贄婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?!

深凪雪花

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最終話 ガーネリアに帰国5

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 臨戦態勢に入るケレリアーヌだったが、ガーネリア国王は。

『好きにするといい。引き止めはしない』
『え……』

 あっさりと見逃すと宣言したガーネリア国王に、ケレリアーヌは拍子抜けさせられた。その真意を推し量りかねたが……実際にガーネリア国王に何かをしようとする気配はない。本当に見逃してくれるつもりのようだ。

『その代わり、ネヴァリストニアに伝えてくれ。すまなかった。幸せになれと』

 それだけ言って、ガーネリア国王は踵を返した。
 ケレリアーヌは呆気に取られたのち、その背中に深々と頭を下げた。異父弟から婚約者を奪う形になってしまっていたことを、ガーネリア国王は誰よりも申し訳なく思っていたことをその時に理解した。
 そうしてケレリアーヌは、ネヴァリストニアの下へ行けるはずだった。愛しいひとと結ばれて幸せに暮らす未来が待っていたはず、だったのに。
 ――その瞬間、胸に激痛が走ったのだ。

《役目を放棄するか》

 脳内に響く、聞いたことのない低い男の声。
 役目。それはきっと、『運命の番』のことだと察する。では、この声の主は――ガーネリア国王の身の内に宿る七欲悪魔の声なのか。

《情けをかけてやっていたものを。役目を放棄するというのなら、お前はもう不要だ》

 その言葉を最期に、ケレリアーヌは絶命した。気付いたら、いわゆる幽霊と呼ばれる精神体になっていて、ネヴァリストニアとガーネリア国王が、例の待ち合わせ場所で話しているところに居合わせた。

『ケレリアーヌなら、俺が殺した』
『な…っ……』
『あいつとお前は縁がなかったんだ。忘れろ。忘れて違う人生を歩め』

 呆然とその場に崩れ落ちるネヴァリストニアを置いて、冷徹な表情で立ち去っていくガーネリア国王。
 嘘だ。ガーネリア国王は嘘をついた。
 ケレリアーヌの命を奪ったのは、七欲悪魔だ。もっと言えば、『運命の番』の役目を放棄しようとしたから、ケレリアーヌは七欲悪魔の怒りを買って罰を受けた。
 それは、裏を返せば……駆け落ちの話を持ちかけたネヴァリストニアの罪とも言えた。そう、だからガーネリア国王は自分が殺したのだと嘘をついたのだ。
 ネヴァリストニアを、大切な異父弟の心を、守るために。そして今度は幸せになってくれるように願って――。

《――以上の話が、あの日の真相です》

 ケレリアーヌは、そう話を締めくくった。悲しげに目を伏せて。
 ネヴァリストニアの唇が震えた。

「う、そだ……」

 ネヴァリストニアはがくんと両膝をつき、鉄格子を掴んだ手がずるずると滑り落ちていく。

「そんなの、嘘だ……! 私は、私は、ただ……!」

 ――愛しいひとと一緒になりたかった。
 それはそんなにも罪深いことなのか。許されないことだったのか。

《ネヴァリストニア》

 ケレリアーヌは、その姿が光の粒子となって薄れていく中、ネヴァリストニアに微笑んだ。

《地獄で待っています。他の誰もがあなたを糾弾しても、私は、私だけは、あなたを愛しています。許します。だから……》
「ケレリアーヌ!」

 ネヴァリストニアが伸ばした手は、やはり決して届かず。

《あなたが私の下へきて下さい。いつまでも待っていますから――》

 そう言い残して、ケレリアーヌの姿が光の粒子となって完全に消滅した。同時に魔法陣もふっと消える。
 その場に残されたのは、ただ静かに目を伏せるアウグネストと。
 鉄格子の向こうで、泣き崩れるネヴァリストニアだけだった……。




「リュイ。聞いていたか」

 地下牢から出たあと。
 アウグネストが確認すると、リュイは申し訳なさそうに頷いた。

「申し訳ございません。盗み聞きするつもりはありませんでしたが、扉のすぐ傍に控えていたゆえに話が聞こえました」
「いい。責めるつもりはない。だが……『七欲悪魔』とはなんなのだろうな」

 アウグネストはこれまで、『七欲悪魔』と『運命の番』は相反する能力であり、能力を与えた主は、対極にある別々の存在だと考えていた。
 しかし……彼らは異なる存在であるようで、実は同じ存在なのではないかと、考えざるを得ない。先代ガーネリア国王が先代正婿の亡くなったあとに色欲に苦しめられなかったのも、『運命の番』の能力が『七欲悪魔』に戻ってきて共存していたからではないか。
 だとしたら。
 なぜ彼らはわざわざ能力を分離しているのだろう。


     ◆◆◆


「へぇ、来月に結婚式を挙げるんだ。よかったな」

 数日前から、ハノスとフェリアーノ魔爵邸に里帰りをしていたテオ。テオって両親からもお兄さんからも溺愛されているんだけど、ハノスはどうにか結婚の了承をもぎとったらしい。
 というわけで二人は正式に婚約者同士、結婚式を挙げたら結婚だ。おめでたい。
 紫晶宮の広間で報告を聞いた俺は、素直にそう祝福した。

「お前のことだから、家庭に入るんだろ? 俺たちとお別れか」

 家庭に入るといっても、テオが家事をできるとは思えないから家政夫を雇って、本人はまったりと暮らすんだろうけど。まぁ、夫夫仲良く暮らしてくれ。

「……そう思うだろう? 普通は誰でもそう言ってくれるよね?」
「え、う、うん」

 俯き加減だったテオは、がばっと面を上げて握り拳を震わせた。

「あの暗殺鬼っ、『引き受けた仕事は最後までやり遂げて下さいね』って、さっき僕にわざわざ言いにきたんだ! 信じられるかい!? この僕をまだ働かせようとするなんて!」

 えーっと、つまり、王婿教育担当のテオドールフラム先生、続投ってことか。
 リュイさん……影の権力者だな。

「なんなんだ、あいつ! 悠々自適な結婚生活を送ろうと思っていたのにぃいいい!」

 悔しげに叫ぶテオをどう宥めようか、考えていたところに。

「あ、アウグネスト」
「ただいま。エリューゲン」

 アウグネストが帰ってきた。
 リュイさんは一緒じゃないや。まだ仕事をしているのかな。ひょっこり顔を出したシェフィが、あからさまにがっかりした顔をしている。
 おい、こらシェフィ。そんな露骨な表情をするんじゃない。

「おかえり。今日もお疲れ様」

 俺は、笑ってアウグネストを迎え入れた。
 紫晶宮は今日も平和だ。
 願わくは、この平和がずっと続きますように。



○○○○○○○○○

ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!
最終話となっておりますが、まだ物語自体は続きます。
次回からは少し番外編を更新しようと思います。(そのため、カップリング人気投票は、予定を繰り上げて明日で締め切ります)
そのあとから新章に入りますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです(⁠^⁠^⁠)

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