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第59話 ミルヴェール王国12
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キィン!
キィィン!
火花を散らしながら、激しくぶつかり合う二つの剣。猛攻するカリエスと、その太刀筋をとある魔法を使って先読みし、捌くネヴァリストニアだ。
ネヴァリストニアの傍に護衛の騎士たちの姿はない。すでにカリエスが打ち倒した。三人とも二度と剣を振るえぬ体となり、痛みに呻きながら地面に転がっている。
二人の戦闘が始まって十五分ほど。カリエスは攻撃に徹し、その怒涛の剣撃の前にはネヴァリストニアは防御に回るしかない。
ほとんど同年代の二人であるが。純粋な剣技であれば、カリエスの方が上だ。しかし、魔法の存在によって相手の攻撃を読めるネヴァリストニアには、互角に持ち込まれてしまう。
そうでなくとも、本気で殺しにかかる相手と、生きて捕縛せねばならないという制約の下で戦うのとでは、後者が圧倒的に不利だ。
「いい加減にそこをどけぇえええ!」
剣を弾き返すネヴァリストニアの怒号にも、カリエスは一歩も引かない。
「それなら、儂の屍を越えていくことだ」
ひたすら、攻撃。攻撃。攻撃。守りには入らない。
元々カリエスの剣技が超攻撃型というのもあるが、守りに入ったが最後、容易く防御を貫かれてしまう予感があった。ネヴァリストニアの魔力を削ぐためにも、攻めあるのみ。
ネヴァリストニアの魔力が底を突いたら、一気に勝負はつく。アウグネストが直々に相手をするまでもない。カリエスの勝利だ。
しかし――。
(ふう。さすがに体にくる)
全盛期ならまだまだ余裕だったろうが、年老いた身にこの戦い方はきつい。果たしていつまで保つか。
残り十分ほどでアウグネストは到着するだろうが、何かトラブルが起こって遅れないとも限らない。何よりも、主であるアウグネストを危険な目に遭わせるということが光剣として耐え難く、またアウグネストに剣術指南していた親しい関係性から、純粋に心配だった。
ゆえに、カリエスは動いた。自分の手でネヴァリストニアを仕留めにかかる。全神経とパワーを集中させ、たとえ先読みされても避けきれない神速の突きを繰り出す。
肩口を狙ったその攻撃は――
「っ!?」
見事に空振る。何もない大気だけを貫いた。
(まさか、【先見】ではなく、【電光石火】を使われた!?)
カリエスが仕留めにかかったことを察知し、攻撃を先読みする【先見】を一旦解除し、回避するための【電光石火】に切り替えたのでは。太刀筋を読めるかどうかは賭けだったのだろうが。
そして、ネヴァリストニアはその賭けに勝った。カリエスの渾身の攻撃をかろうじて回避し、反撃に出る。
カリエスの無防備な脇腹を、ネヴァリストニアの剣が貫いた。
「ぐあっ……!」
引き抜かれると、ぱっと鮮血が飛び散った。カリエスは刺された脇腹を押さえ、耐えられずにその場に膝をつく。
カラン、コロン。
手から剣が滑り落ちた。
「言われた通り、お前の屍を越えていくとしよう」
うずくまるカリエスの目の前までやってきた、ネヴァリストニア。剣を高く持ち上げる。
「死ね」
容赦なく、剣を振り下ろそうとした。が――。
瞬間、カリエスの後方から、風のように特攻する水の龍がネヴァリストニアを襲った。
水の龍は剣ごと力押しでネヴァリストニアの体を吹き飛ばし、体当たりされたネヴァリストニアは後退して体勢を整える。
――リュイか?
そう思ったが、違った。
「なーに、やってんだ。カリエス」
呆れた声音ながら、どこか飄々とした口調。
「勝ちに行くところじゃなかっただろ。アウグネストがくるまで粘ってあとを託すか、あるいは二人がかりで仕留めるべきところだったろ。過保護なところは相変わらずだな」
ダメ出しをしながら悠然と歩いてきたのは、なんとユヴァルーシュであった。カリエスの剣を拾い、カリエスを庇うように立つ。
驚いているのはネヴァリストニアだけでなく、カリエスも同じ。
「ユヴァルーシュ……お前がなぜここに」
「話はあと。残り何分、時間を稼げばいい?」
「……十分もあれば、おそらく陛下が到着される」
「十分、ね。まー、なんとかなるかな」
ユヴァルーシュは、慣れた手つきで剣を構えた。ネヴァリストニアを冷たい目で睥睨する。
「お前の胸なんて借りたくないが、少し付き合ってもらおうか。ネヴァリストニア」
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