11 / 16
第11話 国王生誕祭2
しおりを挟む「……そうか。イスリッド殿下と申すのか。よい名だな」
「ありがとうございます。今は亡き実母がつけてくれた名前でして」
一方のイスリッドは何も気付いた様子はなく、穏やかな笑顔で応じている。ナリノス国王陛下はしばし沈黙したのち、俺を振り向いた。
「ノシュア殿下。イスリッド殿下と少し話をしてきてもよいか」
俺はぎくりとする。や、やっぱり、自分の息子だって気付いたんじゃないのか。
「あ……えっと、構いません。ごゆっくりどうぞ」
そう返すほかない。突然の展開に驚いて、頭が回らなかったというのもある。
イスリッドは不思議そうな顔をしつつ、バルコニーへ向かうナリノス国王陛下の後ろをついていった。
「お待たせしました、ノシュア殿下」
ビュッフェ形式の料理に舌鼓を打っていたら、イスリッドが戻ってきた。
――ナリノス国王陛下と何を話してきたんだ。
早速そう聞きたいけど、イスリッドに興味なんてないというキャラの都合上、なんとなく切り出しにくい。よって、俺はただ「別に待っていない」とだけ素っ気なく返した。
そうですか、とイスリッドもただ穏やかに返答。
「おいしそうな料理ですね。俺もお腹が空きました。何か持ってきます」
そう言って、また俺の傍を離れていく。
見た感じ、いつもと様子が変わらないな。ナリノス国王陛下が自分の息子だって気付いて、その話をイスリッドにしたわけじゃないのか? 実は隣国の国王の息子でした、なんて聞いたら、普通は驚いて困惑するよなぁ。ただ世間話をしてきただけなのか?
いやでも、ナリノス国王陛下のあの時の反応は、何かを勘付いたんじゃないかと思うんだけど……ああ、気付いたけどイスリッドには名乗らなかったという線もあるか。メイドに手を出した挙句、きちんと保護しなかったんだから、堂々と父親だとは名乗りにくそうだし。
本当にただ、世間話をしてきただけのような気がしてきた。
「ノシュア殿下、すごい品数でしたね」
ほどなくして、改めて戻ってきたイスリッド。その手には、料理がよそわれたお皿がある。
「たくさん料理があって、どれを食べようか迷ってしまいましたよ」
「そうか。ナリノス国王陛下がいらっしゃるから、いつもより気合を入れたんだろう」
「ああ、なるほど」
イスリッドも俺の隣に立って、料理を食べ始める。
「ん、おいしい。蒼輝宮の食事ももちろんおいしいですけど、確かに料理人たちの気合が入っていそうですね」
「ああ。他の貴族たちも満足している様子だし、よかった」
領地からわざわざ集まってもらっているんだ。どうせなら、きてよかったと思ってもらいたい。みんながよく領地を治めてくれているおかげで、この国の平和があるわけだし。
俺の言葉を聞いたイスリッドは、優しげに微笑んだ。
「さすが、ノシュア殿下はご立派なお考えですね」
「……褒めたところで何も出ないぞ」
「本心から言っています。もし、この国でオメガの国王が認められていたら、ノシュア殿下なら素晴らしい国王になっていたことでしょう」
「たらればの話をしたところで、意味はない」
でも、そうか。そもそもオメガでも国王になれるのなら、俺が次期国王になればいいんだよな。新たにヒーローを娶って次期国王になってもらう必要がない。そうしたら、俺はイスリッドとその子どもと三人で――。
幸せな未来を想像しようとして、でもやめた。自分でも言った通り、たらればの話をしたところで無意味だ。現実が変わるわけじゃないんだから。
現行の制度を変えることがどれだけ難しいことか、子どもでも分かる。国王選定に関わる決まりならなおさら。
「……そうですね。俺の単なる夢物語に過ぎません」
声のトーンが落ちた気がして、イスリッドを見やると……なんだろう。どこか寂しそうな表情を浮かべていた。といってもそれは一瞬のことで、すぐに穏やかな表情に変わったけど。
ん……? どうしたんだ。気のせいじゃない、よな。
聞きたいけど、でもやっぱり作り上げた俺のキャラの都合上、何も聞けなくて。
日付が変わる頃、国王生誕祭は閉幕した。
そしてまた、イスリッドとの性行為の日々。……と、思っていたのに。
「え……体調が悪い?」
「はい。せっかくきてもらったのにすみません」
数日後の夜。嘘の発情期がきた体でイスリッドの自室を訪れたら、申し訳なさそうな顔でそう断られた。薄暗くてはっきりとは顔色は見えないけど……まぁ、嘘をついてまで発情期の性行為を断る理由はないか。
「そう、か。それなら仕方ない。今日はゆっくり休め」
「ありがとうございます」
そそくさとその場を去り、自室へ戻る俺。寝台に寝転がって、イスリッドのことを想う。
体調が悪いだなんて大丈夫かな。もし、明日になっても具合が悪いようであれば、宮廷医に診察させた方がいいかもしれない。
そう思いつつ、眠りについて翌朝になったら、イスリッドは回復したみたいだ。元気そうだった。それにはほっとした。何か悪い病気だったらって心配だったんだ。
……でも。
それから、イスリッドは夜に俺の下へ足を運ばなくなった。つまり、性行為することがなくなった。日中に会うといつも通りなんだけど、夜は決して俺の自室に顔を出さない。
唐突な変化に、正直なところ俺は内心混乱した。これまで数日おきに俺のことを抱いていたのに、それがぱたりとなくなったんだから困惑もする。
ただ、やっぱり作り上げた自分のキャラが邪魔をして、理由を聞けなかった。何も気にしていませんよ、と平気そうな顔をして接するほかなく。
――回数をこなしたから、もう必要なくなった?
――それとも、俺の身体に飽きた?
あんなに『愛している』って言ってくれていたのに。子作りする以外の触れ合いはもうするつもりがないのか。自分から冷たい態度をとっておいて、何を都合よく考えているのかって自分でも思うけど、でも不安な気持ちがとまらない。
もしかして――俺への気持ちがなくなった、のか?
ぐるぐると思考する日々。それは、翌月の嘘の発情期がやってくるまで続いた。それまで、俺からも夜にイスリッドの自室へ足を運ぶことはなかった。
また断られたらどうしよう。
イスリッドの自室の前まできたのはいいものの、怖くて扉をノックできない。しばらく棒立ちでいると、背後から声をかけられた。
「ノシュア様? そんなところでどうされました」
振り向くと、声をかけてきたのはイスリッドの侍女ソノアだった。不思議そうな顔をして、俺を見つめている。って、それもそうだよな。
「あ、えっと……」
「ぼっちゃ……いえ、イスリッド様へ御用ですか?」
「そ、そういうわけじゃ……ええと、違う。ちょっと、ぼーっとしていただけだ」
まさか、抱かれにきたなんて言えるわけがなく、俺は慌ててその場から逃げ去った。自室へ戻って、ふかふかの寝台にダイブ。
ど、どうせ、嘘の発情期なんだから、明日でもいいか。そうだ。明日にしよう。
190
お気に入りに追加
393
あなたにおすすめの小説


〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。

オメガバα✕αBL漫画の邪魔者Ωに転生したはずなのに気付いた時には主人公αに求愛されてました
和泉臨音
BL
落ちぶれた公爵家に生まれたミルドリッヒは無自覚に前世知識を活かすことで両親を支え、優秀なαに成長するだろうと王子ヒューベリオンの側近兼友人候補として抜擢された。
大好きな家族の元を離れ頑張るミルドリッヒに次第に心を開くヒューベリオン。ミルドリッヒも王子として頑張るヒューベリオンに次第に魅かれていく。
このまま王子の側近として出世コースを歩むかと思ったミルドリッヒだが、成長してもαの特徴が表れず王城での立場が微妙になった頃、ヒューベリオンが抜擢した騎士アレスを見て自分が何者かを思い出した。
ミルドリッヒはヒューベリオンとアレス、α二人の禁断の恋を邪魔するΩ令息だったのだ。
転生していたことに気付かず前世スキルを発動したことでキャラ設定が大きく変わってしまった邪魔者Ωが、それによって救われたα達に好かれる話。
元自己評価の低い王太子α ✕ 公爵令息Ω。
番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。
オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。
屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。
リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。
自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。
貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。
ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜
葉月
BL
《あらすじ》
カトラレル家の長男であるレオナルドは双子の弟のミカエルがいる。天真爛漫な弟のミカエルはレオナルドとは真逆の性格だ。
カトラレル家は懇意にしているオリバー家のサイモンとミカエルが結婚する予定だったが、ミカエルが流行病で亡くなってしまい、親の言いつけによりレオナルドはミカエルの身代わりとして、サイモンに嫁ぐ。
愛している人を騙し続ける罪悪感と、弟への想いを抱き続ける主人公が幸せを掴み取る、オメガバースストーリー。
《番外編 無垢な身体が貴方色に染まるとき 〜運命の番は濃厚な愛と蜜で僕の身体を溺れさせる〜》
番になったレオとサイモン。
エマの里帰り出産に合わせて、他の使用人達全員にまとまった休暇を与えた。
数日、邸宅にはレオとサイモンとの2人っきり。
ずっとくっついていたい2人は……。
エチで甘々な数日間。
ー登場人物紹介ー
ーレオナルド・カトラレル(受け オメガ)18歳ー
長男で一卵性双生児の弟、ミカエルがいる。
カトラレル家の次期城主。
性格:内気で周りを気にしすぎるあまり、自分の気持ちを言えないないだが、頑張り屋で努力家。人の気持ちを考え行動できる。行動や言葉遣いは穏やか。ミカエルのことが好きだが、ミカエルがみんなに可愛がられていることが羨ましい。
外見:白肌に腰まである茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳。中世的な外見に少し幼さを残しつつも。行為の時、幼さの中にも妖艶さがある。
体質:健康体
ーサイモン・オリバー(攻め アルファ)25歳ー
オリバー家の長男で次期城主。レオナルドとミカエルの7歳年上。
レオナルドとミカエルとサイモンの父親が仲がよく、レオナルドとミカエルが幼い頃からの付き合い。
性格:優しく穏やか。ほとんど怒らないが、怒ると怖い。好きな人には尽くし甘やかし甘える。時々不器用。
外見:黒髪に黒い瞳。健康的な肌に鍛えられた肉体。高身長。
乗馬、剣術が得意。貴族令嬢からの人気がすごい。
BL大賞参加作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる