贄婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?!

深凪雪花

文字の大きさ
上 下
91 / 111
七欲悪魔編

第10話 新婚旅行10

しおりを挟む


「ハノスさん!」

 俺は、急いでハノスに駆け寄った。
 首筋に指を押し当てる。すると、きちんと正常に脈打っている。全身に掠り傷を負ってはいるけど、ただ気を失っているだけみたいだ。
 ほっと胸を撫で下ろす俺の傍で、アウグネストはユヴァルーシュに眦をつり上げていた。

「異父兄上。どういうおつもりだったんですか」

 珍しく怒気を露にした声音に、けれどユヴァルーシュは全く意に介さず。

「どういうつもりって、だから焼きを入れていただけど?」
「最後の錬成魔法、本気で騎士生命を絶とうとしていたのでは」

 半ば睨むような眼差しをアウグネストから向けられるユヴァルーシュ。でも、やっぱりこいつが怖気づくことはない。

「だったらどうした。弱い『光剣』なんていらないだろ」
「ハノスは大切な仲間です! それに決して弱くはありません!」

 アウグネスト……ハノスのことを仲間だと思っているんだ。配下じゃなくて。いや、ハノスだけじゃないよな。リュイさんのことだって大切な仲間だと思っているに違いない。
 国王とその臣下っていう立場ではあるけど、それでもアウグネストは二人に配意を払い、ひととして対等な存在だと認識しているんだろう。

「はんっ。仲間、ね」

 ユヴァルーシュは、鼻で笑い飛ばした。

「笑わせるな。仲間っていう表現はこの際どうでもいいが、生温いお友達ごっこをするのが仲間とやらなのか? だったらお前、もう国王なんてやめろよ。平民になって仲良くお友達ごっこをしていたらいいだろ」
「……俺以外に誰が国王を務めるんですか」
「自意識過剰だな。国王なんていくらでも替えはきくんだよ。お前がいなくなれば、次にまた王家以外の誰かが国王の座につくだけのことだ。ああ、王制を廃止しようなんて意見も出てくるかもな。いずれにしろ、新しい時代が必ずくる」
「………」

 押し黙るアウグネストを、ユヴァルーシュは厳しい目で見た。

「お前が今、王位にいるのは時の運に恵まれただけだ。その運に胡坐をかいて努力を怠ったたら、そのツケを払うのはお前が大切に思うガーネリア国民になる。――ガーネリア国王とその『光剣』っていう関係性と重要性をもっと自覚しろ」

 ほとんど一方的に言い放ち、剣の鞘をアウグネストに放り投げたかと思うと、ユヴァルーシュは踵を返した。あ、おい、こら。アウグネストから借りた剣は、放置かよ。

「異父兄上、どこに……」
「俺は忙しいんだ。もう戻る。……剣をお貸しいただいてありがとうございマス、陛下」

 ひらりと手を振って、颯爽と立ち去っていくユヴァルーシュ。別荘から少し離れたところまで歩いていくと、空からワイバーンが滑空してきて、ユヴァルーシュはその背に飛び乗った。
 隣国にいたらしいから、戻るってことはまた隣国に行くんだろう。リュイさんに別れの挨拶もせずに……はあ。何が忙しいのか知らないけど、自分勝手というのか、自由奔放な奴。
 ともかく、ユヴァルーシュがいなくなった。アウグネストは地面に突き刺さった己の剣を拾って鞘に収める。その横顔は、何か思案しているような、真面目な表情だ。ユヴァルーシュに言われたことについて、考えているのかもしれない。

「……エリューゲン。ハノスを別荘の中に運ぶ。手伝ってくれ」
「う、うん」

 気絶しているハノスを、アウグネストの背中に乗せる。ハノスを背負って歩き出したアウグネストの隣を、俺も小走りで歩く。
 ……お友達ごっこ、か。アウグネストにそんなつもりはないと思うけど、でもユヴァルーシュから見たら曖昧で生温い関係性に見えたのかな。
 あいつがハノスに焼きを入れたという理由は結局分からないままだ。でも、それでハノスが新たな魔法を会得して、さらに強くなったのは事実。逆算して考えると、ユヴァルーシュの狙いはそこだったのかもしれないとは思う。
 ハノスを強くする意味があるとしたら。さらにユヴァルーシュの行動原理にリュイさんが絡んでいるとしたら。そう考えたら……ハノスがリュイさんの足を引っ張って、リュイさんの負担にならないようにするため、とか? そういえば、リュイさんに世話を焼かせてるワイバーンの騎士呼ばわりしていたし。
 真相は闇の中ではあるけど、本人の中ではきっと意味のあることだったんだろう。
 ――という俺の推測は多分当たっていると、あとから話を聞いたリュイさんが困ったような顔をして断じた。
 リュイさん、あのあとから数時間後に目を覚ましたんだけど、掠り傷だらけのハノスには仰天、それもユヴァルーシュが負わせた傷だと聞いて、まさに寝耳に水状態。

「すみません、ハノス……」
「いや、リュイさんが謝ることじゃないです」
「いえ、私の稽古が甘かったから、あなたにここまで怪我を負わせてしまったんです」
「あ、そっちの意味ですか……」

 ユヴァルーシュの勝手な行いを代わりに謝罪しているわけではないらしい。ユヴァルーシュに制裁という名の稽古をつけてもらったこと自体は、そう悪いことだと思っていなさそうだ。
 まぁ……リュイさんにユヴァルーシュみたいな容赦ない稽古はつけられそうもないしな。ハノスに新たな魔法を会得させたことに関しては、ありがたくさえ思っているのかもしれない。

「残りの滞在日は、ゆっくり休んでいなさい。掠り傷とはいえこの数ですし、それに新しく魔法を会得すると脳疲労を起こしますから」
「大丈夫ですよ。もう気分はすっきりしているんで」

 早速、寝台から体を起こそうとしたハノスを、リュイさんは寝台に押し戻す。

「無理は禁物です。休むことも仕事のうちですよ」
「う……で、でも」

 ハノスは食い下がろうとしたけど、黙っていたアウグネストが口を挟んだ。

「ハノス。リュイの言う通りだ。あとはもうゆっくりしていろ」

 有無を言わせぬ声音に、ようやくハノスは「……はい」と渋々ながら従う。布団にもぞもぞと入り込んだハノスに、アウグネストは続けた。

「それから、異父兄上が酷い仕打ちをしてすまない。止めなかったことも許してくれ」

 眉尻を下げて謝罪すると、ハノスは気にした様子もなく快活に笑った。

「陛下が謝ることじゃありませんよ。それに勝負を引き受けたのは俺自身ですし。むしろ、戦いを止めてもらわなくてよかったです」
「だが……」
「俺は強くなれるためならどんな鍛錬でも頑張れます。陛下の『光剣』としても、今後もっと精進します。ユヴァルーシュさんには感謝しているくらいですよ」

 ハノス……竹を割ったような、さっぱりした性格だよな。これだけ酷い目に遭わされたら、多少なりとも根に持ってもよさそうなのに、全く気にしている様子がない。おまけに感謝までしているなんて、心の器が広すぎるだろ。
 リュイさんも、ふっと表情を和らげた。

「ハノス。あなたは現段階で伸びしろしかない逸剣です。まだまだ強くなれますよ」

 逸品ならぬ逸剣、か。上手い表現だな。
 ハノスは素直にその言葉を受け取って、子供のように嬉しそうな顔をしていた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...