嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花

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第14話 結婚お披露目パーティー1

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 それからあっという間に三ヶ月が過ぎ――初秋。
 まだ残暑が残る晴れた日の夜、ザエノス侯爵邸で、俺とユージスの結婚お披露目パーティーが開催されることになった。
 使用人たちは朝から大忙しだ。俺も俺で、屋敷内を色とりどりのお花たちで飾って回る作業を引き受けて、作業を終えた頃にはもう夕方。急いで自室へ戻って、オーダーメイドの夜会服に着替えた。

「よくお似合いですよ。フィルリート様」

 着替えを手伝ってくれたのは、ラナさん。にこりと笑って言うラナさんに、俺も柔和に笑って返した。

「ありがとうございます。じゃあ、ユージスのところへ行きますね」

 いそいそと自室を出て、ユージスの姿をさが――そうと思ったけど、必要なかった。ユージスの奴、廊下の壁に寄りかかって待機していた。

「フィルリート。よく似合っている」
「そ、そうか。ありがとう」

 三ヶ月過ぎても、激甘対応に慣れない俺。どんな顔をしたらいいのか分からないよ。ユージスの表向きのキャラ変ぶりに戸惑っているのもあるんだけど、そもそも前世でもこんな激甘対応なんてされたことがないから反応に困ってしまう。
 もっと、喜んだりすればいいのかな。いやでも、こいつに可愛げを見せてどうする。ユージスだって、別に俺の可愛げある反応を見たいわけじゃないだろう。多分。
 というわけで、至っていつも通りの反応を返し、俺たちは玄関ホールに下りて招待客たちを迎え入れる準備だ。
 ちなみに今日のパーティー、国王の名代としてセトレイ殿下もやってくるという。真に愛するって言っていたシサラさんを同伴して。そのシサラさんは公爵令息ではあるから、立場的には参加しても全く問題ない。
 ――シサラ・リグニ。
 リグニ公爵の愛人の息子だったりする。元々は生みの母と平民として暮らしていたらしいんだけど、生みの母が他界したことをきっかけにリグニ公爵家に引き取られたという。そういう生い立ちだから公爵令息ではあるけど、他の上位貴族からは格下扱いされている面がある。もちろん、『フィルリート』も小馬鹿にしていたはず。
 それでも、シサラさんは穏やかで物腰柔らかい人格者なものだから、セトレイ殿下も惚れたんだろうと思う。キャラ属性的には幸薄美人という感じだけど、このまま王太子婿になって幸せを掴むっていう王道シンデレラストーリーを迎えるひとだろうな。あ、別に羨ましいとか思っているわけではない。俺は我が子を産めたらそれでいいんだから。
 といっても、まだ子どもを授かる兆候はなし。婿入りしてから半年以上経つのに……『運命の番』っていっても、すぐに授かれるわけじゃないんだな。

「ザエノス侯爵。ザエノス侯爵夫人。このたびはご結婚おめでとうございます」

 日が傾き始めた頃、続々と招待客たちが屋敷にやってきた。俺は挨拶に応えるユージスの隣に立って、「こちらこそ本日はお越し下さり、ありがとうございます」と機械のように同じ言葉を述べるだけ。
 以前の『フィルリート』を知るひとたちは好感度マイナススタートなわけだけど、今回招待したのは爵位を持つ親世代の王侯貴族だからか、露骨に態度に出されることはなかった。その点は、ユージスが配慮してくれたのかもしれない。
 まぁ、同年代の貴族令息相手を招いたとしても、侯爵夫人の俺に分かりやすく意地悪してくるようなバカはいないだろうけども。
 招待客たちが持参してくれたお祝いの花束など、俺が受け取って傍に控えているメイドさんたちに渡す。数十名は招いているから、大量の花束で溢れ返った。
 そして最後に屋敷にやってきた招待客は、というと。

「……ザエノス侯爵。このたびは結婚おめでとう」

 セトレイ殿下だ。そしてその後ろに控えめにシサラさんもいる。
 セトレイ殿下……いかにも仕方なく参加しましたって言いたげな、不機嫌そうな顔だ。ユージスの結婚相手が俺だからなんだろうけど、もう少し大人な対応をできないものなのか。
 ユージス、お前がお手本を――とちらりと横目で見たら。
 うげっ! こっちはこっちで憎々しげな目でセトレイ殿下を見ている。お、お前、曲がりなりにも王太子に失礼な目を向けるなよ!
 っていうか、なんでそんなに敵意むき出しなんだろ。ユージスは別にセトレイ殿下から何かされたわけじゃないだろうに。
 ひやりとした俺だけど、ユージスは我に返って大人の対応をとった。表情豊かとは言えない強面に、仄かに笑みを浮かべる。

「祝福のお言葉、ありがとうございます。遠いところからわざわざ足を運んで下さって、本当にありがとうございます。本日はどうぞシサラ殿と楽しんでいって下さい」
「ふん。父上の命で仕方なくきただけだ。貴殿の夫の顔など……」
「セトレイ様」

 不機嫌を撒き散らすセトレイ殿下の名を、シサラさんが窘めるように呼ぶ。セトレイ殿下もそれで己の振る舞いを自省したのか、それ以上は何も言わず、シサラさんを連れて俺たちの横を通り過ぎっていった。
 貴殿の夫の顏など……見たくない、って言いたかったんだろうな。セトレイ殿下。
 前人格の俺が散々迷惑をかけたんだろうし、真に愛するっていうシサラさんにも嫌がらせをしていたんだから、そう思うのも無理はない。俺としても返す言葉がないっていうか。

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