現状を見たら子どもの私はどう思うんだろう。

 ごめんね。お嫁さんどころか彼氏すら何年もいないよ。試しにマッチングアプリに登録してみたけど、休みが不規則過ぎてデートすらできてない。

 というか忙しさで連絡もまともに取れないから仲良くなる男なんて皆無だし。休みだって最近はほとんど寝て終わるし。

 はぁ。あまりの干物っぷりに涙が出そう。そんな現状を変えたくて退職届を出したこともあるけど、上司に何かと理由をつけられ辞められずに今に至る。

 あの会社に隕石でも落ちて潰れてくれないかな。もしくは雷でもいい。そんな不謹慎な考えが浮かぶくらいには私は疲れ切っていた。

 十代の頃の元気が懐かしい。千葉にあるテーマパークに朝から友達と行って夜まで遊んで、次の日はまた朝からバイトでも全然余裕だったな。

 今じゃあり得ないよ。休みの日なんて一日中ベッドから出たくない。平日は疲れ切って家に帰ったら、メイクを落として風呂上がりにコンビニ弁当とビールでお腹を満たしている。

 どこで間違えたんだろう。あの時一緒にテーマパークへ行った友達からは、最近二人目の子どもが生まれたと連絡が届いた。

 文末にあった『春香も早くいい人見つけなよ』という言葉を見て、小学校からの付き合いだった友達の連絡先を危うくブロックする所だった。

 私だっていい人見つけたいよ! でもこんな家と会社を行き来するだけの毎日じゃ無理に決まってる! なんてことを心の中で叫んでいたら電車がきたのでトボトボと乗り込んだ。

 まばらに埋まった座席には水商売風の派手な服装の若い女の人に、心配になるくらい首を曲げて眠っている中年の背広姿の男性がいる。

 皆それぞれ頑張ってるんだよね。そんな妙な感傷に浸っていると次第に眠くなってきた。

 まずい。この電車は寝過ごしたら遠くまで運ばれてしまう。駅員に起こされたら東所沢ひがしところざわ駅だったなんて勘弁してほしい。

 そう思って必死に起きようとするけど、毎日の疲れのせいかまぶたが凄い重さで閉じていく。

 なんで電車の席ってこんなにもあったかいんだろう。冷えていた体がポカポカと温められる気持ちよさと心地よい揺れに目が閉まっていって。

「あれ? ここどこ?」

 気づいたら私は見知らぬ森の中に立っていた。
 
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