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第10話 魔法騎士団寮6
しおりを挟む俺が考案した、魔法付きマッサージのサービス。
結論から言うと、大成功だった。チラシ配りをした翌日から、休日中の魔法騎士たちがちょくちょく訪れてきて、のんびりしている暇はないほど、盛況だ。……医務室が盛況って、果たして正しい表現なのか分からないけど。
「いやあ、助かるよ。体の凝りがほぐれて楽になった。ありがとう」
「いえ。またいつでもきて下さい」
また一人、満足げな顔をして医務室を後にしていく。
今日のマッサージ最後の患者を見送ってから、医務室の扉に提げてある、小さな看板を『CLOSE』にひっくり返す。ちょうど、終業時間になったんだ。
ふう、今日もあくせく働いたぞ。俺としても満足。
ちなみにガゼッタさんは、マッサージをしない代わりに、マッサージ前の患者の血圧なんかを測定して体調チェックをするようになった。さすがに俺だけ勤労している状態なのは、上司として気まずいものがあったらしい。巻き込んだみたいでちょっと申し訳ないけど、でも俺としても譲れないことなんだよ。
「今日もお疲れ様、メルティア君。ほとんど休憩していないみたいだけど、君自身の体調は大丈夫? くれぐれも無理はしないようにね」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ。こう見えて、体は頑丈なので」
「それならいいけど。じゃあ、帰ろうか」
帰る、っていっても、お互いにここに住んでいるわけで。階段をのぼって、俺は二階部分の廊下でガゼッタさんと別れた。ガゼッタさんの部屋は三階みたいだから。
昼は職場でもりもり働いて。夜は……魔法を使った回数分だけ、シュフィゼに抱かれる。ここ一週間ほどは、そんな忙しない毎日だ。
「ただいま」
自室の扉を開けて中に入ると、文机にふんぞり返って本を読んでいるシュフィゼの姿があった。が、俺の帰りに気付くと、すぐに出迎えに駆け寄ってくる。やっぱり犬みたいだ。
「おかえり。お疲れ様。ええと……今日も魔法を使ったの?」
「使った。三回」
あっけらかんと答えると、シュフィゼはなんとも形容し難い表情を浮かべた。嬉しそうな、一方でまたかというような呆れの色、それでいて気遣わしげな、複雑な表情だ。
「……あのねえ、メルティア君。毎日毎日、上限回数分の魔法を使ってくるのはどうかと思うんだけど。メルティア君の場合、性行為しなくちゃいけないんだよ?」
「あんたが対応してくれるじゃん」
「そりゃあ俺は性欲が強い自負があるけど、それでも毎日のように一夜で三回も抱くのはきついものがあるよ。何よりも、メルティア君の体力がしんぱ……」
「休みの日は、使わないようにするって」
週に二日休みがあるから、延々と仕事をする日々が続くわけじゃない。休みをちょくちょく挟めば、持続可能なサイクルのはず。
「だから、頑張ってくれよ。今夜も三回」
「……すっかり順応したね。初めは嫌がっていたのに」
「あんたは嫌なのか」
「嫌ならとっくに契約番なんてやめているよ」
俺の顎をくいっと持ち上げ、貪るようなキスをしてくるシュフィゼ。連続して三回はきついから小分けにしようってことなのか。
ディープキスに俺も応えながら、シュフィゼの首裏に腕を回す。抱き合って互いに舌を貪って、一回目の性行為コースへ突入。
……確かに、慣れてしまった感は否めないな。慣れって怖い。
そんな忙しない日々が続くこと、早一ヶ月。
寮生活にも慣れてきたってところなのに、シュフィゼやガゼッタさんの俺への不安がとうとう的中してしまった。
――気付かぬうちに蓄積していた疲労で、仕事中にぶっ倒れてしまったんだ。
たまたま、遊びに顔を出したというシュフィゼは仰天し、気絶した俺を自室まで運んでくれた、らしい。俺は気付いたら、自室の寝台に仰向けに横たわっていた。
「もう、やっぱり無理していたんじゃん。言わんこっちゃない」
傍に付き添ってくれているシュフィゼが、やれやれと言いたげにぼやく。
俺は押し黙るほかなかった。無理をしていた自覚なんてないけど、ぶっ倒れておきながらそれを口にしたところで説得力がない。
「はあ、無事でよかったよ。人間、働きすぎると過労死することがあるんだからね。勤労するのもいいけど、過労の領域まで入ったらダメだよ」
「……これからは気を付けるよ。心配させてごめん」
迷惑をかけたことは事実なので、素直に謝罪する。シュフィゼは眉尻を下げた。
「別に謝らなくていいけど……約束だよ?」
「うん。魔法は一日二回までに減らす」
ボケたわけでもないのに、すかさずシュフィゼは突っ込む。
「全っ然、分かっていないじゃん! 一回減らせばいいってものじゃないよ! そもそも、働き方の姿勢を考え直して……」
「俺は少しでもひとよりも多く、社会貢献したいんだよ。今までのままでだって足りないくらいなのに、減らすって言っているんだから譲歩しているだろ」
なぜか、物言いたげに俺を見下ろすシュフィゼの瞳。言おうか言うまいか逡巡するそぶりを見せた後、意を決したように口に出した。
「……その、ひとよりも社会貢献したいっていうのは、お父さんへの罪悪感?」
ぎくりとした。物言いからして、俺の過去を知っているように思える。王都にきてから、誰にも話したことのない過去なのに、なんで知っているんだ。
「な、んで……」
「ごめん。ちょっと実家のツテを使って、メルティア君の生い立ちとかを調べたんだ」
俺のことを勝手に調べただと。俺の許可なく、陰でこそこそと。
なんでそんなことをしたのかは分からないものの、プライバシーを踏みにじられた気がして、頭にカッと血がのぼった。
「なんだよそれ! ひとのことを勝手に詮索するな!」
起き上がって思わず声を荒げると、シュフィゼは申し訳なさそうな顔をする。
「本当にごめん。でもちょっと、メルティア君の仕事への異常な執着心がなんだか気になっちゃって……」
「あんたには関係のないことだっただろ!」
枕でぶっ叩きたい衝動が沸き上がったけど、必死に堪えた。さすがに、どんなに怒っていても暴力に訴えるのはよくないことだろう。
「出て行ってくれ! あんたの顏なんてもう見たくない!」
再び寝台に横たわる。今度は、シュフィゼに背中を向ける体勢で。さらに布団を頭からかぶって、完全に視界からシュフィゼの姿を遮断する。
「メルティア君……分かったよ。でもね、一つだけ言わせて。お父さんの件は、メルティア君のせいじゃないよ」
遠慮がちにそう呟いて、足音が遠のいていく。やがて、ぱたん、と扉が閉まる音がした。
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