11 / 14
第11話 メルティアの過去1
しおりを挟む俺の実家は、きっと貧乏に当たる家だろう。それでも、両親は優しくて愛情いっぱいに育ててくれていたから、貧乏でもつらくはなかった。
貧乏ながら日々が楽しく家族三人で暮らしていた、ある日――俺が流行り病にかかって高熱を出した。両親はすぐに街医者の下へ連れて行ったけど、治療薬が高額過ぎて購入できず、診察代しか支払えなかったらしい。
高熱でうなされ、苦しみ続ける幼い頃の俺。このまま死んでしまうのではないか、と両親ともに焦燥に駆られていたという。特に父親は自らの稼ぎのなさを恥じ、自身を責め、追い詰めた結果――なんと、治療薬を窃盗するという暴挙に出た。
そんなことを露知らない俺は、治療薬を服用して回復。瞬く間に元気になった。でも、それからすぐに警吏官たちが実家にきて、父親を連行していき、父親が犯した罪を知った。
ただ、事情が事情だけに情状酌量の余地があると判断され、申し渡された禁固刑の期間は数年。もし、釈放金を支払えるのなら、すぐにでも釈放してもらえるという話。
その後の俺と母親は、生活していくのに精一杯で保釈金を用意できなかったけど、数年の辛抱だと言い聞かせて父親の帰りを待った。待っていた。でも……帰ってくることはなかった。
というのも、懲役期間を過ぎても、父親は頑として牢獄から出てこなかったんだ。自分は決して許されぬことをしてしまったから、と。
それなら、父親が窃盗した治療薬の当時のお金を俺が用意しよう。そうすれば、父親の罪悪感を少しでも払拭し、牢獄を出て実家に帰るように心変わりさせられるかもしれない。
幸いなことに、俺には魔法の才能があると発覚したので、魔術師になったらそのためのお金を稼ごうと思っていたんだ。でも、現実は非情で。
『メルティア……お、お父さんが死んじゃったって』
魔術学院に在学中、母親からそう聞かされた。過酷な獄中生活で、寿命を縮めてしまったというのは明らかだった。
俺のせいで罪を犯し、でも頑として自分の罪を許さず、牢獄で死んでいった父親。
俺が殺したのも同然だ。だから、俺は――その罪を償わなきゃいけない。ひととしてまっとうに生き、真面目に働いて、たくさん社会貢献して。贖罪が終わる日まで、俺は決して幸せを手に入れたらダメなんだよ。
『お父さんの件は、メルティア君のせいじゃないよ』
そんなわけがない。全部、全部、俺のせいだ。
そこで俺は、はっと目を覚ます。
布団から這い出ると、外から差し込む光は陽光だ。あれ、あの後、寝落ちしてしまって、一晩経ってしまったのか。
二段寝台の上段を見上げる。いつもシュフィゼが使用しているそこに、だけどシュフィゼの姿はない。もしかしたら、あれからずっと帰ってこなかったのかもしれない。
出て行け、もう顔を見たくない、って言ったのは俺だけど。本当に出て行ったのか?
「……言い過ぎた、かも」
一晩経って冷静さを取り戻した今、きつく当たってしまったことを申し訳なく思う。今思えば、あそこまで怒るようなことじゃなかったのに。
目の前を、ひらひらとコウが舞う。あれ、コウのことは置いて行ってくれたのか。
俺が指先を差し出すと、ふわりとコウが乗っかった。
「コウ。あいつ、どこに行ったのかな」
答えなんて返ってくるわけがないと分かっていても、訊ねざるを得なかった。だって、あいつと繋がっている存在といったらもうコウしかいないんだ。
俺の質問に、なんとコウは行動で応えた。指先からひらりと離れて、扉の前をくるくると旋回する。まるで案内するよ、と言ってくれているかのようだ。
仕事着のままだし、髪も寝癖だらけだけど、俺は急いで扉を開けた。開けようとした。が、おかしい。ドアノブは動くのに、重くて外側に押し開けられない。
廊下側の扉の前に、何か重石でも置かれているのか?
「く、そっ!」
ドアノブを掴み回したまま、俺は思いっ切り扉を蹴り飛ばした。行儀が悪いのは重々承知だけど、このまま外に出られなかったら困るだろ。
すると、やっと扉が開いた。同時に「いてっ!」とシュフィゼの声が聞こえた。何事だと思うと、廊下の向かい側の壁にシュフィゼが寝転がっていた。
……あれ? もしかして、ずっと部屋の扉の前で寝ていて、俺が強引に扉を開けたから向かい側の壁に吹っ飛んだ感じ?
「いたた……乱暴に起こすなぁ」
壁に打ちつけた頭を擦りながら、シュフィゼが起き上がる。俺にあんな物言いをされてどんな状態なのか心配だったんだけど、その様子は至っていつも通りだ。
「おはよう。ぐっすり眠れた?」
「……おはよう。なんでこんなところに」
「出て行けって言うから。部屋からはちゃんと出て行っていたよ」
なんだそりゃ。確かにその通りだけど、そういうことを聞いているんじゃないんだよ。だいたい、そういう問題か?
「街の宿屋にでも泊まればよかったじゃん」
「そんなことできないよ。メルティア君のことが心配だったから」
だからって、廊下で寝込む奴があるか。
とは思うものの、それだけ俺のことを心配していてくれたんだと思うと、胸にじぃんとくるものがある。ますます、あんな八つ当たりみたいな態度をとってしまったことを後悔した。
「……昨日は言い過ぎたよ。ごめん」
俺がバツの悪い顔で謝ると、シュフィゼも苦笑いで謝罪してきた。
「謝るのは俺の方だよ。勝手に個人情報を調べる真似をしてごめん。ああいうことって、本人の口から聞くべきことだったよね」
「それは……もういいよ。過ぎたことだ。それに俺を心配してくれてのことだったんだろ」
床に座り込んだままのシュフィゼに、そっと手を差し伸べる。シュフィゼはちょっぴり嬉しそうな顔をして俺の手を取り、立ち上がった。
すぐに手を離そうとしたけど、シュフィゼの方が掴んで離さない。ぐいっと力強く引き寄せられて、俺はまたシュフィゼの腕の中にすっぽり。
ハ、ハグされるのって、まだ慣れないんだけど。いや、そもそもなんでハグしてくるんだ。
「な、なんだよ」
「今日は休みだったよね。ちょっと、付き合って」
84
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです

幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる