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第7話 魔法騎士団寮3

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 その後、ガゼッタさんに寮の中を大まかに案内してもらい。
 自室に戻って荷解きをした俺は、一人でも寮の中をじっくり見て回ることにした。シュフィゼのことも誘ったけど、「俺は別にいいよ」とのこと。
 とはいえ、自分の知らぬ間に俺が魔法を使った時に備え、渡してくれたのが――。

「……蝶?」
「そう。俺が生み出した眷属だよ。数回なら発情症状を抑制できるから、俺の代わりに連れて歩いて」

 光が反射すると、羽根が七色に輝く美しい蝶だ。
 シュフィゼの手の平から生み出されたその子は、ひらりと飛んできて俺の肩口にとまった。近くで見ると、より一層輝きが綺麗だな。

「ふうん、そうなんだ。分かった。ありがとう」

 眷属という存在について聞いたことがなかったわけじゃないけど、生み出せる神官は珍しいらしくて、この目で見るのは初めてだ。

「この子、名前はあるのか?」

 別に変なことを聞いたわけじゃないはずなのに。シュフィゼは考えたこともなかったという様子で、虚を突かれた顔をしていた。

「名前? 特にないよ」
「じゃあ、コウって名付けてもいい?」

 七色に輝くことから『虹』を連想した俺。で、『虹』っていう文字から『コウ』と命名。
 我ながら、特徴を捉えた名前をつけてあげられたと思う。

「いいけど……どうしてわざわざ名前なんて」
「名前がないと、呼んであげられないだろ。なぁ、コウ」

 眷属の蝶――コウは、同意するようにくるりと回った。おお、蝶とだけあって身軽だ。それになんだか嬉しそう。俺が付けた名前を気に入ってくれたのかな。
 ペットみたいで可愛い。シュフィゼを連れて歩くより断然いいじゃん。

「じゃあ、ちょっと寮の中を見て回ってくるから」

 コウを連れ、自室を出る。
 魔法騎士たちが住まう部屋がずらりと並ぶ廊下を進み、あくまでみんなで共有している場所を改めて見て回る。簡易厨房、食堂、大浴場、ラウンジ、そして医務室。
 それぞれの場所の確認は、あっさりと終わった。でも、自室に戻ってもやることなんて特にない。暇を持て余すだけだ。
 というわけで、ちょっと寮の外へ出てみることにした。草木が生い茂る敷地内を散策だ。

「……ん?」

 寮の裏手に回ると、見覚えのある服装をした男性の背中が見えた。
 一拍遅れて誰なのかを理解する。シセルさんだ。シュフィゼのお兄さん。
 シセルさんの真向かいにいるのは、なんと大きな竜だった。他にも馬たちの姿も見える。厩舎の中に竜が一体混じっている感じだ。
 あの竜……シセルさんの飼い竜なのかな。竜なんて個人的に所有できるのはよほどのお金持ちくらいだけど、シュフィゼ曰く二人の実家は魔術師の名家らしいし、もしかしたらシセルさんのお給料も高いのかもしれない。貫禄あるもんなぁ。
 ふと、シセルさんがこっちを振り向いた。俺の気配を察知したのか、あるいは草を踏みしめる音で気付いたのか。

「君は……メルティア君、といったか」
「はい。ええと、その子はシセルさんの飼い竜なんですか」

 話しかけながら、おずおずとシセルさんの隣に並び立つ。近寄りがたいオーラを放っているけど、俺を無視しない辺り、思っているよりは気さくな性格なのかも。

「ああ。元々は実家で飼っていた竜の子どもだ。今はこの通り、すっかり大きくなったが」
「お名前は?」
「ギルニトラだ。連休があった時、こいつに乗って実家へ帰るんだ。シュフィゼから聞いたかもしれないが、私には別居中の妻がいるから」

 なるほど。竜なら王都から地方まであっという間に着けるのか。奥さんに会うために、ちゃんとこまめに実家に顔を出しているんだな。
 冷徹そうな雰囲気があるけど、奥さんのことを愛しているんだろう。意外といったら、これまた失礼なことか。でもてっきり、放置しているのかと想像していた。

「そういう君も、その蝶はシュフィゼの眷属か」
「はい。コウって呼んでいます」

 愛想笑いで応えると、シセルさんは僅かに目を丸くした。

「名前をつけているのか」
「え? だって名前をつけないと、呼んであげられないじゃないですか」
「まぁ、そうだが……眷属に名前をつける者など初めて見た」

 あれ、そうなのか?
 俺的にはペットに名前をつける感覚だったけど、他のひとたちはそうじゃないのか。といっても、そもそも眷属を生み出してもらえる魔術師は圧倒的に少数派なわけだけど。

「あいつの『聖魔の番』も、一度もそんなことはしなかったはずだが。……だが、ふっ。そうだな。せっかく命を吹き込まれているのだから、名前をつけてやるべきなのかもしれないな」

 優しげに一笑するシセルさん。
 俺はちょっとびっくりした。こんな風に優しい表情もするひとなんだ。話してみると、別に冷たいわけでもないから、第一印象で損をしているタイプだな。
 なんとなく親近感を覚えたというか、緊張感がほぐれてきて、俺はしばらくシセルさんと他愛のないことを話した。
 ご実家はどこなのかとか、奥さんはどんなひとなのかとか、シセルさんのお仕事はどういうものなのかとか。聞くところによると、シセルさんはなんと第七師団の魔法騎士団長という偉い肩書きを持つひとだそうだ。貫禄があるのも納得。

「メルティア君は、シュフィゼとはいつからの付き合いだ」
「本当に最近のことです。一ヶ月半前からくらいですよ」
「そうか。あいつはあれで真面目なところがあるから、仕事はきっちりとこなすだろう。仲良くしてやってくれ」
「こちらこそ、シュフィゼさんにはお世話に……」

 愛想笑いから自然な笑顔に変わり始めていた時のことだ。ガサッと草を踏みしめる音が背後から聞こえて、俺ははっとする。後ろを振り向くと、そこにいたのは――シュフィゼだった。

「盛り上がっているね、お二人さん」

 僅かに息を切らしているシュフィゼ。その表情は……なんだろう。直感に過ぎないけど、いつものへらへらとしたものとは違うような。
 っていうか、部屋でゆっくりしているって言っていたのに、どうしたんだ。

「シュフィゼさん。よく俺の場所が分かったな」
「……部屋の窓から見えたんだよ」

 あ、そうなのか。そういえば、俺たちの自室はこっち側だったっけ。
 でも、だからってなんで駆けつけてきたんだ……?

「俺に何か用か? それとも、シセルさんの方に用事?」

 シュフィゼは、少しむっとした顔をした。

「用事がなきゃ、きちゃいけない?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど……だって、部屋でゆっくり休むって」
「黙って一人で部屋にいるのが飽きた。戻ってきて」

 子どもみたいなことを言う奴だな。

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