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七欲悪魔編

第22話 謎解き2

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 図書の天塔といったら、アウグネストたちが儀式の手がかりを得た場所だ。

「そこでしたら、すでに学者様たちが調べ尽くしていますよ」
「いいえ。見落としているだけです。手がかりがあるとしたら、図書の天塔にしかありませんでしょうから」

 む……なんでそんなに自信満々に断言できるんだ。そりゃあ見落としてしまった可能性はあるだろうけど、仮にそうだとしても俺たちならそれを見つけられるっていうのか?

「……ダイリニア王国までは、たとえワイバーン空便でも数日かかるかと思いますが」
「問題ありません。空間圧縮の錬成魔法……まあ、一言で言えば、道をショートカットしますので、数時間もあれば着きます」
「ダイリニア国王陛下の許可なく領空を侵して大丈夫なんですか?」
「それも問題ありません。ワイバーンで入出国することは、旅を始めた頃に七煌魔王たち全員から許可をもぎとっていますので。期間限定ですが、今の俺は魔族領内でしたらどこへでも行けます。ご心配なく」

 むう……そこまで状況が整っているのならついていくほかない、か。俺だってアウグネストたちが帰ってこられるために何かできるのなら、協力したいし。
 そこでようやく俺も、ソファーから立ち上がった。

「分かりました。一緒に行きましょう」




 イシュハヴァルトのことはフライルさんたちに預け、俺はユヴァルーシュとともにガーネリア王国王都を発った。ユヴァルーシュの子分だとかいうワイバーンに乗って。
 するとユヴァルーシュが説明していた通り、ダイリニア王国までは数時間ほどで着いた。気付いたら、天高くそびえる塔――図書の天塔の前まで、やってきていた。
 そういえば、と思う。図書の天塔って百階あるらしいけど……え、もしかして地道に階段を上っていかなきゃならないのか? 俺、産後だからまだ安静にしていなきゃダメだって、ソニア先生から言われているんだけど。
 ひええ……オークは頑丈だからっていったって、きついな。
 てっきり、最下階から最上階まで歩いて行くのかと思った真面目な俺。だけど、ユヴァルーシュは予想外の行動に出た。なんと――図書の天塔の最上階近くの外壁へ魔法を撃ったんだ。
 ――ドォオオオオオン!
 外壁が破壊され、ぽっかりと空いた場所から階段が覗く。
 俺は仰天するしかなかった。ちょっ、ちょっと待て! 建物損壊なんて自国でも問題あるのに、他国の建物になんてことしているんだ!

「ユ、ユヴァルーシュさん! さすがにまずいのでは!?」

 国際問題になるぞ! 下手をしたら、俺たち処刑されるんじゃないか!?
 顔面蒼白になる俺に対し、ユヴァルーシュはけろりとしたものだ。

「私たちの行動は、ダイリニア国王陛下をお救いすることにも繋がります。ダイリニア国王陛下なら、命の恩人を処罰するようなことはしない。それに個人的に弱みを……いえ、交渉材料を持っておりますので、いざという時はそれを使って恩赦をもらいます」
「そ、そうですか……」

 よ、よかった。考えなしに破壊したわけじゃないっぽい。ほっ。
 っていうか、こいつのツテっていうか、人脈パワーはすごいんだな。元は第一王子だったからか? 表面上は愛想いい奴だから、立ち回りが上手かったんだろうな。
 ともかくそんなわけで、ワイバーンに外壁を壊した階層まで寄せてもらい、俺はユヴァルーシュの手を借りて中へ降り立った。ちょうど九十九階だったらしく、一階分だけ階段を上ったら図書館である最上階に到着。
 誰もいないだろうと思ったけど、予想に反して年若い学者様が一人残っていた。

「あ、あなた方はどなたですか! ここは許可なく入っていい場所ではありませんよ!」

 苦言を呈す年若い学者様を、ユヴァルーシュは問答無用で押しのける。

「邪魔だ。どけ」
「ひとの話を聞いて下さい!」

 食ってかかる年若い学者様へ、代わりに俺が名乗った。

「す、すみません。俺たち、ガーネリアの者でして……俺はガーネリア国王の王婿エリューゲン、そっちの男はガーネリア国王の異父兄ユヴァルーシュです。許可なく立ち入ってしまって申し訳ありませんが、急ぎですのでご容赦下さい」

 ガーネリア国王の王婿に、異父兄。つまり王族や王族に連なる者だと聞いて、年若い学者様は怒りより驚きが上回ったらしく、目を瞬かせた。

「ガ、ガーネリア国王の王婿殿下に異父兄上殿……? しかし、急ぎというのは?」
「例の儀式に欠けていたものについて、改めて調べにきたんです」

 年若い学者様は、胡乱な顔だ。

「陛下たちはもう異空間へ発ちました。今から調べても……それに、ここはわたしくどもが調べ尽くしましたよ」
「それは承知の上ですが、私たちの手でもう一度調べ直したいんです」

 俺の表情が必死なものだと伝わったのかな。年若い学者様は、眉尻を下げながらも「まあ、構いませんが……」と探索活動を許可してくれた。
 ふとユヴァルーシュを見れば、一面の本棚を忙しなく見回している。んん? もっとじっくりと探索するかと思っていないのに。なんだか、ざっと見渡している感じだ。それで見つかるのかよ。
 俺がユヴァルーシュの傍まで移動してすぐのこと。素早く動いていたユヴァルーシュの目がある地点で止まった。その本棚の上から三段目のところへ進み出る。

「エリューゲン殿下。ここの棚にある本を指で確認しながら、一冊ずつ数えます。数え飛ばしがありましたら、すぐに教えて下さい」
「え? あ、はい」

 数え飛ばしがあったら、って。どういうことだ。これだけ分厚い本たちを数え飛ばすことなんてないような気がするけど。
 不思議に思いつつも、俺は言われるままユヴァルーシュの指の動きを観察する。
 一冊目、二冊目……と順に数えていくユヴァルーシュ。数え飛ばすような気配なんて微塵も感じられない。と、思いきや。

「八冊目。きゅうさ……」
「あ、待って下さい。その間の本を数え飛ばしていますよ」

 分厚い本と本の間にある薄い本を、ユヴァルーシュは数え飛ばしてしまった。薄すぎて見えにくかったのかな。本の色も似ているから、同化して見えたのかも。
 俺は数え飛ばされたその『薄い本』を手に取り、ここにあるぞという意味合いを込めて、ユヴァルーシュに指差して見せた。

「ほら。この本。薄いですけど、確かにあるでしょう」

 こんなに分かりやすく見せているのに、ユヴァルーシュの目は……あれ、おかしいな。なんだか『薄い本』の形を捉えられていなさそうな感じだ。

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