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七欲悪魔編
【季節番外編】ひな祭り
しおりを挟む「エリューゲン殿下。今日一日だけ、広間の一角をお借りできませんでしょうか」
恭しく訊ねてきたのは、リュイさんだ。
紫晶宮の食堂で朝食を食べ終え、ちょうど廊下に出た俺は目を瞬かせた。
「構いませんけど……何に使うおつもりなんですか?」
「狼のひな人形を飾りたいのです」
ひな人形。
あ……そういえば、そろそろひな祭りの時期だと思っていたけど、今日だったのか。
ガーネリアにおけるひな祭りっていうのは、『種宿』の子妖魔の成長を祝うのとともに、将来よき伴侶に恵まれますようにっていう祈りをこめて、ひな人形を飾る行事だ。必ずしもやる必要はないけど、でもまだ九歳のシェフィはやってもらえる立場ではある。
そうか、リュイさんはきちんとやるつもりなんだな。シェフィのことを可愛がってるもんなぁ。
「分かりました。そういうことでしたら、私もお手伝いしますよ」
「ありがとうございます。ですが、エリューゲン殿下のお手を煩わせるわけには……」
固辞しようとしたリュイさんに、俺はにこやかに笑いかけた。
「シェフィの成長をお祝いしたいのは、私も一緒です。それに暇を持て余しているので、ぜひお手伝いさせて下さい」
「……そう、ですか? では、お願いいたします。広間までひな壇やひな人形たちをお運びしますね」
リュイさんはそう言うと一旦、紫晶宮から出ていった。敷地内に物置きがあるから、多分そこに置いてあるんだろう。
「エリューゲン、リュイは?」
おっ、主役がとことこと現れた。
「お前のために作業中だよ」
「ひな祭りのこと? ひな人形、一緒に飾る約束してるんだ」
うきうきとした様子のシェフィ。
なんだ、知ってるのか。てっきり、サプライズするのかと思った。
まぁでも、一緒に飾るっていうのは、シェフィにとってもいい思い出になりそうだ。大きくなって子供時代を振り返った時、ああこういうひな祭りをしたなぁってリュイさんや俺との記憶を思い出してくれたら嬉しいな。
「お待たせしました。こちらがひな壇です」
ほどなくして、リュイさんが運んできたひな壇だけど……で、でかい。一、二……おぉう、十段もある。
続けて運ばれてきたひな人形は、箱いっぱいに詰め込まれている。何体あるんだ、これ。
「す、すごい立派なものですね。ええと、まさかリュイさんが個人的に買ったんですか?」
「はい。陛下から少し予算をもらえましたが、それだけでは小さいものしか買えなかったので、思い切って貯金をはたいて特注品にしました」
……マジで? 思い切りすぎじゃないか?
想像以上にシェフィのためにお金を使い込んでるっぽい。この前の誕生日も、特注品の巨大なビーズクッションをプレゼントしていなかったけ……?
な、なんか、心配だけど、ひとまずそれは置いておいて。よし、ひな人形たちを飾るぞ。
それから三人でわいわいと楽しくひな人形たちをひな壇に飾り、一時間かけてひな壇は完成した。シェフィは、わぁ可愛いと大喜びだ。
「二人ともありがとう!」
尻尾がぶんぶんと揺れてる。本当に嬉しそうだ。こんなに喜んでもらえるなら、手間をかけたかいがあるってもんだ。
そんなわけで、完成したひな壇を大層気に入った様子のシェフィは、一日中、広間でひな人形たちを眺めていた。ほっこりする光景だったよ。
夕方、一人でお風呂に入る頃になって、ようやく広間から離れたんだけど……すぐさま、リュイさんが動いた。
「急いで片付けます」
俺はきょとんとするしかない。
「え? 日付が変わるまでにはまだまだ時間がありますし、急がなくても……」
「いえ、急がなければなりません。地方によっては、日没までに片付けなければ行き遅れてしまうというジンクスがあるようですので」
へぇ、それは知らなかった。日付が変わる前までに片付ければ問題ないっていうのが共通ジンクスかと。
って、待て。日没って、あともう少しじゃん!
「じゃ、じゃあ、私もお手伝い……」
「失礼ながら、それでは間に合いません。私にお任せ下さい」
言うが早いか、リュイさんは高速……いや、光速の動きで後片付けを始めた。効果音をつけるとしたら、『シュババババッ』って感じ。
俺の目がリュイさんの動きを捉えきれず、リュイさんの残像さえ見えたという。ガチで分身の術を使っているんじゃないかってくらい、それはもう素早すぎる動きだった。
結果、十分ほどで後片付け終了。日没寸前に一人で終わらせてしまった。
リュイさんの身体能力って底知れないな……。
シェフィが成人するまで、毎年ひな祭りで使われた豪華なひな人形たち。
それらの行く先は……うん。今はまだ秘密にしておこう。
○○○○○○○○○○
ここまで目を通していただいてありがとうございます!
本作は残り十万文字以内で完結させたいと考えているのですが、完結後の番外編に向けて今度は『キャラ人気投票』を完結するまで開催したいと思います。
(今回のお礼SSは『ハノス×テオドールフラム』です)
我ながらまたやるんかいって感じですが、やらずに後悔よりもやってみよう精神ということで……。
投票してやんよ、という優しい方がいらっしゃいましたら、下部の投票ページからご協力いただけたら嬉しいです。
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