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第5話 王太子婿4★

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「ふう。どいつがヒーローなのか、さっぱり分からないな……」

 蒼輝宮の自室に戻って、文机で再び例の冊子とにらめっこする俺。が、誰がヒーローなのかやっぱり分からず。

「……今日はもう寝るか」

 冊子を閉じ、文机から立ち上がる。
 室内に置かれてある燭台の炎を消そうと動き始めた時だった。扉をノックする音が響く。……誰だ、こんな夜中に。

「はい。どうぞ」

 許可を出すと、入室してきたのはなんとイスリッドだった。本日二回目。今度は一体なんの用だよ。っていうか、ほんの数時間前まで一緒にいただろ。

「……あんたか。なんだ」

 誰かに聞かれたくないことなのか、戸口に立ったイスリッドは後ろ手に扉を閉める。どことなく緊張した面持ちをしてしばらく無言だったけど、やがて意を決したように口を開いた。

「あ、の。――初夜の練習をしませんか」

 俺は、一瞬何を言われたのか理解するのが遅れた。……初夜の練習?
 致してしまったらそれはもう初夜であり、初夜の練習ではなくなる気がするけど、まぁそれはともかく。どうしたんだ、急に。

「今日の俺は、発情期じゃない。性行為をしても無意味だ」
「分かっています。ですから今夜は、本番に備えて練習をさせていただけないかな、と。いざ発情期がこられても、行為が上手くいかないとお子を身ごもらせることができません。それではノシュア殿下もお困りになるのでは」

 理路整然と説明されて、俺はふむと考え込む。
 言われてみると、確かにそうだな。俺は性行為の経験がないし、イスリッドも多分そうだろう。初めての者同士は苦労するって聞くから、ぶっつけ本番で失敗する可能性は大いにある。
 まだ子どもを授かるつもりはないといっても、表向きは子作りをしていないと計画がスムーズにいかなくなるわけで、本番に備えて練習をしておくのはいい提案のように思えた。
 と、頭では冷静に思考するけど、心臓はバクバクだ。イスリッドへの恋心は残ったままだから、好きなひとにとうとう抱かれるのかと緊張感に襲われた。

「そ、うだな。分かった。練習……しよう」

 どうにか声を振り絞って許可を出す。イスリッドは、ぱっと顔を明るくした。

「ありがとうございます!」

 ……お礼を言われるのって、なんか変な感じ。
 俺はぎこちない動きで寝台に上がる。衣服を脱ごうとしたけど、思いとどまる。あれ、衣服って途中から脱ぐものか? それとも、最初から裸体の方がいいのか? どっちだ。
 一人考え込んでいると、イスリッドも寝台に上がってきた。

「失礼します」

 こっちは衣服を着たまま、一言ことわってから俺にキスをしてきた。
 むにゅっと柔らかい感触と、唇がぶつかる。今世ではファーストキスなわけだけど、なんだかあっさりと奪われた。だからどうということでもないけどさ。
 何度もついばむようなキスをされる。いつまで続くんだっていうくらい、触れるだけのキスを繰り返す。お、おい。いつになったら、先に進むんだ。次は、ディープキスなんだろ?
 一旦、顔を離したイスリッドは、戸惑う俺に対して心底嬉しそうに笑った。その照れ臭そうな笑顔に、一瞬どきりとする。

「この日がくるのを、ずっとお待ちしていました」
「あ、ええと……」
「とても、幸せです。あなたと触れ合えることが」

 イスリッドの腕が伸びてきて、俺をゆっくりと寝台に押し倒す。ぽふっと頭部が柔らかい枕に包み込まれた。次いで、また唇をキスで塞がれる。
 でも、今度は触れるだけでは終わらなかった。開いた口からイスリッドのぬるりとした舌が侵入してきて、俺の口内のそれを絡め取る。吸い上げられるたびに背筋がぞくぞくとして、下半身を緩い快感が直撃した。

「んっ、ふっ……」

 おずおずと俺からも舌を絡めに行く。互いに貪り合い、獣のような深いキスを交わす。
 正直、ディープキスって何がいいんだろうって思っていたんだけど……なんていうのかな。少なくとも、好きな相手と交わすディープキスは甘ったるくて気持ちいい。その証拠に、下半身が緩く反応している。
 しばらく、ディープキスを交わしたあとは、イスリッドの口は俺の胸の突起に向かった。俺の上着をたくし上げ、曝け出された乳白色の胸元に実る赤い果実を、口に含む。

「あっ、んんっ」

 喘ぎ声がつい飛び出してしまった。慌てて手の甲で口を塞ごうとしたけど、イスリッドの手が俺の手首をシーツに縫い付けてしまう。

「その可愛いお声、もっと聞かせて下さい」

 耳元に囁き、胸の突起弄りを再開。ただでさえ外気に触れて尖っていたのに、舌で舐め上げられ、あるいは押し潰され、どんどんつんと尖っていく。その刺激も快楽となって下半身に届くものだから、もうすっかり勃ち上がっている。
 そのことに気付いたらしいイスリッドはほのかに笑い、空いている片方の手で俺の中心を上下に扱いた。布越しとはいえ直接的な刺激を与えられて、ううっ、気持ちいい。

「あっ、はぁっ」

 興奮するあまり先走りの樹液が、ズボンを濡らしていくのが分かる。なんだか、おもらしをしているみたいで恥ずかしくなって、「ぬ、脱ぐ」と大胆なことを口走ってしまった。
 薄暗い中でも俺が赤面しているのが分かったのか、イスリッドは宥めるように俺の額に口づけを落とした。

「俺が脱がしますよ」

 下着ごとズボンを引き下ろされる。そのまま足から引き抜いてもらい、着ているのは上着だけという間抜けな姿に。ちょっと待て、全裸になるよりも恥ずかしいんだけど!

「う、上も脱ぐっ」

 自ら上着を脱ぎ捨てて、俺はとうとう全裸になった。外気が全身の肌に触れて、スース―してちょっと肌寒いかも。
 一方のイスリッドは衣服を着たまま、じっと俺の身体を見つめていた。

「すごく綺麗だ……」

 ぽつりと呟く。お世辞じゃなさそうだ。思わず口からこぼれてしまったという感じ。
 俺は視線から逃れるように身をよじった。

「……あんまり見るなよ」
「どうしてですか。こんなに綺麗なのに」

 あんたの視力は大丈夫かよ。どう見ても、男にしては貧相な肉体だろ。肌も色白だし。
 でも、恥ずかしがる俺の姿に何か掻き立てられるものがあったのか。それまで穏やかだったイスリッドの瞳に欲情の色が見え始めた。

「……中をほぐしますよ」

 俺の中心から先走りを掬い取り、イスリッドはその指先を双丘の最奥まで這わせた。窄まりに樹液を塗りたくってから、指を一本そっと突き入れる。

「痛くありませんか」
「大丈夫だけど」

 異物が入っているという奇妙な感覚はあるけど、痛くはない。
 そしてそれは、指を二本に増やされても同じだった。さらに円を描くように、ぐるぐると花襞を押し広げられたけど、やっぱり痛みはない。
 時間をたっぷりとかけた愛撫によって身体が興奮状態にあるからなのか、あるいはオメガだからなのか。よく分からないけど、前戯はなんの痛みもなく終わった。

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