7 / 9
本 編
第7話 学童保育所に行く1
しおりを挟む「ジュ、ジュードです。よろしくお願いします」
簡潔に自己紹介して頭を下げると、教室にまばらな拍手が起こった。
リュックを背負って教壇の隣に立っている、僕。ここは、王都にある学童保育所の一つ。ソラーズ男爵邸から一番近い学童保育所だ。
そう、今日からとうとう学童保育所デビューなんだ。
「じゃあ、ジュード君。好きな席に座って」
「はい」
担当保育士さんに促されて、僕はキョロキョロと教室内を見回した。空いている席はどこだろうと探していると。
「おーい、ジュード」
窓際の席から手を振る男児……あ、マックス君だ。ここに通っているとローワン様から聞いていたけど、同じクラスだったんだ。
「こっちに座れよ」
手招きされて、僕はマックス君の隣の席に座る。
ほっ。知り合いが一緒なのは、心強い。この前、ちょっと顔を合わせただけとはいえ。
「マックス君もこのクラスだったんだ」
「おう。騎士の孫同士、仲良くしようぜ」
騎士の『孫』……やっぱり、そう思われているのか。
といっても、それは保育士さんたちも同じだ。ローワン様も今回ばかりは、『孫』設定にした方が学童保育所に入りやすいと判断したみたいなんだよね。
オリヴァーさんから、そう助言されたらしい。素直に受け入れたローワン様だけど、「悪い虫がつくかもしれん」なんて真顔で心配していたっけ。
ともかく、マックス君はもちろん、クラスのみんなと仲良くやっていけたらいいなぁ、って思っていたんだけど……んん?
なんか、教室の反対側からの視線が痛い。顔を上げると、廊下側の席の子たちが冷ややかな目で僕を見ていた。
え、なに。僕、何かした?
戸惑う僕を知ってか知らずか、担当保育士さんは「じゃあ、お勉強を始めましょうね」と教科書を開いた。途端、僕を冷ややかに見ていた子たちも視線を黒板に向けたから、冷たい視線を感じなくなったけど……なんだったんだろう。
内心首を捻りつつ、僕もひとまずリュックから算数の教科書を取り出す。休憩時間まで、担当保育士さんによる授業を受けた。……精神年齢二十歳の僕だから、もう知っている知識ではあったけれども。
次の授業までは、十五分ほどある。雑談がてら、隣のマックス君に聞いてみた。
「ねぇ、マックス君。さっき、廊下側の席の子たちから睨まれていたような気がするんだけど……僕、何かしたかな?」
初日から何かしくじってしまったのだとしたら、早めに挽回したい。
眉をハの字にして相談する僕だけど、マックス君はあっけらかんと言った。
「ジュードは別に何もしてないよ。ただ、『騎士の孫』だから、だよ」
「え?」
騎士の孫だから? なんだ、それ。
目をぱちくりとさせると、マックス君は分かりやすく説明してくれた。
「うちのクラスって、貴族派と平民派に分かれてて、仲が悪いんだ。あ、窓際の席は貴族派で、廊下側の席は平民派な。あっちには迂闊に近寄らない方がいいぞ」
「そ、うなんだ……」
貴族派と平民派、か。
割合的には平民出身が圧倒的だけど、騎士の身内とか、名ばかりの貧乏貴族の子供なんかは、学童保育所に通う。それを貴族派と呼んでいるんだろう。実質的な権力はないに等しいから、平民派も真っ向から対立できる感じなんだろうな。
うーん、子供の世界も派閥があるものなんだね。よくよく思い返すと、貴族の子供社会もそうだった記憶はあるけど。
でも、なんだか残念だ。どうせなら、みんなと仲良くしたいのに。
「それ、先生たちは何も言わないの?」
「みんな仲良くしなさいね、って一応声はかけるけど、特には」
マックス君は頭の後ろで腕を組んで、背もたれに寄りかかる。
「オレもさ、最初はあいつらと仲良くしようと声をかけたんだよ。でも、話しかけるなって揃って拒否。こればっかりは、仕方のないことなんじゃねぇかな」
「そっか……」
仕方のないこと。
そう割り切るのは、簡単なことかもしれないけど……でも、なんだろう。今の僕には、受け入れがたい言葉だ。それはきっと、僕の前回の人生について、本当に『仕方のないこと』だったのか、と思い返してしまうからだろう。
クラスの件に関しては、僕は……何もしていない。まだ。それなのに、『仕方のないこと』だとは割り切れないし、割り切るべきでもないと思う。
何かを変えたいのなら、何か行動すべきだよね。
――と、いうことで。
「ね、ねぇ! 一緒に遊ばない?」
昼休み。平民派と呼ばれる廊下側の席の子に、思い切って声をかけてみた。
相手はリーダー格っぽい男の子だったんだけど、驚いたのちに不機嫌そうに「はぁ?」と聞き返してきた。
「お前、貴族派だろ? オレたちに声かけんなよ」
「貴族とか平民とか関係ないでしょ。ボクたち、同じクラスの仲間なんだから」
男の子は、鼻で笑った。
「はん。バッカじゃねぇの。仲間なわけねぇじゃん」
「どうしてそう思うの?」
「立場が違うだろ。お前だって、オレたちを見下してるくせに」
「え……?」
見下している? どうして?
男の子は、鬱陶しげな顔をして席を立った。ボールを持って、平民派と呼ばれる仲間たちに「遊びに行こうぜ」と声をかけ、教室を出て行く。
ぽつんと、残された僕に背後から声をかけたのは、マックス君だ。
「な? にべもないだろ」
「……うん」
僕は、しょんぼりとするほかない。勇気を出して声をかけたら、何かが変わるかもしれないと思ったのに。
みんな仲良くする、なんて無理なのかなぁ。
110
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい
だいず
BL
平凡な生活を送っていた主人公、宇久田冬晴は、ある日異世界に召喚される。「転移者」となった冬晴の仕事は、魔女の予言を授かることだった。慣れない生活に戸惑う冬晴だったが、そんな冬晴を支える人物が現れる。グレンノルト・シルヴェスター、国の騎士団で団長を務める彼は、何も知らない冬晴に、世界のこと、国のこと、様々なことを教えてくれた。そんなグレンノルトに冬晴は次第に惹かれていき___
1度は愛し合った2人が過去のしがらみを断ち切り、再び結ばれるまでの話。
※設定上2人が仲良くなるまで時間がかかります…でもちゃんとハッピーエンドです!
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる