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七欲悪魔編
アンケートお礼SS2(主人公一家)
しおりを挟む「では、誓いのキスを」
春の穏やかな日差しがステンドグラス越しに降り注ぐ、明るい教会内。結婚式を挙げているのは、一組の狼男たち。
ウルフ王の王太子殿下と、――今年二十歳になったシェフィだ。
相変わらず、ケモ耳と尻尾を生やした半獣人形態のシェフィ。大人になっても、完全なる擬人形態にはなれなかった。童顔で可愛らしい顔立ちには、違和感ないけども。
ともかく――美しい純白の花婿衣装に身を包んだシェフィは、王太子殿下と向き合ってそっと口づけを交わした。誓いのキスを終えてから照れ臭そうに小さく笑う姿は、幸福感に満ちていて。俺とアウグネストは、ほっこりとするものがあった。
後宮を去った十年前から、リュイさんとユヴァルーシュと暮らし始めたシェフィだけど、まさか他国の王太子殿下に見初められて結婚するとはなぁ。人生って、マジで何が起こるか分からない。
とはいえ、ガーネリアでは平民だったシェフィだ。数年前にアイオニア王国の貴族に養子入りしてから王家に婿入り、という経緯がある。それを可能にしたのは、やたらと人脈の広いユヴァルーシュの存在があったからだ。もっとも、アウグネストが言うには、そもそもアイオニア王太子殿下とシェフィを引き合わせたのも、ユヴァルーシュの根回しかもしれないとのことだけど。末恐ろしい奴だよ、まったく。
『ユヴァルーシュさん、シェフィには玉の輿に乗ってもらいたかったのかな』
『それもあるかもしれないが……一番大きいのは、さっさと婿入りさせてリュイと二人でのんびり暮らしたかったんだろう』
要するに、厄介払い。やっぱり、末恐ろしい奴。
シェフィも大概リュイさん大好きっ子だったけど、ユヴァルーシュはそれを上回るものがあるよな。悪知恵が働く分、ユヴァルーシュの方が怖いっていう。
そのリュイさんは……あ、いたいた。信徒席の二列目にユヴァルーシュと座っている。ここからだと背中しか見えないけど……うん。あれは多分、号泣してるな。あれだけ可愛がっていた義息子が結婚となったら、そりゃあ感極まっちゃうか。
「新郎たちの退場です」
響くのは進行係の言葉。シェフィとアイオニア王太子殿下は腕を組んで、招待客たちからの祝福の拍手を浴びながら、扉の向こうへ消えていった。
――シェフィ。幸せになれよ。
「キレイだったね。僕もあんな花婿衣装を着てみたい」
結婚式場からの帰り道、目をキラキラと輝かせて言うのは、次男のシセルフィーユだ。今年で六歳になる、『種宿』のオーガ。
結婚式や婚礼衣装に憧れる夢見がちなところは、俺にちょっと似ているかも。
「俺に任せろ。世界で一番綺麗な花婿にしてやる」
自信満々に言うのは、今年十歳になるイシュハヴァルトだ。シセルフィーユが生まれてからというもの、もう溺愛ぶりが年々加速していっている。
いいお兄ちゃんなのはいいんだけど、完全なるブラコンだよな……。シセルフィーユの結婚相手にまであれこれ口出ししそうだと、俺は今から心配だったりする。それに本当にシセルフィーユがよそに婿入りしたら、魂のない抜け殻になってしまいそうでそれも心配。
キャッキャッと楽しげに笑い合う愛息子たちを、俺とアウグネストは微笑ましく見つめてから、顔を見合わせて笑い合う。
この二人は、一体どんな大人に成長するんだろうな。
「でも本当に綺麗だったよな、シェフィ」
「ああ。シェフィには幸せになってもらいたいものだ」
シェフィ、か。ずっと昔、窓ガラスに泥団子をぶつけて喧嘩を売ってきたやんちゃな子どもが、今や立派な大人になって王太子婿。時間の流れっていうのは速い。
「あいつなら大丈夫だって。昔から愛され体質だし、それに――あれだけリュイさんに愛されて育ったんだから」
たとえどんな逆境でも強く生きていける子だと思う。実の親に捨てられた過去だって、もうとっくに乗り越えただろう。
俺もリュイさんを見習って、我が子たちには惜しみなく愛情を注ごう。それで二人がそれぞれ結婚する時は、周りが呆れるくらいわんわん泣くんだ。
いつの日かやってくる、寂しくも嬉しい未来を、俺は夢に見る。
○○○
【『カップリング人気投票』結果発表】
第一位 アウグネスト×エリューゲン 9票
第二位 ユヴァルーシュ×リュイ 4票
第三位 ハノス×テオドールフラム 3票
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みんな幸せになって良かったです!
ぜひ、その後のリュイ達やシェフィ達など、みんなの姿が見られたら嬉しいです!
>>ミルフィーユ様
感想ありがとうございます!
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>>ミルフィーユ様
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>>はな様
返信が遅くなってしまい、すみません!
感想ありがとうございます。
まだ真の最終話ではありませんが、ここまでお付き合いいただいて感想しかありません。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです(^^)