97 / 111
七欲悪魔編
第14話 図書の天塔2
しおりを挟むやはり、合図を送ってからそうすぐにはアウグネストたちはやってこない。あっという間に夜中になり、ハノスたちは最上階で仮眠をとる流れになった。
「リュイさん、まだ寝ないんですか?」
一向に床に横たわる様子を見せないリュイに気付き、ハノスが声をかけると、リュイは「ええ、まあ」と曖昧に笑う。その時、リュイの耳にあるイヤリング型の通信機がちらりと見え、ハノスは合点がいった。
「もしかして、ユヴァルーシュさんからの連絡待ちですか」
二人は毎晩、連絡を取り合っているらしいことは知っている。しかし、そういえばここのところは通話している様子がなかったようにも思う。
気になるのならリュイからも連絡をしたらいいのにと思うが、ユヴァルーシュが忙しいとでも考えて健気にもひたすら連絡を待っているのかもしれない。
「余計なお世話かもしれないですけど、恋人から連絡がきて喜ばない男なんていませんって。連絡がこないのなら、リュイさんから連絡してみたらどうですか」
「……ですが、もし通話できてもなんと言ったらいいのか」
「そんなの一言、声が聞きたかった、で十分です。声を聞いたら、あとはもうおやすみなさいでもいいでしょうし。リュイさんは遠慮しすぎですって」
ハノスにとってのリュイは面倒見がよく頼れる先輩だが、恋愛においてはどうにも奥手というか、余計なことを考えすぎているように感じる。通話をしたら長時間話さなければいけないなんて決まりはないのだから、もっと気軽に連絡をとったらいいのに。
「なんなら、俺が代わりに連絡しましょうか」
心からの好意で申し出たのだが、リュイは頬肉を引き攣らせた。
「そ、それはちょっと……」
「なら、自分で連絡してみて下さい。夜更かしも体に毒です」
少々強引な物言いになってしまったが、そこまで言われたらリュイもようやく重い腰を上げた。イヤリング型の通信機を魔力で作動させ、接続させる。
本来であれば、まずは呼び出し音が鳴るところだが――。
「あれ?」
リュイは怪訝に眉根を寄せた。
見守っていたハノスは、首を傾げるしかない。
「どうかしました?」
「いえ、それが……繋がらないんです」
ユヴァルーシュ側が応じないわけでも、通信を切られたわけでもなく。そもそも、ユヴァルーシュの通信機と繋がらない。砂嵐のようなザーザーという音だけが聞こえる。
「ユヴァルーシュさん……遠いところにいる、とかですかね?」
「そうなんでしょうか……? 魔族領と人間領間でも通話ができた過去がありますが……」
一体どういうことだ。通信機が壊れている様子はないので、解せない。
そのあと、何度かけ直しても同じだった。繋がらない。もしや、ここのところユヴァルーシュから連絡がなかったのは、ユヴァルーシュ側からも繋がらなかったからなのでは。
ユヴァルーシュの身に何かあったわけではないことに安堵する反面、連絡を取る手段がなくなってしまって不安にも思う。
浮かない表情のリュイを見かねたハノスが、励ますように言った。
「……ひとまず、今夜はもう休みましょうよ。ただ、通信機の調子が悪いだけかもしれませんし。明日また、かけ直したら案外あっさり繋がるかもしれません」
「そう、ですね……」
明日も何か仕事があるかもしれないのだ。いつまでも寝ずにいては支障が出てしまう。ハノスの言う通り、明日またかけ直してみたらいい。
という流れで、リュイはユヴァルーシュと連絡を取ることを一旦、諦めた。ハノスともに床に雑魚寝して、そっと目をつぶる。
ユヴァルーシュが無事でいることをただ願うばかりだ。
◆◆◆
「うーん……繋がらん」
一方、その頃。ユヴァルーシュもまたリュイに連絡をしようとして、しかし繋がらないという謎現象に悩まされていた。
リュイと最後に連絡をとれたのは一ヶ月半ほど前のこと。事情は話せないが、ダイリニア王国へ行くという話を聞いて以来、連絡がとれない。毎晩、連絡をすると言っていたのに、約束を破ってしまっている形になっている。
リュイのことだ。黙ってユヴァルーシュからの連絡を待っていることだろう。そして、連絡がないことにしょんぼりとしている姿が容易に想像がつく。不安にさせてしまっているのではないかと思うと、ユヴァルーシュも申し訳ない。
――ダイリニア王国へ行くか?
そんな考えが頭をもたげるが、いやしかしそんな時間の余裕がない。今、ユヴァルーシュが行っていることは急がなくてはならないという直感がある。リュイには申し訳ないが、耐えてもらうしかないかも、と思う。
それにしても、なぜ急に連絡がとれなくなったのか。ユヴァルーシュが今いるのは同じ魔族領であるし、標高の高い山や森の中にいるわけでもない。通信機の調子が悪い……というだけのことなんだろうか。
(まさか、誰かに魔力で繋がらないように干渉されている、のか?)
理論的にはありうる。魔導具というのは魔力で作動させているのだから、別の魔力でその動きを阻害してしまえば、いかに高級品の通信機でも使えなくなるだろう。
問題は、その『誰か』の正体だ。そんな高度な芸当ができ、かつそんなことをする理由のある人物など誰も思いつかない。
リュイに会えば、何か情報を手に入れられるかもしれないが……やはり、リュイに会いに行く時間がない。分身の術でも使えたらいいのに。存在する魔法かどうかは分からないが。
リュイと連絡をとれないことにも、会いに行けないことにも、苛立ちを覚えつつ――ユヴァルーシュもまた、明日に備えて寝台に横たわった。
◆◆◆
123
お気に入りに追加
1,646
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる