【更新停止中】契約番の俺たちがお互いの最愛になるまで

深凪雪花

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第11話 メルティアの過去1

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 俺の実家は、きっと貧乏に当たる家だろう。それでも、両親は優しくて愛情いっぱいに育ててくれていたから、貧乏でもつらくはなかった。
 貧乏ながら日々が楽しく家族三人で暮らしていた、ある日――俺が流行り病にかかって高熱を出した。両親はすぐに街医者の下へ連れて行ったけど、治療薬が高額過ぎて購入できず、診察代しか支払えなかったらしい。
 高熱でうなされ、苦しみ続ける幼い頃の俺。このまま死んでしまうのではないか、と両親ともに焦燥に駆られていたという。特に父親は自らの稼ぎのなさを恥じ、自身を責め、追い詰めた結果――なんと、治療薬を窃盗するという暴挙に出た。
 そんなことを露知らない俺は、治療薬を服用して回復。瞬く間に元気になった。でも、それからすぐに警吏官たちが実家にきて、父親を連行していき、父親が犯した罪を知った。
 ただ、事情が事情だけに情状酌量の余地があると判断され、申し渡された禁固刑の期間は数年。もし、釈放金を支払えるのなら、すぐにでも釈放してもらえるという話。
 その後の俺と母親は、生活していくのに精一杯で保釈金を用意できなかったけど、数年の辛抱だと言い聞かせて父親の帰りを待った。待っていた。でも……帰ってくることはなかった。
 というのも、懲役期間を過ぎても、父親は頑として牢獄から出てこなかったんだ。自分は決して許されぬことをしてしまったから、と。
 それなら、父親が窃盗した治療薬の当時のお金を俺が用意しよう。そうすれば、父親の罪悪感を少しでも払拭し、牢獄を出て実家に帰るように心変わりさせられるかもしれない。
 幸いなことに、俺には魔法の才能があると発覚したので、魔術師になったらそのためのお金を稼ごうと思っていたんだ。でも、現実は非情で。

『メルティア……お、お父さんが死んじゃったって』

 魔術学院に在学中、母親からそう聞かされた。過酷な獄中生活で、寿命を縮めてしまったというのは明らかだった。
 俺のせいで罪を犯し、でも頑として自分の罪を許さず、牢獄で死んでいった父親。
 俺が殺したのも同然だ。だから、俺は――その罪を償わなきゃいけない。ひととしてまっとうに生き、真面目に働いて、たくさん社会貢献して。贖罪が終わる日まで、俺は決して幸せを手に入れたらダメなんだよ。

『お父さんの件は、メルティア君のせいじゃないよ』

 そんなわけがない。全部、全部、俺のせいだ。




 そこで俺は、はっと目を覚ます。
 布団から這い出ると、外から差し込む光は陽光だ。あれ、あの後、寝落ちしてしまって、一晩経ってしまったのか。
 二段寝台の上段を見上げる。いつもシュフィゼが使用しているそこに、だけどシュフィゼの姿はない。もしかしたら、あれからずっと帰ってこなかったのかもしれない。
 出て行け、もう顔を見たくない、って言ったのは俺だけど。本当に出て行ったのか?

「……言い過ぎた、かも」

 一晩経って冷静さを取り戻した今、きつく当たってしまったことを申し訳なく思う。今思えば、あそこまで怒るようなことじゃなかったのに。
 目の前を、ひらひらとコウが舞う。あれ、コウのことは置いて行ってくれたのか。
 俺が指先を差し出すと、ふわりとコウが乗っかった。

「コウ。あいつ、どこに行ったのかな」

 答えなんて返ってくるわけがないと分かっていても、訊ねざるを得なかった。だって、あいつと繋がっている存在といったらもうコウしかいないんだ。
 俺の質問に、なんとコウは行動で応えた。指先からひらりと離れて、扉の前をくるくると旋回する。まるで案内するよ、と言ってくれているかのようだ。
 仕事着のままだし、髪も寝癖だらけだけど、俺は急いで扉を開けた。開けようとした。が、おかしい。ドアノブは動くのに、重くて外側に押し開けられない。
 廊下側の扉の前に、何か重石でも置かれているのか?

「く、そっ!」

 ドアノブを掴み回したまま、俺は思いっ切り扉を蹴り飛ばした。行儀が悪いのは重々承知だけど、このまま外に出られなかったら困るだろ。
 すると、やっと扉が開いた。同時に「いてっ!」とシュフィゼの声が聞こえた。何事だと思うと、廊下の向かい側の壁にシュフィゼが寝転がっていた。
 ……あれ? もしかして、ずっと部屋の扉の前で寝ていて、俺が強引に扉を開けたから向かい側の壁に吹っ飛んだ感じ?

「いたた……乱暴に起こすなぁ」

 壁に打ちつけた頭を擦りながら、シュフィゼが起き上がる。俺にあんな物言いをされてどんな状態なのか心配だったんだけど、その様子は至っていつも通りだ。

「おはよう。ぐっすり眠れた?」
「……おはよう。なんでこんなところに」
「出て行けって言うから。部屋からはちゃんと出て行っていたよ」

 なんだそりゃ。確かにその通りだけど、そういうことを聞いているんじゃないんだよ。だいたい、そういう問題か?

「街の宿屋にでも泊まればよかったじゃん」
「そんなことできないよ。メルティア君のことが心配だったから」

 だからって、廊下で寝込む奴があるか。
 とは思うものの、それだけ俺のことを心配していてくれたんだと思うと、胸にじぃんとくるものがある。ますます、あんな八つ当たりみたいな態度をとってしまったことを後悔した。

「……昨日は言い過ぎたよ。ごめん」

 俺がバツの悪い顔で謝ると、シュフィゼも苦笑いで謝罪してきた。

「謝るのは俺の方だよ。勝手に個人情報を調べる真似をしてごめん。ああいうことって、本人の口から聞くべきことだったよね」
「それは……もういいよ。過ぎたことだ。それに俺を心配してくれてのことだったんだろ」

 床に座り込んだままのシュフィゼに、そっと手を差し伸べる。シュフィゼはちょっぴり嬉しそうな顔をして俺の手を取り、立ち上がった。
 すぐに手を離そうとしたけど、シュフィゼの方が掴んで離さない。ぐいっと力強く引き寄せられて、俺はまたシュフィゼの腕の中にすっぽり。
 ハ、ハグされるのって、まだ慣れないんだけど。いや、そもそもなんでハグしてくるんだ。

「な、なんだよ」
「今日は休みだったよね。ちょっと、付き合って」

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