贄婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?!

深凪雪花

文字の大きさ
上 下
81 / 111
七欲悪魔編

【季節番外編】ひな祭り

しおりを挟む


「エリューゲン殿下。今日一日だけ、広間の一角をお借りできませんでしょうか」

 恭しく訊ねてきたのは、リュイさんだ。
 紫晶宮の食堂で朝食を食べ終え、ちょうど廊下に出た俺は目を瞬かせた。

「構いませんけど……何に使うおつもりなんですか?」
「狼のひな人形を飾りたいのです」

 ひな人形。
 あ……そういえば、そろそろひな祭りの時期だと思っていたけど、今日だったのか。
 ガーネリアにおけるひな祭りっていうのは、『種宿』の子妖魔の成長を祝うのとともに、将来よき伴侶に恵まれますようにっていう祈りをこめて、ひな人形を飾る行事だ。必ずしもやる必要はないけど、でもまだ九歳のシェフィはやってもらえる立場ではある。
 そうか、リュイさんはきちんとやるつもりなんだな。シェフィのことを可愛がってるもんなぁ。

「分かりました。そういうことでしたら、私もお手伝いしますよ」
「ありがとうございます。ですが、エリューゲン殿下のお手を煩わせるわけには……」

 固辞しようとしたリュイさんに、俺はにこやかに笑いかけた。

「シェフィの成長をお祝いしたいのは、私も一緒です。それに暇を持て余しているので、ぜひお手伝いさせて下さい」
「……そう、ですか? では、お願いいたします。広間までひな壇やひな人形たちをお運びしますね」

 リュイさんはそう言うと一旦、紫晶宮から出ていった。敷地内に物置きがあるから、多分そこに置いてあるんだろう。

「エリューゲン、リュイは?」

 おっ、主役がとことこと現れた。

「お前のために作業中だよ」
「ひな祭りのこと? ひな人形、一緒に飾る約束してるんだ」

 うきうきとした様子のシェフィ。
 なんだ、知ってるのか。てっきり、サプライズするのかと思った。
 まぁでも、一緒に飾るっていうのは、シェフィにとってもいい思い出になりそうだ。大きくなって子供時代を振り返った時、ああこういうひな祭りをしたなぁってリュイさんや俺との記憶を思い出してくれたら嬉しいな。

「お待たせしました。こちらがひな壇です」

 ほどなくして、リュイさんが運んできたひな壇だけど……で、でかい。一、二……おぉう、十段もある。
 続けて運ばれてきたひな人形は、箱いっぱいに詰め込まれている。何体あるんだ、これ。

「す、すごい立派なものですね。ええと、まさかリュイさんが個人的に買ったんですか?」
「はい。陛下から少し予算をもらえましたが、それだけでは小さいものしか買えなかったので、思い切って貯金をはたいて特注品にしました」

 ……マジで? 思い切りすぎじゃないか?
 想像以上にシェフィのためにお金を使い込んでるっぽい。この前の誕生日も、特注品の巨大なビーズクッションをプレゼントしていなかったけ……?
 な、なんか、心配だけど、ひとまずそれは置いておいて。よし、ひな人形たちを飾るぞ。
 それから三人でわいわいと楽しくひな人形たちをひな壇に飾り、一時間かけてひな壇は完成した。シェフィは、わぁ可愛いと大喜びだ。

「二人ともありがとう!」

 尻尾がぶんぶんと揺れてる。本当に嬉しそうだ。こんなに喜んでもらえるなら、手間をかけたかいがあるってもんだ。
 そんなわけで、完成したひな壇を大層気に入った様子のシェフィは、一日中、広間でひな人形たちを眺めていた。ほっこりする光景だったよ。
 夕方、一人でお風呂に入る頃になって、ようやく広間から離れたんだけど……すぐさま、リュイさんが動いた。

「急いで片付けます」

 俺はきょとんとするしかない。

「え? 日付が変わるまでにはまだまだ時間がありますし、急がなくても……」
「いえ、急がなければなりません。地方によっては、日没までに片付けなければ行き遅れてしまうというジンクスがあるようですので」

 へぇ、それは知らなかった。日付が変わる前までに片付ければ問題ないっていうのが共通ジンクスかと。
 って、待て。日没って、あともう少しじゃん!

「じゃ、じゃあ、私もお手伝い……」
「失礼ながら、それでは間に合いません。私にお任せ下さい」

 言うが早いか、リュイさんは高速……いや、光速の動きで後片付けを始めた。効果音をつけるとしたら、『シュババババッ』って感じ。
 俺の目がリュイさんの動きを捉えきれず、リュイさんの残像さえ見えたという。ガチで分身の術を使っているんじゃないかってくらい、それはもう素早すぎる動きだった。
 結果、十分ほどで後片付け終了。日没寸前に一人で終わらせてしまった。
 リュイさんの身体能力って底知れないな……。




 シェフィが成人するまで、毎年ひな祭りで使われた豪華なひな人形たち。
 それらの行く先は……うん。今はまだ秘密にしておこう。


○○○○○○○○○○

ここまで目を通していただいてありがとうございます!
本作は残り十万文字以内で完結させたいと考えているのですが、完結後の番外編に向けて今度は『キャラ人気投票』を完結するまで開催したいと思います。
(今回のお礼SSは『ハノス×テオドールフラム』です)

我ながらまたやるんかいって感じですが、やらずに後悔よりもやってみよう精神ということで……。
投票してやんよ、という優しい方がいらっしゃいましたら、下部の投票ページからご協力いただけたら嬉しいです。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...