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第11話 溺愛ルートに入りました1★
しおりを挟む◆◆◆
これまで『花』というものに、アウグネストはいい思い出がなかった。
三歳の頃だったか。父王の側婿だった生みの父がいつも泣いているのが苦しくて、庭に咲く野花を摘んで差し出したことがあった。少しでも元気になってほしかったから。
だが、アウグネストの生みの父は、差し出した野花たちを手で払いのけた。
『こんなもの、いらない…っ……』
癇癪を起こして、そう拒んだ。だから幼心に、『花』にひとを喜ばせる力なんてないのだと理解した。
それからしばらく誰かに『花』を贈ることはなかったものの、アウグネストが王位について娶った三人の元王婿たちのお見舞いに、『花』を持っていったことがある。一般的に、お見舞いには『花』を用意するのがメジャーだからだ。それに夜の生活でのお詫びと、少しでも心が健やかになってくれたらと願って、というのもある。
だが、三人の元王婿たちの誰もが、贈った『花』を自室に飾るなんてことはしなかった。おそらく、『花』を見たらアウグネストのことを思い出して、リラックスできないからだろう。
そのことを察してから、アウグネストは『花』を持参することをやめた。いつしか直接、お見舞いに行く足さえも遠のいていった。それが元王婿たちへの最大限の配慮だった。
そういう経緯があって、エリューゲンのお見舞いに向かう時にはあえて『花』を用意しなかったのだ。結局、リュイから勧められて持っていくことになったが。
『何か珍しいお花があったら、私に贈って下さい。いただくたびに、花瓶に挿して飾ります』
エリューゲンの温かい言葉と、優しい笑みが、頭に思い浮かぶ。
そんなことを言ってくれたのは、エリューゲンが初めてだ。実際に、花瓶に『花』を生けて飾ってくれたのも。それも自分の部屋に。
思えば……出逢った頃からそうだ。エリューゲンはアウグネストのことを恐れないし、アウグネストの性欲も懸命に受け止めてくれる。それこそ気絶するまで。
それでも翌朝には、またいつでも付き合うと言ってくれる献身ぶりだ。内心では、きっとアウグネストの尽きない性欲に辟易としているだろうに。
夜伽専門の王婿、という話だが。アウグネストにとって、エリューゲン以上に心安らぐ王婿なんて、後にも先にも現れないだろう。独特な『香癖』持ちというのも面白い。
「……欲しい」
エリューゲンの身も心も手に入れたい。
ぽつりとこぼした呟きは、ちょうど政務室に顔を出した宰相の耳に届いたようだ。目を丸くして、「何か欲しいものがおありなんですか」と聞いてきた。
アウグネストははっとして、現実に引き戻る。
「あ……いや。なんでもありません。気にしないで下さい」
つい敬語を使ってしまったのは、宰相といっても叔父のネヴァリストニアだからだ。無論、今は二人っきりだからで、おおやけの場では口調をきちんと変えるが。
「それよりも、叔父上。なんの御用でしょう」
「新しい王婿殿下とのご様子を伺おうと思いまして。どうでしょう、長く付き合っていけそうなお相手ですか?」
「はい。問題ありません。話をご用意していただいてありがとうございます」
「いえ。陛下がお健やかに暮らせるよう尽力するのは、臣下として当然のことです」
もちろん、叔父として甥を気にかけているというのもありますがね、とネヴァリストニアは朗らかに笑う。
「問題ないのでしたら、ようございました。それでは、外交のお話ですが――」
◆◆◆
あれから俺は、午前中は王婿教育の講義、午後は趣味の調香、夜はアウグネスト陛下の夜伽役、という生活サイクルが出来上がった。
「あっ、んんっ、は…っ……」
身体が浮き上がるほどの、下からの強烈な突き上げ。対面座位の体勢で、俺はアウグネスト陛下の首裏にしがみつきながら喘ぐ。
正式に後宮入りしてから早五日。アウグネスト陛下は毎夜、紫晶宮に顔を出している。雑談もそこそこにベッドインして、俺たちは激しい交合を交わす。
最初こそこわごわと俺を抱いていたアウグネスト陛下だったけど、数日連続抱いてもけろりとしている俺の様子に手加減する必要はない、と断じたらしい。俺が求めるような、激しい攻めを見せるようになってきた。
「あぁっ、イ、く! イっちゃう……!」
花襞を限界まで押し広げて出し入れされる、アウグネスト陛下の肉棒。ぐちゅぐちゅと響く水音がいやらしくて、羞恥心を掻き立てる。
でも一方で、それが興奮と快楽のスパイスにもなるんだから、性行為って不思議だ。
「イきたいか、エリューゲン」
「は、い……あぁっ、イきたいです、んんっ」
素直に答えると、許可するとでも言うように怒涛の突き上げが始まる。がくがくと揺さぶられて、俺はあっさり絶頂を駆け上がる。
「やぁあああああ、ん!」
花棒から透明な蜜液が噴き出す。白濁していないのは、『種宿』だからだ。『放種』のアウグネスト陛下の蜜液は、ちゃんと白濁していた。
イッてすぐ、だけど息をつく暇もなく、アウグネスト陛下の抽挿が再開する。今度は寝台に押し倒されて、正常位の体勢で。
あぁ……もう、すごく気持ちいい。最高。
どんどん肉欲に溺れていく自分が怖くないわけじゃないけど……夜伽役なんだから、いいよな? 俺は贄婿ライフを存分に満喫するんだ。
恋とか愛とかどうでもいい。性欲さえ満たしてもらえたら、それでいい。
と、思い始めていたのに。
「愛している。エリューゲン」
……ん?
最中の愛の睦言に、俺はぴくりと反応した。あ、『愛している』?
アウグネスト陛下の顔を見上げると、愛おしげに俺を見下ろす黄褐色の瞳と目が合う。
「俺の子を産んではくれないか」
は――はぁ!?
俺は夜伽専門の王婿だぞ。何を寝ぼけたことを言っているんだ、このひと。
「な、何をおっしゃられ……んっ、あぁっ」
「お前と家族を作りたくなった。お前となら、きっと幸せな家庭が築けると思うんだ」
俺とならって……あんた、俺の何を知っているっていうんだよ。出会ってから、まだ一週間くらいしか経っていないだろ。
「お前のことも、生まれてくる子供のことも、俺が守るから」
「ちょ、ちょっと、落ちつい……やっ、んんっ」
上にのしかかられて、唇を塞がれる。俺の口内もを犯すアウグネスト陛下の舌と舌を絡め合う。く、くそ。動揺していても、快楽を知った身体は貪欲だ。
奥深くまで挿入された熱芯が、俺の蠢く柔壁に反応して、膨れ上がっていく。やがて、力強く腰を突き出すと、俺の中でアウグネスト陛下の雄が弾けた。
どくり、と蜜液が体内に吐き出される。
中出しされるこの感覚にはもう慣れているし、好きなものだけど、この時ばかりは内心慌てた。本当にアウグネスト陛下の子供を妊娠してしまうのでは、と危惧したためだ。いや、そんなの今更なんだけど。
「エリューゲン」
名を呼ばれて顔を上げると、すぐ間近にアウグネスト陛下の顔が迫ってきていて。
「愛しているよ」
もう一度、愛の睦言を囁いて、触れるだけのキスを落とされた。
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