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第1話 契約番との出逢い1★
しおりを挟むなんで、こんなことになっているんだ。
なんで、俺が――男に抱かれる羽目になっているんだよ。
「あっ、あぁっ、やぁああっ」
下から激しく突き上げられて、俺ことメルティアは喘ぐほかない。
対面座位の体勢で俺を抱く男の端正な顔立ちを、俺は力無く睨みつけた。余裕綽々といった様子のその男は、意地悪げに口端を持ち上げる。
「何が嫌なの? こんなに感じているくせに」
「うる、さ……ああっ!」
一際強い打ちつけに、衝撃で俺は呆気なく果てた。それでも、俺の身体の熱は冷めない。身体の奥が、男の蜜液を欲している。
イったばかりだというのに休む間もなく、寝台に押し倒された。今度は正常位の体勢で、男は俺の後孔を繰り返し穿つ。
抜き差しされるたび、摩擦で快楽が生まれる。潤滑剤によるクチュクチュとした水音が室内に響き、なんだか耳まで犯されている気分だ。
「あぁっ、ふぁああっ、んんっ!」
頼むから早くイってくれ、と俺は内心半べそをかいた。気持ちいいことは否定できないが、それが延々と続いたら快楽を通り越して苦痛だ。
必死にシーツを握りしめて、与えられる快感に耐えていると、ほどなくして中に熱い蜜液が迸った。すると、ようやく俺の身体から熱が引いていく。
肩を上下させながら、ぼーっと天井を虚ろな目で見上げる。
――マジでなんでこうなった。
なぜ、この男に抱かれる羽目になったのか、話は数日前に遡る――。
◇
この世界には、魔法が存在する。
その才能を持つ者はほんの一握りで、十五歳になったら三年制過程の魔術学院で魔法について学び、卒業できたらめでたく魔術師となるわけなんだけど……大人になった魔術師が魔法を使うと、ある副作用が出る。
それは――『発情』。一言でいえば、性欲が爆発する。
ただし、その副作用を封じる神官が対となって存在しているのも一般的だ。その相手を『聖魔の番』と呼び、生涯のパートナーとしてともに生きる。主従、仲間、伴侶、と関係性はさまざまだけど。
そして――先日、十八歳になったばかりの俺は魔術師の卵。あと一ヶ月で魔術学院の卒業を控えている。成績優秀者の俺だけど、ただ一つ問題があった。
「――え? 俺に『聖魔の番』がいない?」
「ええ。今いる神官たちの間に、メルティア君と縁を持つ相手がいません」
魔術学院の先生に断言されて、俺は困惑するしかない。『聖魔の番』がいない魔術師なんて存在するのか?
「ありえるんですか、そんなこと」
「珍しい事例ではありますが、ありえないことではありません。今はいなくても、ある時ふと現れることもあります」
「ある時ってどのくらいですか」
「それはなんとも……一年後か、あるいは十年後か。分かりません」
「そんな!」
一年後ならともかく、十年後かもしれないだなんて。そんなの困るよ。
決して裕福とは言えない家柄で平民出身の俺だ。魔術師としてたくさん稼いで、ようやく貧乏から脱出できると思っていたのに。
それに何より、俺の魔法を世のために役立てたいんだよ。それが、『聖魔の番』がいないんじゃ、きっと副作用に苦しんでまともに社会貢献できない。
「な、なんとかなりませんか。先生」
縋るように先生を見つめると、先生は眉尻を下げた。「そう言われても……」と困った顔をしていたけど、ふと何かを思い出したような声を上げた。
「そういえば……『聖魔の番』相手以外でも、いっときなら副作用を封じられるという神官がいると、聞いたことがあります」
「ほ、本当ですか!」
なんて運がいい。朗報だ。その神官と契約を結べば、魔術師として働けるかもしれない。
先生も俺と同じことを考えたんだろう。眼鏡を指で押し上げながら、一つ頷いた。
「総本山に連絡をとってみましょう。もしかしたら、メルティア君の契約番になってくれるかもしれません」
「よ、よろしくお願いします!」
という流れで、先生は神官たちが所属する総本山に連絡を入れてくれた。
遠方でも連絡をとれる魔法を使える先生がいたため、その日のうちに連絡がつき、すぐにこっち――王都に送るという返答を二つ返事でもらったという。竜に乗ってやってくるというので、数日あれば到着するだろうとのことだった。
一体どんな神官だろう。
どきどきしながら到着を待ちつつ、王都の街に買い物へ出かけた時のこと。
「うわぁあああああん!」
街中で、大泣きしている男児がぽつんといた。怪我をしているというわけじゃないから、多分、親御さんとはぐれたんだろう。
素知らぬふりをして通り過ぎていく大人もいるけど、田舎者の俺にはできない。それに未来の魔術師たるもの、困っている相手を放置なんてできるか。
「ボク、大丈夫か」
そっと近寄って声をかけたけど、男児はちらっと俺を見上げただけで泣き止む気配がない。声が枯れないかと心配になるほど、わんわんと泣き喚いている。
うーん……これは、落ち着かせないとダメだな。冷静に会話ができないと、事情や親御さんの手がかりについても話を聞けない。
俺は手の平を男児の頭上に掲げ、魔法を発動させた。種類は『精神治癒』だ。精神的疲労を和らげたり、神経を休ませたり、感情を落ち着かせる力がある魔法だ。
俺はもう大人だから、なんの躊躇もなく使ったわけじゃない。だけど、ちょっとくらいなら大丈夫だろうと、副作用を甘く見ていた。
俺の魔法で男児が泣き止んだのはいいけど……身体がブワッと熱くなり始める。
「うっ……」
あ、熱い。とにかく、熱い。息が上がって、上手く呼吸ができない。
な、なんだこれ。これが……副作用の発情症状?
「お、おにいちゃん。だいじょうぶ?」
今度は、男児の方が俺を心配してくる始末。ううっ、情けないったらない。
「だ、大丈夫だ。それより、ボクのご両親はどこに……」
どうにか、声を絞り出した時。
「こんなところにいたの! ダメじゃない、一人で歩き回って!」
おそらく男児のお母さんが、こっちが探す前につかつかとやってきた。
その両手には大量の食材が詰め込まれた紙袋が抱えられている。買い物中に男児が一人で離れてしまったということらしかった。ま、まぁ、見つかってよかったよ。
「ママー!」
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苦しげに顔を歪め、頬を真っ赤にしているんだろう俺を見て、若い女性が気遣わしげな様子で顔を覗き込んでくる。
まさか、発情している状態だと気付かれるのが嫌で、俺は慌てて「大丈夫です!」と答えてその場を離れた。
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