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第5話 義兄の『運命の番』になってしまった件5★
しおりを挟むこの異世界のオメガは、月に一度、発情期がある。
だけど、妊娠能力はそのままにヒートのみを抑制する抑制剤というものがあるから、ヒートにほとんど苦しめられずに済む。本当にありがたい。
ちなみにこの抑制剤は頓服だ。ヒート状態で飲めば、すぐに抑制効果が作用する。だから、手元に常備しておいて発情期がきたらすぐ飲む、というのが一般的な飲み方。
そんなわけで、そろそろ今月も抑制剤を手元に常備しておこうと、自室の薬棚を漁っていた俺なんだけど、あれ? おかしいな。抑制剤がない。すっからかんだ。先月、薬棚を見た時はまだたくさんあったはずなのに。
ううむ……よく分からないけど、ないものは仕方ない。急いで買ってきてもらうようにメイドさんに頼もう。予定通りであれば、数日後には発情期がくるはずだから。
「あの、すみません」
自室を出て、廊下の窓を拭き掃除しているメイドさんに声をかけた。あ、この間、俺が火傷の応急処置をしたメイドさんだ。
「フィルリート様! はい、なんでございましょう」
作業する手を止め、一礼してからにこやかに応じるメイドさん。緊張感よりも、なんだかすごく嬉しそうだ。まさか、俺に話しかけられたことが嬉しいのかな。だとしたら、好感度が上がったってことか?
「抑制剤を切らしてしまいまして。なるべく急ぎで買ってきてほしいんです」
「まあ! それは大変ですね。分かりました。すぐに薬局へ行って参ります。戻ってきたら、自室までお届けしますので」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
いそいそと足早に階段へ向かっていくメイドさんを見送って、俺も踵を返す。
それにしても、発情期がくるってことは、ユージスとの子作りもセットでやってくるってことだ。子作りしないと子どもを授かれないんだから仕方ないけど、義務感だけでする性行為ってやっぱり苦痛なんだよな。ま、それは多分ユージスも同じように思っていることだろう。
つらつらと考えながら、廊下を歩いていた時だ。
「う…っ……!?」
突然、全身がカッと熱くなった。心臓がどくどくと早鐘を打ち、呼吸が苦しい。同時に性行為をしたい衝動がこみ上げてきて、俺ははっとする。
――やばい、発情期のヒートだ。
予定では数日後のはずなのに、今月は早めにきてしまったようだ。運が悪い。よりにもよって、抑制剤が手元にない時に。
「く…っ」
俺はよろめいて、その場にしゃがみ込んだ。胸元をきつく握りしめ、ヒートの苦しみに耐える。耐えるしかない。さっきのメイドさんが抑制剤を買ってきてくれるまで。
数分ほどその場にいると、先ほどの人とはまた違うメイドさんが通りかかって、仰天しながら駆け寄ってきた。
「フィルリート様! どうされました!」
「そ、れが……発情期がきてしまって……」
息も絶え絶えに答える。メイドさんはますます驚きに目を見開き、
「だ、旦那様をお呼びしてきます!」
と、急いで走り去っていった。
俺も内心仰天するしかない。え、ちょっと待ってくれよ。あいつを呼んでこられたら、この真っ昼間から性行為することになるじゃん!?
それにこの状態で性行為したら、理性とか吹っ飛んでしまいそうで怖い。さ、さっきのメイドさん、早く抑制剤を買ってきてくれないかな。ユージスよりも先にきてくれ。頼む!
――という願いは天に通じなかった。
「おい。大丈夫か」
俺の前にやってきたのは、ユージスだ。
成人男性を前にしたらますます抱かれたい衝動に駆られてしまって、俺は熱を帯びた眼差しでユージスを見上げ、しがみついた。
「ユー、ジス…っ……」
息を吞む気配が伝わってくる。これまでまるで可愛げのない態度だった俺の変わりように、きっと驚いているんだろうと思う。
く、くそっ、俺だってもう男に縋りたくない。性行為はあくまで子作りの手段であって、それを目的にはしたくないのに……でも、今はとにかく抱いてもらいたくて仕方ない。本能的な欲求に抗えないよ。
「……部屋まで運ぶ」
ユージスは言うが早いか、俺を腕に抱え上げた。お姫様抱っこってやつだ。
力強い腕に身を任せ、ほどなくして俺の自室へ到着。天蓋付きのふかふかの寝台にそっと横たわらせられた。続けて、ユージスが上着を脱ぎながら上にのしかかってくる。
「ヤるぞ。いいな?」
「……う、ん」
頷くしかない。抑制剤が届くまで、耐えられる気がしない。
早く、この熱を、性的欲求を、鎮めてほしい。そうじゃなきゃ、頭がおかしくなりそうだ。
「あっ、ん……」
首筋についばむようなキスをされる。些細な刺激にも、身体がびくんと揺れる。
義務感からの愛撫だって分かっているのに、今の俺は感じてしまう。下半身が緩やかに反応しているのが自分でもわかる。
衣服を脱がされながら、全身にキスの雨。決して『唇』にだけはしないけど。
露になった胸の果実に舌を這わせながら、反応している中心を上下に扱かれると、ううっ、すごく気持ちがいい。そこを同時に攻められたら、気持ちいいに決まっているよ。
「はっ、あぁっ……」
吐息と一緒に漏れ出る喘ぎ声。抑制剤を使用していた時はほとんど出していなかったけど、今の俺の口からは自然とこぼれてしまう。
「やぁぁっ、イっちゃう……」
「イきたいのならイけ」
冷たい声色の中に……ほんの少し、興奮している色がある。今の俺にユージスはユージスで欲情しているのかな。
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