16 / 16
最終話 ずっと一緒に★
しおりを挟むそしてさらに数ヶ月後。とうとうナリノスからリゼル王子が婿入りする日がやってきた。俺たちが住まうのは、まだ蒼輝宮だ。
――どんな王子なんだろう。
これまでなぜか秘匿されていた王子という話らしく、父上の人脈を駆使しても人柄などなんの情報も入ってきていない。だから、実は問題児なんじゃないかと、俺も、両親も、正直なところ心配していたりする。
不安に思いながら、広間で待つこと数十分。
「ノシュア様。リゼル殿下がお越しになりました」
新米宮女が来訪を告げにくる。
ほどなくして、俺の前に現れたリゼル王子を見て、俺は――しばし放心した。
「え……」
「本日より、ノシュア殿下の下へ婿入りします、リゼル・イスリッド・ナリノスと申します。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
リゼル王子は、穏やかに笑む。
暗めの赤毛。森を切り取ったような緑の瞳。どこからどう見ても、記憶にあるイスリッドと同じ顔をした彼を、俺は呆然と見上げた。
「イス……リッド?」
「はい。お久しぶりです、ノシュア殿下」
あれ、夢でも見ているのかな。それとも、本物のリゼル王子を押しのけて、ここまでやってきちゃったのかな。
そんな頓珍漢なことを考える。
「リゼル王子は……」
「俺のことですよ。ずっと以前から、ナリノス国王陛下には王宮にこないかと誘われていたのですが……ノシュア殿下が次期国王になると知りまして。少しでも、あなたのためになることがしたくて、急いでナリノスの王族入りしました」
「俺の、ため?」
「大国ナリノスと結びつきを深められる政略結婚。それは、これから国王となられるノシュア殿下にとって、ささやかながら国王としての実績になるでしょう?」
言わんとすることは分かる。
でも、なんで俺が次期国王になることを知っているんだ。それも、まるで自分と結婚したがっていることが分かっていたみたいに聞こえる。
俺の不思議そうな顔から、イスリッドはそれらの疑問を察したらしかった。
「トヴァス陛下が手紙で教えて下さいました」
「え!?」
「ノシュア殿下が次期国王になられるということ、そのためにこの五年間ずっとギルヴァニスで修業をされていたこと。そのすべては、俺と結婚したいがためだとも」
「!」
トヴァス陛下! な、な、なんてことまで勝手に伝えているんだよ! 俺がいいなら、自分が口を挟むことではない、って言っていたのに!
俺はもう顔が真っ赤だ。いや、そりゃあもし独身でいたら、気持ちを伝えようとは思っていたけど、完全なる不意打ちだ。
「嬉しかったです。愛するひとからそこまで求められるなんて、男冥利に尽きます。頑張るあなたのお傍にいられなかったことは、申し訳なく思いますが……」
イスリッドの腕がそっと伸びてきて、俺の体を引き寄せる。俺は、すっぽりとイスリッドの逞しい腕の中。
五年ぶりの触れ合いは、だけどドキドキ感よりも安心感の方が強かった。イスリッドの温もりがほっとする。
「俺は、うぬぼれていいんでしょうか。あなたから愛されていると」
その声音には、穏やかながら不安の色が見え隠れしている。
それもそうだろう、俺はずっと冷たくしてきたんだから。トヴァス陛下から話を聞いたといっても、自分が愛されているかどうかの確信は持てずにいるに違いない。
――伝えなきゃ。
五年前に自分で自分に誓った。もし、五年後にイスリッドが独身のままでいたら、今度はきちんと想いを伝えることを。
「うぬぼれ……なんかじゃない」
顔を上げ、真っ直ぐイスリッドの瞳を見つめる。
「俺は、イスリッドのことが好きだ。ずっと、好きだった。だから、俺と結婚して下さい」
言った。
言ったぞ。とうとう。
結婚して下さいって、もう結婚しても同然なのにおかしいかもしれないけど。でも、イスリッドは嬉しそうに笑った。
「はい。結婚しましょう」
端正な顔立ちが、ぐっと目の前に近付いてくる。雰囲気からキスをされるのだと察して、俺は目を閉じ、優しいキスを受け入れた。
――ドキドキする。
イスリッドが改めて婿入りしてきたその日の夜。俺は寝台の上にちょこんと正座をして、イスリッドがやってくるのを待っていた。
およそ五年ぶりに抱かれるのだ。緊張するなという方が難しい。
心臓をバクバクさせていると、やがて寝室の扉が音を立てて開いた。顔を出したのは、もちろんイスリッドだ。シャワーのあとなので髪が濡れているけれども。
「お待たせしました」
「い、いや……」
ぎこちなく笑い返す。すると、緊張しているのが丸分かりらしかったらく、イスリッドは小さく笑った。
「そんなに緊張なさらず。……優しくしますから」
寝台に上がってきたイスリッドの端正な顔が、こっちに迫ってくる。反射的にぎゅっと目をつぶると、優しい口付けが俺の唇に触れた。
「ん、んぅ……」
ずっとキスをしていたら息苦しくなり、酸素を求めて口が開く。イスリッドはその隙を見逃さず、口内に舌を差し入れてきた。
「ふ…ぁ……っ!」
ねっとりと舌が絡みついてくる。舌をちゅっと吸われるたびに身体がぞくぞくと痺れる。甘い刺激が下半身に届いて、足がもじもじとなってしまう。
「あ、はっ……ぁ、んっ……!」
呼吸が上手くできない。なんだか、酸欠で頭がぼぅっとしてきた。
やっと解放された頃には、俺の呼吸は弾んでいて、吐息が熱くなっていた。
「イスリッ、ド……」
熱で潤んだ目でイスリッドを見上げると、イスリッドもまた欲情した眼差しをしていた。
肩を掴まれ、寝台に押し倒される。俺の寝間着を流れるような動作で脱がしていく。
次第に露になる、俺の乳白色の身体。五年前と変わらず貧相な身体だ。何度も見られているとはいえ、気恥ずかしいので身をよじる。
「……あ、あんまり見るなよ」
「こんなに綺麗なんですから、見せて下さい」
イスリッドの指が、薄い色素の輪をゆっくりとなぞり出す。くすぐったくて、我慢しようと思っても、身体がびくびくと動いてしまう。
「あっ……!」
左右の乳首をきゅっと摘ままれて、喘ぎ声が飛び出した。慌てて両手で口を押さえようとしたけど、イスリッドが甘く耳元に囁く。
「ダメです。もっと聞かせて下さい」
両手首を、シーツにまとめて縫い付けられた。
いまさらとはいえ、変な声を出したくないのに、片方の乳首はイスリッドの指で転がされて、もう片方の乳首は唇で舐められると、口から喘ぎ声が止められなかった。
「あ、やっ……ぁ、あぁっ!」
久しぶりだからかもしれないけど、嫌だ。こんなの、変になってしまう。
下半身がすっかり反応しているのが、自分でも分かる。それは俺の上に覆いかぶさっているイスリッドにも伝わったみたいだ。乳首から手を離して下腹部に手を伸ばし、中心を上下に扱かれると……たまらなく、気持ちがいい。
先端の窪みから滲み出る液体が、クチュクチュと音を立てる。それは俺が興奮しているという紛れもない欲望の証であり、羞恥心が込み上げてきた。
すっかり勃ち上がった花棒の先端から樹液を掬ったイスリッドの指が、俺の菊門を這う。最奥の窄まりに樹液を塗りたくって、指を一本挿し入れた。
相変わらず奇妙な感覚はあるものの、やっぱり痛くはない。
「そろそろ、いいかな」
俺の後孔を丹念にほぐし終えたところで、イスリッドは一旦、身体を離した。イスリッドもまた、寝間着を脱ぎ捨てて裸体になる。
俺のモノよりも立派な雄棒が視界に入って、ごくりと生唾を飲み込んだ。すでにこの快楽を知っているから、身体の奥が欲して疼く。
「挿れますね」
正常位の体勢で、イスリッドのモノが後孔にあてがわれた。ぐっと押し付けられて、圧力がかかると少しずつそこが開けていく。蠢く花襞がイスリッドのモノを飲み込んでいく。
「大丈夫ですか?」
「う、うん」
動かずにいても、中に熱芯を感じる。確かにイスリッドと繋がっているんだと感じる。
そう思うと、涙が出てきそうなくらい嬉しかった。たまらず、イスリッドの首裏に腕を回して抱きつく。それには、イスリッドは少々驚いた様子だ。
「ノシュア殿下?」
「好きだ。好きだよ。昔、冷たくしてごめん」
理由を聞かれたら、どう答えたらいいのか分からないけど。それでも、謝らずにはいられない。イスリッドは、「過ぎたことは、もういいんですよ」と優しく応じてくれた。
「動きますよ」
すっと腰が引かれて、かと思うと、ゆっくりと押し入ってくる。
「あっ、あぁっ、イスリッドっ……」
「可愛いですね。ノシュア殿下」
「ダ、ダメェ……そんなにしたら、んっ!」
もうイってしまいそうになる。とは、恥ずかしくて言えない。っていうか、早すぎだろ俺。
「あっ、んぁっ、イスリッドっ……!」
全身をガクガクと揺さぶられて、意識がただ目の前の快楽にとらわれる。
俺はいつしか、夢中で自分からも腰を振っていた。はしたないことをしている自覚はあったけど、止められなかった。
感じ入る俺の顔を、イスリッドは愛おしげに見下ろす。
「ノシュア殿下。愛しています」
どきりと胸が高鳴った。無意識に中がキュウと締まって、イスリッドを締め付けてしまう。
イスリッドは、ほのかに笑った。ズンズンと容赦なく中を抉る。
「んんっ、あっ、ふぁぁっ」
もう、たまらない。奥を突かれるたびに火花が散る。
「イスリッ、ド……も、もうっ……」
「いいですよ。イけばいい」
「あぁ、ふぁぁっ、イスリッドっ、あぁあぁぁぁ――……!」
一息に突き上げられると、高みがやってきて俺はぎゅっと目をつぶった。硬く勃ち上がった下半身から蜜液が吹き出し、同時に俺の中にも熱い蜜液が注ぎ込まれる。
息を弾ませながら、イスリッドと強く抱き締め合った。至福に包まれながら、触れ合うだけのキスを交わす。
――イスリッド。
俺も、愛しているよ。この世の誰よりも。
○○○○○○○○
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
310
お気に入りに追加
391
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚
貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。
相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。
しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。
アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。
オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。
屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。
リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。
自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。
貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。
ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f

オメガバα✕αBL漫画の邪魔者Ωに転生したはずなのに気付いた時には主人公αに求愛されてました
和泉臨音
BL
落ちぶれた公爵家に生まれたミルドリッヒは無自覚に前世知識を活かすことで両親を支え、優秀なαに成長するだろうと王子ヒューベリオンの側近兼友人候補として抜擢された。
大好きな家族の元を離れ頑張るミルドリッヒに次第に心を開くヒューベリオン。ミルドリッヒも王子として頑張るヒューベリオンに次第に魅かれていく。
このまま王子の側近として出世コースを歩むかと思ったミルドリッヒだが、成長してもαの特徴が表れず王城での立場が微妙になった頃、ヒューベリオンが抜擢した騎士アレスを見て自分が何者かを思い出した。
ミルドリッヒはヒューベリオンとアレス、α二人の禁断の恋を邪魔するΩ令息だったのだ。
転生していたことに気付かず前世スキルを発動したことでキャラ設定が大きく変わってしまった邪魔者Ωが、それによって救われたα達に好かれる話。
元自己評価の低い王太子α ✕ 公爵令息Ω。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【短編】売られていくウサギさんを横取りしたのは誰ですか?<オメガバース>
cyan
BL
ウサギの獣人でΩであることから閉じ込められて育ったラフィー。
隣国の豚殿下と呼ばれる男に売られることが決まったが、その移送中にヒートを起こしてしまう。
単騎で駆けてきた正体不明のαにすれ違い様に攫われ、訳が分からないまま首筋を噛まれ番になってしまった。
口数は少ないけど優しいαに過保護に愛でられるお話。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる