氷の薔薇と日向の微笑み

深凪雪花

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最終話 氷の薔薇と日向の微笑み★

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 森の中で眼前に広がる館を、エリスは信じられない思いで見上げた。といっても信じられなかったのは、薄汚れた外壁だとか、下部に蔦が絡みついていていかにも幽霊が出そうな外観だとか、率直に言ってボロ……いや、趣のある館だったからではない。

「……なにも持っていないって、言っていませんでしたっけ」

 持っているじゃないか、立派な館を。ノークス邸より一回りも二回りも小さいが、二人で住む分には十分な広さだ。
 セオドアは苦笑いだ。

「この外観を見てそう言ってくれるのは、エリスだけだろうな」
「雨風しのげる屋根と壁があれば、暮らしていくのに十分ですよ」

 セオドアが「一緒に住もう」と言って、連れてきてくれたのがこの館である。アンカーソン公爵家が所有している館で元は別荘地だったらしいのだが、今は使われていないのだとか。
 セオドア・ノークスは戦死した。ゆえにこれからはなるべく、人目に付かずに生きていかねばならない。そのことへの配慮と、なにより革命軍の旗頭となって活躍してくれた感謝から、アンカーソン公爵がセオドアへこの館を譲ってくれたのだという。……他にもっとマシな館があっただろう、とセオドアは珍しく苦言をこぼしたけれど。

「エリスと暮らすって言ってあったのに……国王を押し付けたことへの嫌がらせだな。大人げない人だ」
「ま、まぁ、住む家があるだけでありがたいことじゃないですか。……あ! ここを耕せば、家庭菜園ができそうですよ」

 エリスは館の左前方にあるスペースへ駆け寄り、セオドアを振り返る。
 日当たりも良好そうだ。きっと、おいしい作物ができる。なにを育てようかなぁ、とうきうきと考え始めるエリスを、セオドアは優しい目で見つめた。

「エリス。とりあえず、中へ入ろう。住めるようにしておいたと言っていたから」
「あ、はい」

 セオドアの言葉通り、中は小綺麗だった。隅々まで掃除したのだろうことが、家具に埃一つないことから分かる。玄関ホールを抜けて、深紅の絨毯が敷かれた中央階段を上り、画廊に並ぶいくつかある部屋のうち、まずは寝室に足を向けた。

「わぁ、大きい」

 部屋の中央に天蓋付きの広い寝台が置かれている。二人分なんて広さじゃない。三、四人が並んで横たわれそうな幅の寝台だ。さすが、元は公爵家の館。
 寝間着などをハンガーにかけるためか、クローゼットも備え付けられている。エリスは一旦荷物をクローゼットの床に置き、思い切って寝台に飛び込んだ。

「すごい! セオドアさん、ふかふかですよ!」

 シーツも綺麗だ。飛び込んだ衝撃で埃が舞うなんてこともない。
 無邪気に笑うエリスにセオドアは表情を緩めて、寝台までやってくる。寝台の端に腰かけると、思っていた以上に体が沈んだらしい。少々驚いていた。

「本当だ。かなり、弾力性があるな」
「でしょう? 今日からこの寝台で眠れるなんて幸せですね。きっと、寝心地がいいですよ」
「……エリスのポジティブさには脱帽する」

 エリスはむっとして口を尖らせた。セオドアの背後から顔を覗き込みながら。

「それ、褒めてるんですか?」
「もちろん。エリスは……俺の日向だからな」

 優しく笑ったセオドアの口が、エリスのそれを塞いだ。そのまま押し倒されて、のしかかってくるセオドアにエリスは顔を真っ赤にして慌てふためく。

「え、え、まさか、こんな真っ昼間から……」
「半年近く抱いていない」
「よ、夜まで待ちましょうよっ」
「我慢できない」

 セオドアの手が、あっという間にエリスの衣服を脱がしていった。セオドア自身も衣服を脱ぎ捨て、互いに裸になって体を重ねる。前回のように前戯から始めようとするセオドアを、けれどエリスはおずおずと制止した。

「……あの、セオドアさん」
「どうした」
「その……俺が動く、から」
「?」

 恥ずかしそうに返すエリスをセオドアは不思議そうに見つめつつも、体を起こして長座位になり、エリスが動くのを待ってくれた。エリスはセオドアの下腹部へ移動し、我慢できないと言っていた通り反応している雄芯を口に含む。

「ん……んぅ……」

 すでに隆起していているそれは、すべてを咥え込むには逞しすぎる。これが前回、俺の中に入ったのか――と改めて驚きつつ、エリスは音を立ててしゃぶった。
 柔らかい陰嚢を、飴玉を転がすように舐め、竿の裏側まで丹念に舐め上げる。すると、やがて先端から透明な樹液が溢れ出してきた。青臭く苦味があるはずの先走りだが、舐めてみると不思議と甘ったるく感じる。

「ん……おいしい……」
「エリス……うっ」

 絡みつく舌に性器を吸われたセオドアが低く呻く。悩ましげに吐息をこぼし、懇願した。

「もう、いい……早く挿れたい……」

 その言葉にエリスの下肢がキュンと疼く。セオドアとのキス、そして初めての口淫によって身体は昂っている。乳首はつんと尖り、花芯は濡れそぼって、後孔もすっかり蕩けていた。
 それでも一応、後孔はほぐしておくべきだろう。そう思って、セオドアの雄芯から身体を離したエリスは、下肢を開いて秘処につぷっと指を一本挿し入れた。蕩けきったそこは、あっという間に指を飲み込んだ。
 中が熱い。セオドアを求めて花襞もひくついている。
 自ら指を出し入れする姿を、セオドアは食い入るように見つめていた。

(あ…ぁ……見られてる……)

 熱い眼差しが下肢に注がれているのを感じる。
 自分で弄っているところを見られるなんて、恥ずかしい。恥ずかしいはず、なのに。身体は感じて、身の内を焼く。
 後孔をほぐすだけのつもりが、セオドアに視姦されながらエリスは達してしまった。花芯には一切手を触れていないのに、だ。これではまるで本当に女性のようだ。
 そんなことを思いながら、秘処からそっと指を引き抜く。

「準備できたか? じゃあ……」

 動こうとしたセオドアを、けれどエリスはまた制止した。

「俺が動くって言ったでしょう」
「エリスが動くって……おい、まさか」

 おそらくセオドアが想像しただろうことを、エリスはした。セオドアの上に跨り、怒張したモノを後孔で自ら咥え込んだのだ。

「ん…っ……」

 熱い塊が、身体を深く深く開いていく。
 根元まで飲み込んだところで、エリスはゆっくりと腰を上下に動かした。クチュクチュと卑猥な粘着音を立てながら、引き抜いては飲み込み、引き抜いてはまた飲み込む。その動作を繰り返して、セオドアのモノを扱く。

「あ…ぁ……セオドア、さん……気持ちいい……?」
「ああ……」

 悦楽の表情を浮かべたセオドアは、エリスの頬に手を触れる。そして、喘ぐエリスの口を自身のそれで塞いだ。

「ん、ん…ぅ……」

 滑りこんできた舌と舌を絡み合わせながら、快楽を貪る。さらにもう片方のセオドアの手がエリスの花芯に触れ、握って扱く動きに頭が真っ白になりそうだった。
 口も、花芯も、後孔も、すべてが気持ちいい。溶けて消えてしまいそうだ。

「セオ、ドアさん……愛しています」

 あの時、言わなかった言葉を、今度はきちんと伝えた。
 セオドアはふっと笑う。

「俺もだ。愛しているよ」
「あっ!」

 繋がったまま、押し倒された。突然のことに目を丸くするエリスをセオドアは優しい目で見下ろしながら、動き出す。抉るように雄芯を動かし、ガツガツと穿つ。

「あぁっ……あっ、んんっ」

 繋がる、身体の悦び。
 通じ合う、心の喜び。
 もう泣きそうだった。泣きたくなるくらい幸福感で満たされて、気持ちよくて。
 頭がぼぅと霞んでいく。

「……あぁ……いいっ、気持ちいいよ…ぉ……」

 最奥にあるしこりを突き上げられるたび、脳髄が痺れる。
 甘えるような嬌声に、セオドアは愛しげな顔をしてエリスの全身にキスの雨を降らせた。くすぐったい快感にエリスは胸をのけ反らせる。

「セオドア、さん……」

 震える腕を伸ばしてセオドアを抱き締めると、セオドアもまたエリスを優しく抱き締めてくれた。

「セオドアさん……セオド……あぁっ」
「エリス……」

 我を忘れて、エリスはセオドアと互いを求め合った。
 次第にセオドアの抽挿が激しくなっていく。

「あぁ……あぁ……セオ、ドアさん、一緒にイこう……?」

 熱に浮かされた瞳で見上げるエリスの言葉に、セオドアは微笑んだ。

「ああ……中に出すぞ」
「うん……いっぱい、出して……、あぁああああ!」

 身体が浮き上がるほどに強く突き上げられたかと思うと、セオドアの白濁した蜜が奥深くまでエリスを犯す。同時に、エリスも蜜を噴き上げた。

「はぁ……はぁ……」

 達して息を弾ませるエリスの額にセオドアはキスを落とした。エリスの中から自身を引き抜いて、エリスの隣に横たわる。

「ずっと、一緒にいよう。エリス」
「はい」

 エリスは微笑みながら、頷く。
 二人は抱き合うように側臥位で寝て、触れるだけの口付けを交わした。
 ――エリスとセオドア。
 二人は子を設けることはなかった。森の中の館で、ひっそりと慎ましやかに、二人だけで仲良く暮らした。
 いつまでも、いつまでも――。

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