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序章

そんな変な名前で呼ぶなっ!

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「あいつが出たぞっ!黒の破壊者ブラックナイトメアだっ!全員一旦退避~!!騎士団に連絡しろ!」

静かなる夜をその声が一瞬にて破り去った

「ハッハハハ~!今日もお前たちに悪夢を見せてやろう!!あと、そんな変な名前で呼ぶなっ!」

「はっ、早く退避しないと俺達も奴の餌食になっちまうっ!」

そう言った兵士の目の前では仲間だった兵士が死屍累々といった惨状で皆が皆顔を赤くしたり青くしたりぼーっとしたりと、とにかく至るところで兵士達が戦闘不能となっていた
彼らの中にはぶつぶつと呟いている者がおり、その声を拾ってみると

「死んだっ・・・俺、社会的に終わったっ・・・」

「あっ、死んだばあちゃんが川の向こうで手振ってる・・・」

「アッハハハハ!・・・・ハァ・・・・・フフフ」

このようにただ悶え苦しんでいる者や、臨死体験をしている者、はたまた気が狂ってしまっている者などがいた
その光景に生き残った兵士達は屍達の中でただ一人だけ立っている犯人に恐怖と不気味さを感じる以外無かった

すると、頭の先から足の先までを黒一色の不思議な格好をした人物はこちらを向いた

「今度はお前達か?」

その言葉に彼に立ち向かおうと少ない勇気をかき集めて残った数少ない兵士達は戦意を喪失し、逃亡を図った
それを見届けた彼は、その後優雅に我が物顔で広大な屋敷の中を進んだ

そして、彼が立ち止まったのは屋敷の主が休んでいるであろう部屋である
こんなにも兵士達が騒いで煩かったと言うのに、中からは盛大なイビキが聞こえた
普通は屋敷の誰かが彼の侵入を伝えるものだが、それがないということはそれだけここの領主への忠義心がないということだろう

「領主ってのはこんなにもお気楽でいいもんかね?まあ、それもこれも自業自得だな」

それからゴテゴテとうざったい成金趣味のような扉をそっと開き、領主が起きる前にお目当てのものを物色した

「やっぱりここに隠してたか~」

そう呟きながら、彼はベッドの横にある引き出しを開け、分厚い書類の束をそっと取り出した

「さて、お目当てのブツも回収したし、最後の仕上げにとりかかりますか~」

そう言って、すぐ隣でイビキをかいて寝ている領主の掛布に手をかけ、思いっきり引っ張った
必然的に領主はおむすびころり方式で床に転がった

「っ!な、何事だ!誰かおらぬのかっ!」

豚のような体型にも関わらず、すぐに飛び起きた領主の肩を叩き、こちらの存在に気づかせた

「領主様、皆既にあなたを置いて逃げてしまいましたよ?ああ、おかわいそうにっ!!賊が侵入しても誰一人助けに来ないとはっ!」

領主の目が彼を視認した瞬間、舞台の上の役者の如く仰々しくポーズ付きで彼は宣った

「きっ、貴様は何者だっ!」

「私ですか?私はただの通りすがりの正義の味方です」

「なっ、ふざけるな!さては、ここ最近貴族を狙って盗みを働く不埒ものだな!」

領主は彼の言葉に激昂し、顔を赤くした

「そんなに興奮されますと、早く死期が来てしまいますよ?」

そう言いながら彼は持っていた剣をすらりと引き抜き、丸々と肥えているため領主のおそらく首であろう箇所にそれを当てる

「ひぃぃぃっ!なっ、何が望みだ!金か!?地位か!?なんだってお前にやる!」

その言葉に彼は笑ってしまった

「ハハハハ、領主様は面白い冗談を仰る・・・金?地位?そんなもの犬にでも食わせておけ!オレが欲しいのはなぁ、ただ一つ!お前の黒歴史だっ!」

『決まったぜ・・・!』

そう自身の言葉に感じ入っていたが、それをぶち壊す声がかかった

「はぁ?黒・・・?なんだ?」

「ったく、しゃあーねぇな。つまりだ、お前の墓場まで持っていきたいもしくは忘れ去りたい恥ずかしい過去のことだよ!」

それを聞くと、領主はニタリと笑みを浮かべた

「そんなもの、私には無い!それに、どうやってそんなことを知るのだ。出来るものならやってみるがいい!ハハハハ!」

それは彼をカチンとさせる言葉だった

「そうか、そういうことならこっちにも考えがある・・・なーに、ただお前が社会的に死ぬだけだ。それじゃあ、行ってみよう!スキル発動!!」

スキルを発動すると、彼の中にある映像が流れてきた
そして、その内容を他のスキルを使って結晶化し、記憶媒体とした

「それでは発表します!・・・・・お前は昔、学園に通っていた頃女子更衣室に忍び込み、好きな女の子の下着を盗んだ挙げ句、あろうことかそれを自分で着用して一人授業中興奮していたなっ!」

「ななななっ、何を言っているんだ!わ、私はそ、そんなことはしていない!!」

そう言うと、領主は首元に刃をあてられているにもかかわらず、前のめりになりながらも否定の言葉を紡いだ
だが、そんなのは彼の動揺を見れば真実は一目瞭然であろう

「はいはい、そんなこと言ったってネタは上がっているんだぜ、領主様?」

「な、なんだと?」

「なんと!ここにあるのはその時の映像です!その女の子にあんたがこんなことやってましたってこれをプレゼントしてもいいのか?確か、その女の子って今は王妃様やってるよな?」

彼は手に持っていた記憶媒体を領主の前で放映した

「っ!な、何が望みだ・・・」

「簡単だよ、税をちょろまかしてるとか、婚約者のいる女性に手を出してキズものにしたとか、とにかくお前が犯した罪を洗いざらい世間様にお前自身の言葉で告白することだ」

「なっ・・・!・・・・そ、そんなことできるわけないだろう!」

「じゃあ、これは今から王妃様にお届けした後新聞社とかに流してくるわ、じゃあな!」

そう目の前の男に告げてゆっくりと歩を進めた
3歩目ぐらいで後ろから声がかけられた

「まっ、待ってくれ・・・・・わかった、その条件を飲もう・・・・・・」

「そうか、そうか、そう言ってくれるのを待っていたよ!舞台はそうだな・・・3日後に開催される王宮舞踏会でっ!」

それから、剣を鞘に戻し、この場を去ろうとしたが、後ろから領主が襲ってきた
しかし、オレはそれを予測していたので余裕で返り討ちにした

「あっ、まっ、ちょっ!」

蛮勇から恐怖に変わった領主はもはや言葉を発することは出来なかった

「ちなみに、お前の行動はしっかり監視してるので、オレから逃げられると思わないよ~うにっ!じゃあ少しの間おねんねしときな?」

「ぐふぅっ・・・!」

「まったく、これだから小物は・・・全員同じことをしやがる」

静かな夜に戻った部屋では一人の男が佇み、独り言を呟くのだった

その時、遠くから警笛の音が聞こえてきたが、構わずにオレは呟き続ける

「それに、誰だよ!あんな名前付けたのは!この格好は忍者だってぇの!・・・まあ、こっちの世界でそれを言うと変な目で見られるから仕方ねぇけど・・・・・はぁ、あいつが来る前に帰ろう」

その呟きは誰の耳にも届かず、一瞬で姿が消えた

その直後、部屋には騎士が雪崩込んできた

「くそっ!また逃げられたわ!」

そう悪態をついたのは騎士達を取りまとめる隊長だった
この時代では大変珍しい女性の騎士だった
彼女は豊かな紅い髪を一つに結び、若草色の瞳には、メラメラと闘志の炎が燃えて彼女自身が一つの炎と化していた

「次こそは必ず捕まえてみせるぞっ!黒の破壊者ブラックナイトメアっ!!」
─────────────────────────────────────────────
ありがとうございました!

結構短編と比べて改稿しちゃったので、楽しんでいただけたのかは不安ですが・・・

それではまた今度お願いします!
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