贄婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?!

深凪雪花

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七欲悪魔編

第13話 図書の天塔1

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「おめでとうございます。妊娠されておりますよ」

 ソニアさんの言葉を、俺は一瞬理解するのが遅れた。
 ――妊娠。

「ほ、本当ですか!?」
「はい」

 とうとう、アウグネストのお子を授かれたんだ! やったぁああ!
 飛び上がるほど嬉しかったけど、父胎に悪いかもしれないと自重。その代わりに、まだ膨らんではいないお腹を擦る。
 赤ちゃん……ついに俺たちのところへきてくれたんだな。ありがとう。絶対にこの世に生を受けさせるからな。

「一ヶ月後になりましたら、紫晶宮まで問診に伺います。安定期に入るまでは、あまりご無理はされぬよう」
「分かりました。ありがとうございます、ソニア先生」

 俺は上機嫌でお礼を伝え、付き添ってくれたナティカス騎士団長と医務塔を後にする。外に出ると、日差しが強い。新婚旅行に行った時よりも、気温もぐっと上がった。
 というのも、アウグネストたちがガーネリアを発って早一ヶ月半ほど経つんだ。暦の上ではもう夏だ。

「よかったですね、エリューゲン殿下」
「はい。元気に生まれてきてくれたらいいんですけど」

 まだ気が早いけど、とにかく無事に生まれてきてほしい。望むのはそれだけだ。赤ちゃんと会える日が楽しみだな。
 アウグネストにも伝えたい、けど。アウグネストたちはまだ帰ってこない。となると、ダイリニア王国に手紙を送ったらいいのかな。それとも、帰ってくるまではやめた方がいいのか……うーん、悩む。
 うんうん頭を悩ませながら、ナティカス騎士団長に紫晶宮まで送り届けてもらうと、宮男がいそいそと一通の手紙を俺に運んできた。

「エリューゲン様。先ほど、陛下からお手紙が届きました」

 え! マジで!?
 そういえば、余裕があったら手紙をくれるって言っていたっけ。

「ありがとうございます。部屋に戻って、確認しますね」

 まだ封の開いていない手紙を受け取って、俺は足早に自室へ向かう。その途中、シェフィと鉢合わせた。

「あ、エリューゲン。どうだった?」
「ん? とうとう、俺たちのところへ赤ん坊がきてくれたよ」

 シェフィの顔が、ぱぁっと明るくなった。

「本当!? よかったね!」
「ありがとう。それと、アウグネストから手紙が届いたんだ。お前も一緒に読むか? リュイさんについて何か書かれているかもしれないぞ」
「読む!」

 というわけで。俺たちは、俺の自室にこもって、アウグネストからの手紙を開封。まずは先に俺がざっと目を通した。
 達筆な字で書かれた文面には、七煌魔王会議で話し合った末、ダイリニア王城からとある場所へ移動したと記されている。そしてそのとある場所、というのが。

「図書の天塔……?」

 例の七欲悪魔からの言葉を解読するのに必要な資料があるだろうという、最上階に図書館がある天塔の敷地にアウグネストたちは今いるらしい。
 しかし、その天塔には魔導兵と呼ばれる魔力で生み出されたモンスターが多数いるということで、まずそれらのモンスターを駆除すべく各国の国王の配下たちが戦いに行くと。
 手紙が届くまでにタイムラグがあるだろうから、つまり。
 もしかしたら今、リュイさんやハノスが天塔のモンスターと戦っているのかもしれない。


     ◆◆◆


「はぁあああああ!」

 裂帛の気合とともに、振るった剣が魔導兵の体を真っ二つにする。さらに体内の魔力の核を破壊。ワイバーンの固有魔法【炎の吐息】を付加させた赤き竜炎剣の力だ。
 ハノスとリュイのガーネリアコンビは現在、トップで天塔を駆け上がっていた。百階まであるという天を衝くような塔の、最上階一歩手前まできている。

(【炎の吐息】を会得していなかったら、リュイさんの足を引っ張るだけだったな……)

 まさか、この展開をユヴァルーシュが読んでいたとは思わないが、やはりユヴァルーシュには感謝せねばなるまい。

「もうすぐですね。大丈夫ですか」
「問題ありません」

 壁から飛びかかってきた魔導兵を、ハノスは竜炎剣で一刀両断。リュイは【与魔】を付加させた氷の投擲武器で、魔力の核を寸分の狂いなく貫通させ打ち倒す。
 ここまでくるのに、どれだけの魔導兵をほふったか。そして、一体どれだけの階段を駆け上がってきたことか。二人がトップを独走しているのは、武力の腕前もさることながら、それぞれ鍛え上げた体力も大いに関係している。
 倒し、駆け上がって。倒し、駆け上がり続け――そして、ついに。

「よっしゃあああ! 一番乗り!」

 僅かに息を弾ませたハノスが、先に最上階に辿り着いた。続けてリュイも、こちらはけろりとした顔で最上階の床を踏む。
 天塔の最上階。そこはエルフ王が言っていた通り、天井高くまである本棚がずらりと並ぶ図書館であった。が、本棚に入っている書物自体はそう多くはない。本棚はぎちぎちと埋まっているわけでなく、本と本の間に余裕がある。
 ハノスはつい本棚に駆け寄って書物を手に取ろうとしたが、リュイが素早く首根っこを掴んで引き戻す。

「勝手に触ってはなりません。私たちが命じられたのは、天塔の中にいる魔導兵を一掃することだけです。それに書物を取り扱うのは、学者様たちですよ」
「えー、ちょっとくらい……」
「ダメです」

 きっぱりと言うリュイに、ハノスはがっかりした顔で従う。確かにリュイの言う通りだ。図書館の書物に触れていいとは、一言も言われていない。
 とはいえ、図書館の椅子には腰をかけて、他国の国王の配下たちを待つ。ハノスたちを含めて十五人いる国王の配下たち。残りの十三人も順に入室してきて、誰一人として欠けていなかった。だてに国王の直属の配下に選ばれていない。

「では、陛下たちに合図を出しましょう」

 リュイは天塔の窓を開け、外に向けてロケット花火を放つ。夕方とはいえ、日が長いので花火の光はうっすらとしか見えないものの、大きな破裂音が響く。これが、任務を完了したという合図だ。アウグネストたち七煌魔王は、外の敷地に待機しているのだ。
 合図の音を聞いて、すぐに天塔をのぼってくるだろうが……いかんせん、百階もある。肉体を鍛えていない学者たちも同伴することも考えると、最上階に到着するのは夜中か、明朝かもしれない。

「そういや、夕飯ってどうするんですか。お腹空いてきたんですけど」
「その時のための携帯食です」

 リュイは背負っていたリュックから、ゼリー飲料をいくつか取り出した。うち二つを、ハノスに放って寄越す。
 ゼリー飲料は、パッケージに狼のイラストが描かれた、明らかに子供用だった。

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