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第13話 メルティアの過去3
しおりを挟む泣き終わった後、ようやく俺は父さんのお墓参りができた。特に何を語りかけたわけでもないけど、心の中で一言「ごめん」とだけ謝罪した。俺はずっと、父さんの想いを踏みにじるような生き方をしてきたんだと気付いたから。
そしてその帰り道。
「あの……シュフィゼさん。あ、ありがとう」
小高い丘を下りながら、先を歩くシュフィゼに声をかける。
誰にも打ち明けていなかった過去、考え、生き方。それらをシュフィゼには強引に暴かれたようなものだけど、でも結果的にだからこそ自分の間違いに気付くことができた。
今回のことがなかったら、きっと俺は死ぬまで誤った道を進んでいたと思う。だから、気付かせてくれたシュフィゼには感謝しないと。
シュフィゼは立ち止まり、くるりと振り返って悪戯っぽく笑う。
「お礼なら、キス一つで手を打つよ。……なーんて」
場を和ませるためか、おちゃらけるシュフィゼ。まさか、真面目に受け取ってキスしてくることはないだろうという顔。
俺は数秒、考え込んだのち。
――ちゅっ。
シュフィゼの頬にキスをした。
「……え?」
シュフィゼは、ぽかん。何をされたのか分からないといった顔をするシュフィゼに、俺は茶目っ気たっぷりに笑い返す。
「自分から要求しておいて、驚くなよ」
「え、あ、だって……」
「ほら、早く王都に帰ろう。暗くなる前に帰らないと」
シュフィゼの横を通り過ぎ、今度は俺がシュフィゼより先を歩く。シュフィゼは慌てて追いかけてきた。俺の隣に並んで、一緒にギルニトラが待つ場所まで向かう。
「……これからどうするの、メルティア君は」
俺は空を見上げ、考える。これからどうするのか。誤った道を進んでいたのなら、それを正さなくちゃいけないわけだけど……うーん、今すぐ答えを出すのは難しい。
「まだ分からない。だから、答えが出るまでは今の職場で働くよ。魔法は……ちょっと、控えようと思うけど」
魔術師としてならより社会貢献できると思っていた魔法医務官になったわけだけど、『聖魔の番』がいないのに無理に続けるのはどうなのかなーって。
シュフィゼ……恋人でも伴侶でもない相手に抱かれてまで魔法を使うのは、どうも間違っているような気がする。
「そっか。それがいいと思うよ」
予想に反して、シュフィゼは柔らかく笑って賛同してくれた。性行為しなくなるわけだから嫌がるかなって思っていたんだけど、肩透かし。
あれ? 実は、性行為三昧の日々に辟易としていたんだろうか。シュフィゼとの性行為……いざなくなるんだと思うと、なんだろう。胸の辺りがモヤモヤする。
それに。
「……俺を抱けなくなってもいいのか」
ポロッと思っていたことをこぼしてしまった。
俺は、慌てふためいた。いやいや、何をアホなことを聞いているんだよ! 今までの関係がおかしかったんだろ! 友達同士で性行為する方が変なのに。
シュフィゼは、目をぱちくりとさせていた。
「俺に抱かれたいの?」
「…っ……、そ、そんなわけないだろ! 今のは言葉のあやだ! 忘れてくれ!」
「嫌だよ。忘れてあげない」
なぜか、上機嫌になってクスクスと笑うシュフィゼに対し、俺は顔が真っ赤だ。茹でタコになるとは、まさにこのこと。
ううっ、俺としたことが。こいつを調子に乗せるようなことを……!
猛烈な後悔の念に襲われつつも、思う。
もし、俺が魔術師をやめることを決意したら。そうしたら、シュフィゼとの番の契約は終わる。そうなったら――シュフィゼとの縁はもう切れるんだろうか。
『ずっと一緒にいようね』
以前、そうは言っていたけど、本当に一緒にいてくれるのかな。シュフィゼの能力なら、他に契約番の話があるかもしれない。仮にそれを引き受けたら、俺を抱いていたみたいに、新しい番相手のことも抱くんじゃ。
そう思い至った時、胸に冷たい風が吹き込むような感覚に襲われた。
「ああーっ、やっと帰ってきた!」
日が傾き始めた頃。
魔法騎士団寮まで帰った俺たちを、玄関ホールで出迎えたのはガゼッタさんだ。雰囲気から察するに何か用事があるみたいだけど、なんだろう。
「ただいま戻りました。どうしたんですか、ガゼッタさん」
「それがね、メルティア君に国王陛下から直々に引き抜きの通達が届いたんだよ! ここでの仕事ぶりがお耳に届いたらしくて!」
「……引き抜き、ですか?」
それはもちろん、魔法医務官として、だろう。国王陛下からの引き抜き。考えられる仕事先といったら――。
ガゼッタさんは興奮した様子で、通達の書類を俺に提示した。
「次の勤務先は、なんと後宮! それも、正妃殿下が住まわれる宮殿だよ! ――すごいね、国王陛下からお声がかかるなんて!」
「えーっと……お仕事の内容は」
「マッサージ兼、メンタルヘルスの仕事だって」
メンタルヘルスってことは、やっぱり魔法を使わないとならないのか。
俺は、どう反応すべきか分からなかった。以前までの俺なら、王妃様のお役に立てるって手放しで喜んでいたんだろうけど……。
つい隣に立つシュフィゼをちらりと見上げると、……ん? なんだろう。なんとなく、気まずそうな表情をしている気がする。
「……シュフィゼさん?」
まさか正妃殿下と知り合い、なのか? いやでも、いくら魔術師の名家出身といっても、そこまで高貴な身分の方と接点があるとは思えない。じゃあ、後宮に住まう誰か他のひと?
――なんにせよ。
国王陛下から直々に引き抜かれるというお話を、庶民の身で断れるはずがない。
○○○○○○○○
拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。
特にお気に入り、いいね、は大変励みになっております。
連載を始めたばかりなのに恐縮ですが、次回更新は一ヶ月後とさせて下さい……!(急な用事で私生活が忙しくなるため、執筆時間の確保が難しくなりまして)
多少は区切りいいところまで執筆したつもりですが、本当に申し訳ございません。
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