【更新停止中】契約番の俺たちがお互いの最愛になるまで

深凪雪花

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第9話 魔法騎士団寮5

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 そうして、始まったお仕事。……なんだけど。

「あの、ガゼッタさん。――一人もこなかったですよね、今日」

 窓の外から夕焼けが差し込む頃、つまり終業時間がやってきたわけだけども。俺は荷物をまとめながら、今日一日を振り返って戸惑うほかない。
 そう、誰も医務室にやってこなかったんだよ。休日中の魔法騎士たちがいないわけじゃないのに。いやまぁ、具合の悪いひとが誰もいなかったのは、喜ばしいことなんだけどさ。
 あまりにも暇なものだから、ガゼッタさんは途中から診察台に横たわっていたくらいだ。俺はなんとか仕事を見つけようと、無駄に動き回っていたけど、それでも暇だった。

「はは、今日だけじゃないよ。これが日常で、患者がくる日の方が珍しいから。まぁ、僕たちの仕事がないのはいいことじゃないか」
「で、でも、これじゃあ給料泥棒みたいな気が……」
「真面目だね。楽して稼げるなんて最高の職場だと僕は思うけど」
「………」

 そういう考えも、確かにあるかもしれない。っていうか、そう考えるひとの方が圧倒的に多いんだろうと思う。
 ――でも、俺は。
 ぎゅっと唇を噛みしめる。ダメだ。これじゃあ、全然ひとの役に立てない。社会貢献できない。魔法を使うのはもちろん、もっときちんと働かないと。

「……明日、広告チラシを配って回ってもいいですか。今夜、チラシを作るので」

 ガゼッタさんは、不思議そうな顔で俺を見やる。

「チラシ? 構わないけど、なんの広告チラシだい」
「それは明日まで内緒です。では、お先に失礼します。お疲れ様でした」

 いそいそと医務室から出て、二階にある自室へと戻る。

「ただい……うわっ!」

 自室の扉を開けるなり、抱きついてきたのはシュフィゼだ。いい年をした大人が何しているんだ。犬じゃあるまいし。

「おかえり。……やっと帰ってきた」
「な、なんだよ。どうしたんだ。そんなに暇だったのか?」

 自由に過ごしていいって言ったのに。シュフィゼはシュフィゼで、暇を持て余していたんだろうか。でもそれなら、医務室に顔を出してもよかったのに。

「こっちに遊びにくればよかったじゃん」
「だって、メルティア君の仕事の邪魔をしたくなくて。俺、いい子にしていたからキスして」

 なんで!?
 っていうか、だからお前は犬かよ。ご褒美にキスを要求するのも、わけが分からない。

「やだよ」
「じゃあ、頭を撫でて」
「……それくらいなら、別にいいけど」

 渋々と了承し、シュフィゼの頭を撫でてやる。まるで、子どもを相手にしているみたいだ。こいつ、俺より六つも年上なのに。
 それにしても、邪魔をしたくなかったって、案外気を遣うタイプなのか。邪魔……あ。そういえば、朝にガゼッタさんからフォロー入れた方がいいかもって助言してもらっていたっけ。

「シュフィゼさん、あの……俺は別にあんたのこと、本気で邪魔だなんて思っていないから」

 俺の言葉に反応したシュフィゼが、顔を上げる。その目は、捨てられた仔犬のような色合いに近くて、どうやらガゼッタさんの心配は的中してしまっていたことに気付く。
 思っていたよりも、デリケートな奴だったみたいだ。ちょっと悪いことをした。

「誤解させていたんならごめん。昨日も言った通り、あんたには感謝しているし、あんたの能力には助かっているから。だから、ええと、仕事に連れて行かないことを、あんまり重く受け止めないでほしい。気にするなっていうか……」

 俺が言うのもおかしい気がするけど、こう伝えるほかない。上手く言葉にできない自分にもどかしさを感じるよ。
 でも、俺の拙い言葉を、今度は誤解せずに受け取ってくれたみたいだ。シュフィゼの顔がぱっと明るくなった。そして、またぎゅーっと力強いハグ。な、なぜ?

「ありがとう。……今日は魔法を使った?」
「使っていないけど」

 見るからにしゅんとするシュフィゼだ。……そんなに性行為がしたかったのか? どれだけ性欲を持て余しているんだよ。

「あ、明日からは魔法を使えるように頑張るよ」

 咄嗟に謎のフォローを入れてしまう俺。だって、マジで大きなワンコのように見えてきて……なんていうのかな。優しく接してあげなきゃいけない気になってしまう。

「そうだ、シュフィゼさんもチラシ作りを手伝ってくれよ。明日、チラシを配って回りたいんだ」
「チラシってなんの?」

 首を傾げるシュフィゼをやんわりと引きはがしながら、俺は仕事について思いついた案を口にした。

「実は――」

 話を聞いたシュフィゼは、目をぱちくりとさせていた。




 そしてまた翌日。
 今日はコウだけじゃなくて、シュフィゼも一緒に医務室へ出勤。例のチラシ配りを手伝ってくれるっていうから。

「おはようございます、ガゼッタさん」
「おはよう。今日はシュフィゼ君も一緒なんだね」

 先に出勤していたガゼッタさんは、にこりと笑う。「やっぱり、二人揃っていた方が安心していいよ」なんて言葉を呟く。どう反応したらいいのやら。

「それで、今日はチラシ配りをしたいって言っていたけど。一体、なんのチラシを作ってきたんだい」
「これです」

 俺は腕に抱えていたチラシを、ずいっと提示する。目の前に突きつけられたチラシの内容に目を通したガゼッタさんもまた、目を瞬かせていた。

「……マッサージのサービス?」
「はい。俺、マッサージが得意なので。精神的疲労が濃いひとには、先着順に魔法も使おうと思っています。これなら、休日中の魔法騎士たちが気軽に足を運べるでしょう?」

 理路整然と伝えると、ガゼッタさんはガリガリと頭を掻く。

「そうかもしれないけど……ええー、わざわざ仕事を増やすの? メルティア君、ちょっと真面目すぎない?」
「労働は国民の義務ですよ」
「そうは言っても、マッサージなんて僕にはできないよ。それに魔法を使ったら、君はその反動があるはずじゃないか。どうしてそこまで献身的に働こうとするの?」
「……義務だからです」

 ガゼッタさんは、渋る顔をしていたけど……俺の決意が固いことを察したみたいだ。マッサージ目当ての患者には俺だけで対応するっていう条件で、了承をもらった。
 よし。まず今日はチラシ配りを頑張ろう。狙い通り、マッサージ目当ての患者がくるようになったら、万々歳だ。
 魔法騎士の社会貢献度は高い。その彼らの日々の疲れを癒すのは、間接的に社会貢献しているようなものだろう。医務官がなんでマッサージって最初は思われるかもしれないけど、できることはなんでもしてやる。
 ……真面目に働いて社会貢献することでしか、俺の罪は贖えないから。

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