【更新停止中】契約番の俺たちがお互いの最愛になるまで

深凪雪花

文字の大きさ
上 下
13 / 14

第13話 メルティアの過去3

しおりを挟む


 泣き終わった後、ようやく俺は父さんのお墓参りができた。特に何を語りかけたわけでもないけど、心の中で一言「ごめん」とだけ謝罪した。俺はずっと、父さんの想いを踏みにじるような生き方をしてきたんだと気付いたから。
 そしてその帰り道。

「あの……シュフィゼさん。あ、ありがとう」

 小高い丘を下りながら、先を歩くシュフィゼに声をかける。
 誰にも打ち明けていなかった過去、考え、生き方。それらをシュフィゼには強引に暴かれたようなものだけど、でも結果的にだからこそ自分の間違いに気付くことができた。
 今回のことがなかったら、きっと俺は死ぬまで誤った道を進んでいたと思う。だから、気付かせてくれたシュフィゼには感謝しないと。
 シュフィゼは立ち止まり、くるりと振り返って悪戯っぽく笑う。

「お礼なら、キス一つで手を打つよ。……なーんて」

 場を和ませるためか、おちゃらけるシュフィゼ。まさか、真面目に受け取ってキスしてくることはないだろうという顔。
 俺は数秒、考え込んだのち。
 ――ちゅっ。
 シュフィゼの頬にキスをした。

「……え?」

 シュフィゼは、ぽかん。何をされたのか分からないといった顔をするシュフィゼに、俺は茶目っ気たっぷりに笑い返す。

「自分から要求しておいて、驚くなよ」
「え、あ、だって……」
「ほら、早く王都に帰ろう。暗くなる前に帰らないと」

 シュフィゼの横を通り過ぎ、今度は俺がシュフィゼより先を歩く。シュフィゼは慌てて追いかけてきた。俺の隣に並んで、一緒にギルニトラが待つ場所まで向かう。

「……これからどうするの、メルティア君は」

 俺は空を見上げ、考える。これからどうするのか。誤った道を進んでいたのなら、それを正さなくちゃいけないわけだけど……うーん、今すぐ答えを出すのは難しい。

「まだ分からない。だから、答えが出るまでは今の職場で働くよ。魔法は……ちょっと、控えようと思うけど」

 魔術師としてならより社会貢献できると思っていた魔法医務官になったわけだけど、『聖魔の番』がいないのに無理に続けるのはどうなのかなーって。
 シュフィゼ……恋人でも伴侶でもない相手に抱かれてまで魔法を使うのは、どうも間違っているような気がする。

「そっか。それがいいと思うよ」

 予想に反して、シュフィゼは柔らかく笑って賛同してくれた。性行為しなくなるわけだから嫌がるかなって思っていたんだけど、肩透かし。
 あれ? 実は、性行為三昧の日々に辟易としていたんだろうか。シュフィゼとの性行為……いざなくなるんだと思うと、なんだろう。胸の辺りがモヤモヤする。
 それに。

「……俺を抱けなくなってもいいのか」

 ポロッと思っていたことをこぼしてしまった。
 俺は、慌てふためいた。いやいや、何をアホなことを聞いているんだよ! 今までの関係がおかしかったんだろ! 友達同士で性行為する方が変なのに。
 シュフィゼは、目をぱちくりとさせていた。

「俺に抱かれたいの?」
「…っ……、そ、そんなわけないだろ! 今のは言葉のあやだ! 忘れてくれ!」
「嫌だよ。忘れてあげない」

 なぜか、上機嫌になってクスクスと笑うシュフィゼに対し、俺は顔が真っ赤だ。茹でタコになるとは、まさにこのこと。
 ううっ、俺としたことが。こいつを調子に乗せるようなことを……!
 猛烈な後悔の念に襲われつつも、思う。
 もし、俺が魔術師をやめることを決意したら。そうしたら、シュフィゼとの番の契約は終わる。そうなったら――シュフィゼとの縁はもう切れるんだろうか。

『ずっと一緒にいようね』

 以前、そうは言っていたけど、本当に一緒にいてくれるのかな。シュフィゼの能力なら、他に契約番の話があるかもしれない。仮にそれを引き受けたら、俺を抱いていたみたいに、新しい番相手のことも抱くんじゃ。
 そう思い至った時、胸に冷たい風が吹き込むような感覚に襲われた。




「ああーっ、やっと帰ってきた!」

 日が傾き始めた頃。
 魔法騎士団寮まで帰った俺たちを、玄関ホールで出迎えたのはガゼッタさんだ。雰囲気から察するに何か用事があるみたいだけど、なんだろう。

「ただいま戻りました。どうしたんですか、ガゼッタさん」
「それがね、メルティア君に国王陛下から直々に引き抜きの通達が届いたんだよ! ここでの仕事ぶりがお耳に届いたらしくて!」
「……引き抜き、ですか?」

 それはもちろん、魔法医務官として、だろう。国王陛下からの引き抜き。考えられる仕事先といったら――。
 ガゼッタさんは興奮した様子で、通達の書類を俺に提示した。

「次の勤務先は、なんと後宮! それも、正妃殿下が住まわれる宮殿だよ! ――すごいね、国王陛下からお声がかかるなんて!」
「えーっと……お仕事の内容は」
「マッサージ兼、メンタルヘルスの仕事だって」

 メンタルヘルスってことは、やっぱり魔法を使わないとならないのか。
 俺は、どう反応すべきか分からなかった。以前までの俺なら、王妃様のお役に立てるって手放しで喜んでいたんだろうけど……。
 つい隣に立つシュフィゼをちらりと見上げると、……ん? なんだろう。なんとなく、気まずそうな表情をしている気がする。

「……シュフィゼさん?」

 まさか正妃殿下と知り合い、なのか? いやでも、いくら魔術師の名家出身といっても、そこまで高貴な身分の方と接点があるとは思えない。じゃあ、後宮に住まう誰か他のひと?
 ――なんにせよ。
 国王陛下から直々に引き抜かれるというお話を、庶民の身で断れるはずがない。



○○○○○○○○

拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。
特にお気に入り、いいね、は大変励みになっております。
連載を始めたばかりなのに恐縮ですが、次回更新は一ヶ月後とさせて下さい……!(急な用事で私生活が忙しくなるため、執筆時間の確保が難しくなりまして)
多少は区切りいいところまで執筆したつもりですが、本当に申し訳ございません。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

処理中です...