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【季節番外編】聖バレンタインデー(ユヴァルーシュ×リュイ)

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「わ、わぁ……ヒトデ型のチョコなんて珍しいですね」

 エリューゲンがおそらく精一杯の賛辞を送る。
 リュイは沈黙したのち、正直に答えた。

「……星型で作ったのですが」
「え!」
「やはり、星型に見えませんよね」
「あ、いえ、その……て、手作りのものは、込めた気持ちの方が大切なんです! 大丈夫です、ユヴァルーシュなら分かってくれますよ!」

 必死に励ますエリューゲンに背中を押されて、リュイはとりあえず、作り終えたチョコたちを小箱に入れて、茶色い包装紙と赤いリボンでラッピングした。
 二人が何をしているのかというと。紫晶宮の厨房を借りて、それぞれの恋の相手にチョコレートを作っていたところだ。というのも、明日は冬のリア充イベント、聖バレンタインデーなのだ。
 ユヴァルーシュと遠距離恋愛中のリュイであるが。明日、ちょうど王都に顔を出すというユヴァルーシュのために、手作りチョコを用意しているというわけだった。

(こんな不格好なチョコ、喜んでくれるだろうか)

 間違いなく星型の型を使ったのに、なぜヒトデのようになってしまったのか我ながら謎でしかない。一緒に作ったエリューゲンは、綺麗なハート型になっているのに。
 自分の手先の不器用さに内心ため息をつきつつ、付き合ってくれたエリューゲンにお礼の言葉を口にして、リュイはその場をあとにした。




 ――そして、翌日。

「リュイちゃん、久しぶり」

 後宮を出てすぐ、ユヴァルーシュの姿があった。待ち合わせの時間はまだ先だし、待ち合わせ場所だって公園だったのに――と、リュイは不意打ちを食らった気分だ。

「早いですね。それに公園で待ち合わせしていたはずですが」
「予定より早く着いたから迎えにきた。リュイちゃんの顏も早く見たかったしね」
「そうですか」

 あっさりとした返答になってしまう。心の中では嬉しく思っているのだが、どうにも素直に感情を表に出せない。ユヴァルーシュに対しては昔からこうだ。
 そんな可愛げのない反応にも、ユヴァルーシュは特に気にした様子はなく、リュイに手を差し出した。

「じゃ、まずは腹ごしらえしよ」

 目の前にあるユヴァルーシュの手を、リュイはおずおずととった。すると、指を絡められて恋人繋ぎをすることになり、さらにぐいっと引き寄せられる。

「チョコ、ちょうだい」
「え……」
「作ってきてくれたんでしょ?」
「……どうして分かったんですか」

 小箱は懐にしまってあるので、何か袋を提げているわけでもないのに。
 不思議に思うしかないリュイに、ユヴァルーシュは優しげに笑う。

「長い付き合いだからね。それにリュイちゃん、律儀だから手作りしてくれるだろうなって」
「確かにその通りですが……わ、笑わないで下さいね」

 リュイは空いた手で小箱を懐から取り出し、ユヴァルーシュに差し出した。
 一旦、手を離したユヴァルーシュは小箱を受け取って中を見やる。不格好なチョコたちを見たユヴァルーシュはくすりと笑った。

「あはは、面白い星型だね」
「笑わないで下さいって言ったじゃないですか!」

 つい抗議の声を上げてから、あれ、と思う。ユヴァルーシュには星型だと分かったのか。
 些細なことではあるが、自分を理解してもらえていることが伝わってきて、なんだか嬉しい。付き合いが長いからこそ、だろう。

「ごめん、ごめん。せっかくだから、一緒に食べようか」
「あ、はい」

 リュイはユヴァルーシュの手にある小箱から、チョコを一つもらおうとした。が、伸ばした手がチョコを掴むより前に、間近にユヴァルーシュの顔が迫ってきた。
 不格好な星型チョコをくわえた口が、リュイの口を塞ぐ。チョコが二人の舌の上を転がって、少しずつ溶けていき、ほろ苦い味が口内に広がっていく。

「んっ、はっ……」

 まさかのチョコを交えたディープキス。細長いチョコを両端から食べ進めてキス、という行為ならよく聞くが……なんだこれ。
 チョコが完全に溶け切った時に、ようやくユヴァルーシュは口を離した。リュイの顔を覗き込むようにして、口端を持ち上げる。

「おいしいね」
「~~っ」

 リュイは頬を真っ赤にするしかなかった。すぐそこで門番の紫晶騎士たちが見ているというのに、その上こんな悪戯まで――この男には、羞恥心というものはないのか。

「か、回収します!」

 ユヴァルーシュの手から素早く小箱を奪い取る。チョコは残り四つだが、すべてをこんな食べ方をされたらたまらない。

「えー、もっと食べたかったのに」
「食べ物をおもちゃにするものではありません!」

 子供を叱りつけるように注意しつつ、小箱を懐に戻す。バクバクと脈打つ心臓の鼓動を宥めながら、けれど表向きは平静を装って先に歩き出した。

「早く、昼食を食べに行きましょう」
「はーい」

 小走りで追ってきたユヴァルーシュが、リュイの隣に並ぶ。さりげなく手を繋ぎ直して、すっとぼけたように言う。

「じゃ、ラブホでいい?」
「お断りします!」

 ――と言いつつ、夜にはラブホでユヴァルーシュと致すことになるリュイだ。その際、残り四つのチョコを同じようにして食べ合ったことは言うまでもない。

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