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七欲悪魔編

アンケートお礼SS1(主人公一家)

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「むー……お父さん、うまくつくれないよ」

 春の麗らかな日差しの下、ミモザが咲く庭で愛息子のイシュハヴァルトが言う。
 俺とアウグネストとの間に生まれた一人息子。今年で四歳になる。成長とともに顔立ちはアウグネストに似てきているんだけど、こっちは表情豊かだ。
 俺たち家族三人が旅行でやってきたのはそう、王家が所有する別荘地。新婚旅行でみんなとおこなった『ミモザ花冠流し』を、またやろうとしているところ。ただ、イシュハヴァルトはなかなか上手く花冠を作れないみたいだ。まぁ、まだ四歳だからなぁ。

「ここは、こうすると上手くできるよ。そうそう、手つきを優しくして」

 イシュハヴァルトを真ん中にして、俺とアウグネストは三人で輪になっている。黙々と花冠を作るアウグネストを、イシュハヴァルトは横目で見ながらせっせと花冠を編む。
 対抗意識を燃やしているのが丸分かりだ。決してアウグネストのことを嫌っているわけではないんだけど、ライバル視しているみたいなんだよな。同じ『放種』としての本能かな。俺に対しては懐っこい子なんだけど。

「できた!」

 イシュハヴァルトが、どうにか完成させた花冠。おお、初めてにしては上出来だ。拙いところはあるけど、十分綺麗な仕上がりだよ。

「上手いじゃん。よく頑張ったな」
「えへへ」

 俺がよしよしとイシュハヴァルトの頭を撫でていると、アウグネストも「できた」と小さく呟いた。その出来栄えはやっぱり匠の技の領域というか、完成度が高い。性格こそ不器用だけど、手先は器用なんだよな。
 アウグネストが作り上げた花冠を見たイシュハヴァルトも、自身のものよりも上手いと感じたんだろう。悔しげに顔を歪めた。負けず嫌いな子だ。

「オレ、もう一回つくる!」

 宣言し、再びミモザの花冠作りを始める我が子。
 マジか。もしかして、アウグネストのものよりも上手く作れるまで、延々と作る気なんだろうか。向上心があるのは喜ばしいことだけど……親子なんだから仲良くしてくれ。
 と、以前テオ経由でハノスに相談したことがあるんだけど、ハノス曰く『放種』同士の親子なんてそんなもんだろ、とのこと。俺は『種宿』の父親をライバル視したことなんてないから分からない感情だけど、まぁ別に特別おかしなことではないみたいだ。
 実際、テオとハノスの『放種』の息子も、ハノスをライバル視しているらしい。ハノスは鍛え甲斐があると剣術の稽古を楽しくおこなっているそうな。さすがポジティブキャラ。
 俺が思い描いていた家族像とちょっと違う状況だけど、人生なんてそういうものだよな。自分の思い通りに行くことの方が少ないというか。
 ともかくそうしてミモザの花冠を量産するイシュハヴァルトを、俺は三回目で止めた。回数をこなすごとに上達しているとはいえ、せっかくの家族旅行の時間がミモザの花冠作りで潰れてしまう。

「続きは、また来年な。そろそろ、小川に行こう」
「そうだな。日が傾いてきた」

 俺たちに宥められて、イシュハヴァルトは渋々と頷く。
 家族三人で裏庭にある小川に行き、それぞれ制作したミモザの花冠をそっと流す。事前に考えていたお願い事をしながら。
 俺のお願い事はもちろん、家庭円満。家族仲良く暮らせるよう、天に願った。

「イシュハヴァルト。イシュハヴァルトはなんてお願い事をしたんだ?」
「オレ? オレは、早くおとなになれますように、って」

 一瞬デジャブを覚えたのは、シェフィの当時のお願い事と同じ内容だからだろう。そういえば、シェフィは自分でお金を稼いでリュイさんに美味しいものを奢りたいから、って言っていたっけ。懐かしいなぁ。

「ふーん。そんなに早く大人になりたいのか」
「うん。それで、オレは父上をこえる国王になるんだ」

 俺は目を丸くし、アウグネストと顔を見合わせた。アウグネストにとっても意外な言葉だったのか、軽く目を見開いていた。だけど、すぐにふっと優しげに笑い、イシュハヴァルトの頭を撫でる。

「そうか。それは楽しみだな」

 うん、そうだな。本当に楽しみだよ。
 子どもの可能性は無限大。どんな大人に成長するんだろうな。
 俺は一笑してから、隣のアウグネストを見上げた。

「アウグネストは? なんて願い事をしたんだ?」
「俺か? 俺は安産祈願だ。――次子も無事に生まれてきますようにと」

 隣を歩くアウグネストの手が、僅かに膨らんだ俺のお腹に当てられる。そう、実は俺は二人目の子どもを妊娠中。
 夫夫二人から家族三人へ。
 そして、家族三人から家族四人へ。
 次なる我が子に会える日が、今から楽しみだ。

     ○○○

【『キャラ人気投票』結果発表】

第一位 エリューゲン  17票
第二位 リュイ      9票
第三位 シェフィ     6票
第四位 ハノス      5票
第五位 アウグネスト   3票
第五位 ユヴァルーシュ  3票
第七位 テオドールフラム 1票

ご投票下さった方、ありがとうございました!
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