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番外編 ユヴァルーシュの誕生日(ユヴァルーシュ×リュイ)

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「わ、わぁ。蒸れなさそうでいいですね」

 精一杯捻りだしただろう前向きな感想を口にするのは、エリューゲンだ。エリューゲンの視線の先には、リュイが手に持っている茶色いマフラーがある。
 そう、編み目がところどころ大きく、穴が開いているようにさえ見えるマフラーが。

「……そうでしょうか」
「そ、そうですよ! マフラーにだって通気性がないと、首が蒸れますよ!」

 防寒具に通気性って、果たして必要なんだろうか。
 リュイは自分の手先の不器用さにため息をつくしかない。今日、ユヴァルーシュの誕生日なので手編みのマフラーを作ったのはいいが……なんだこの出来栄え。
 見る人が見たら、ボロ雑巾にしか見えないのでは。

「ユヴァルーシュさんなら喜んでくれますよ! 大事なのは、込めた気持ちです!」

 必死にフォローを入れてくれるエリューゲンの優しさが心に沁みつつ、リュイは表面上努めて笑みを返した。

「そう、ですね。渡すだけ渡してみます」
「大丈夫ですよ、受け取ってもらえますって!」
「それならいいんですが」

 確かにユヴァルーシュなら、嫌な顔をせず受け取ってくれるだろうと思う。そして多分、気にせず身に着けてもくれるだろう。
 ……でも。

(さすがにちょっと、これを身に着けさせるのはな……)

 防寒の意味を成していないのもあるが、いかんせん見栄えが悪すぎる。あちこち旅をして回っているユヴァルーシュであるし、通行人から笑われてしまうかもしれない。
 ひとまず、その場では手編みのマフラーを紙袋に入れて包装し、鞄に突っ込んだものの。リュイは、城下町で市販のマフラーを買おうと考えた。

「では、少し出かけて参ります。シェフィのことをよろしくお願いいたします」

 エリューゲンに挨拶をして、紫晶宮を出る。さらに後宮を後にして、城下町の雑貨屋へと急ぐ。そこで綺麗なマフラーを購入し、プレゼント用に包装してもらった。

「ありがとうございました」

 店員に見送られて、リュイは雑貨屋を後にする。次いで向かう先は、集合住宅の一室だ。今日はそこでユヴァルーシュと待ち合わせしているのだ。
 早く会いたい。
 本人には口に出せないことを思いながら、リュイはいそいそと集合住宅の一室に向かう。インターフォンを鳴らすと、中から扉が開いてユヴァルーシュが顔を出した。

「リュイちゃん。久しぶり」
「お久しぶりです。お誕生日おめでとうございます。こちら、プレゼントで……」

 同時にプレゼントを取り出そうとしたが、それより先にユヴァルーシュが「まずは中に上がっておいで」と言うので、それもそうだと思い、リュイは部屋に入る。
 ユヴァルーシュと広間のソファーに並んで座って、そこで改めてプレゼントを渡した。

「お誕生日のプレゼントです」
「ありがとう。……へぇ、マフラーか。旅していると、首元が冷えるからありがたいよ。本当にありがとう」

 ユヴァルーシュは柔らかく笑いながら、広げて見せたマフラーを……なぜか、リュイの両手首を縛るのに使った。え、と思う。

「あの……ど、どうして縛っているんですか」
「この間の手錠プレイが気に入っちゃって」
「え!?」

 ということは、このまま押し倒されて行為に及ぶのか。
 両手首を縛ってあるといっても、リュイになら容易く抜けられる。だから抵抗しようと思えばできるが……今日はユヴァルーシュの誕生日。好きなようにさせたいという思いもある。

「……今日だけですからね」

 渋々と了承し、リュイはユヴァルーシュからのキスを受け入れた。そのまま、ソファーに押し倒されて、性行為に至る。
 が、終わる頃には気絶してしまい、目覚めた時には途中からやはり記憶がない。

「可愛かったよ」

 と、ユヴァルーシュは言うが。一体どれほど乱れていたのか考えると、恥ずかしいのを通り越してなんだか怖い。記憶がないとは恐ろしい。
 ともあれその日の夜はシチューを作って一緒に食べ、逢瀬は終わり。泊まりたいのは山々だが、明日の朝早くからどうしても外せない会議があるのだ。

「では、失礼しました。風邪を引かないように気を付けて下さいね」
「リュイちゃんも、あんまり根を詰めたらダメだよ」

 玄関先でキスをして、お別れ。
 集合住宅を出たリュイは急いで後宮に戻って、紫晶宮に帰る。そして自室で鞄の中の整理をしている時に、――そのことに気付いた。

「あ、あれ? 手編みのマフラーがない!」

 確かに鞄の中に入れていたのに。処分しようと思っていたとはいえ、自分の知らぬところで失くしていたら、どこに行ったのか気になるし心配だ。
 慌てて鞄をひっくり返し、紙袋を探していると。
 ――ブー。ブー。
 イヤリング型の通信機が震えた。ユヴァルーシュからの電話だ。

「は、はい。もしもし?」
『あ、リュイちゃん? 言い忘れてたんだけど、鞄の中に面白いマフラーがあったから、気に入って勝手にもらっちゃった』
「……え?」

 リュイの鞄の中に入っていたらマフラーといったら、例の手編みのマフラーだろう。それを……面白いマフラーって。

『大事にするね。ありがとう。じゃ、また』

 ――ぶつっ。
 一方的に言うだけ言って、通信を切るユヴァルーシュ。
 リュイはぽかんとするしかなかった。




「へぇ~、もらってくれたんですね。よかったじゃないですか」

 報告すると、自分のことのように喜ぶ心優しいエリューゲンだ。リュイは「は、はい」と気恥ずかしげに俯きながら、頷いた。

「気付かれていたとは思いませんでした」
「リュイさんなら、手編みのマフラーを用意してあるはずって思ったのかもしれませんね。お二人とも、付き合いが長いわけですから」

 なるほど。その通りかもしれない。

「でも……あんな見栄えの悪いマフラーなんて」
「本人が喜んでくれたのならそれでいいじゃないですか。それにユヴァルーシュさんなら、それっぽく着こなすのでは?」

 ――エリューゲンの予想は大きく当たることになる。
 きちんとしたマフラーと、編み目の緩いマフラー。二つのマフラーの重ね着スタイルが、その冬、ガーネリア王国に流行ることになるのだった。

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