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本 編
第8話 学童保育所に行く2
しおりを挟む「――っていうことがあったんです」
その日の夜。迎えにきてくれたローワン様と帰宅して、夕食を食べながら話をすると、ローワン様は難しい顔をして黙って耳を傾けていた。
ちなみに、今夜の夕食もシチューだ。
「どうして、見下されているなんて思うんでしょうか。ボクもマックス君も、仲良くしたいと思っているから、声をかけたのに」
「……ふむ。もしかしたら、これまで貴族派とやらの子に、何か不快な思いをさせられたのかもしれないな」
不快な思い、か。まぁ確かに、貴族派の子すべてが平民派の子と仲良くしたいと思っているわけではないかもしれないけど……。
「でも、ボクやマックス君は、その相手とは違いますよ」
「個々を見ずに派閥全体を一方的に決めつけ、拒否するのは、子供なら珍しいことでもないだろう。特に嫌な思いをさせられたというのなら」
うーん……言われてみると、そうかも。だいたい、子供どころか、大人だって派閥を作って対立したりするくらいなんだから。
でも、だからといって、そういうものだからって諦めたくない。
「じゃあ、どうしたらいいんだろう……」
僕たちとその相手は違うよ、ってどう説明したら理解してもらえるのかな。仲良くしたい気持ちを、どう伝えたら受け入れてもらえるんだろう。
頭を悩ませる僕を見かねたローワン様は、唐突に言った。
「ジュード。このシチューは、おいしいか」
「え? は、はい。とっても、おいしいですけど」
急にどうしたんだ。
目を点にする僕に、ローワン様は続けた。
「こんな表現がある。俺たちは『同じ釜の飯を食った仲間』だと」
「同じ釜の飯を食った仲間……?」
そういえば、そんな表現があったかも。同じ釜の飯を一緒に食べたらおいしいし、それでもう仲間になったんだ、みたいな意味だよね。
「ひとというのは、多くの時をともに過ごし、ともに困難を乗り超えてこそ、真の絆が生まれる。何か思い出を共有すれば、その子たちとも仲良くできるのではないか」
「……思い出、ですか」
言いたいことは分かる。青春をともにしたら、友人から親友になっているというような話だろう。でも、一緒に遊ぼうとしても拒否されるのに、どう思い出を共有すべきなんだ。
ローワン様は、ふっと笑った。
「色々と考えてみるといい。何事も試行錯誤することが大事だ」
「はい。お話を聞いてくれてありがとうございます」
何か、いい方法があるといいな。
「――で、ジュード」
顔を上げると、目の前のローワン様のお顔が真剣なものになっていた。学童保育所で粗相をしなかったかとか、真面目に授業を受けたかとか、そういう話かな。
「なんですか?」
「言い寄る男はいなかったか」
……へ?
言い寄る男って……えーっと、恋愛的な意味だよね。
僕はもう呆れるしかなかった。
「いなかったですよ。そんな子。心配しすぎです」
「そうか……それならいいが」
まったく。過保護にも程があるよ。
それからはしばらく何もできずに、学童保育所に通う日々が続いた。アイデアなんて、そう簡単には降ってこないものだ。
でも、ローワン様に言われた言葉に、何かヒントがあるような気もする。『同じ釜の飯を食った仲間』ってやつ。
うーん、給食なら一応クラスで一緒に食べているけど……貴族派と平民派でてんでバラバラだから、思い出を共有できているとは言いがたい。
「なぁ、ジュード。何か食べたいと思うものないか?」
ある日の昼休み。マックス君にそう問われた。
突拍子もない質問だったから、僕はきょとんとした。
「食べたいもの? 何かあったの?」
「今夜は、オレと弟が夕食作り担当なんだよ。で、献立に迷ってんの」
おお、子供たちだけで料理をするなんて偉い。僕は、ローワン様が作る料理を器に盛って運ぶくらいしかしないからなぁ。
自分たちで料理を作って、食べる。自立への一歩という感じでいいことだ。
……って、ん?
僕は、はっとした。――そうか!
「ありがとう。マックス君」
「へ?」
「いい考えを思いついたよ」
僕は早速、席を立って職員室へ向かった。担当保育士さんのところへ顔を出して、思いついたことを提案する。
担当保育士さんは、最初こそ戸惑った顔をしていたけど、自分が担当するクラス内の雰囲気をよくしたいという思いはあったんだろう。了承してくれた。
そしてその日の放課後に、担当保育士さんから僕が提案した話が告げられた。
「みんな、来週のことなんだけど。料理実習をしたいと思います」
教室内がざわつく。それもそうだろう。料理実習なんて、この学童保育所のカリキュラムにはないものだから。多分、初めての試みなんじゃないかな。
「だから、その日はエプロンを持参してきてね。それじゃあ、今日の授業は終わりです。お疲れ様でした」
クラスの反応は、様々だ。楽しみにしている、戸惑っている、面倒臭い、などなど。
僕はもちろん、楽しみにしているよ。
「……ジュード。昼休みに言ってた、いい考えってもしかしてこれ?」
隣のマックス君が、戸惑った顔で声をかけてきた。あ、バレたか。
そう。自分たちで協力して料理を作って、一緒に出来上がった料理を食べる。まさしく、『同じ釜の飯を食った仲間』っていう思い出を共有できるでしょ。
よーし、みんなが仲良くできるように、頑張るぞ。
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