死に戻り悪役令息が老騎士に求婚したら

深凪雪花

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本 編

第7話 学童保育所に行く1

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「ジュ、ジュードです。よろしくお願いします」

 簡潔に自己紹介して頭を下げると、教室にまばらな拍手が起こった。
 リュックを背負って教壇の隣に立っている、僕。ここは、王都にある学童保育所の一つ。ソラーズ男爵邸から一番近い学童保育所だ。
 そう、今日からとうとう学童保育所デビューなんだ。

「じゃあ、ジュード君。好きな席に座って」
「はい」

 担当保育士さんに促されて、僕はキョロキョロと教室内を見回した。空いている席はどこだろうと探していると。

「おーい、ジュード」

 窓際の席から手を振る男児……あ、マックス君だ。ここに通っているとローワン様から聞いていたけど、同じクラスだったんだ。

「こっちに座れよ」

 手招きされて、僕はマックス君の隣の席に座る。
 ほっ。知り合いが一緒なのは、心強い。この前、ちょっと顔を合わせただけとはいえ。

「マックス君もこのクラスだったんだ」
「おう。騎士の孫同士、仲良くしようぜ」

 騎士の『孫』……やっぱり、そう思われているのか。
 といっても、それは保育士さんたちも同じだ。ローワン様も今回ばかりは、『孫』設定にした方が学童保育所に入りやすいと判断したみたいなんだよね。
 オリヴァーさんから、そう助言されたらしい。素直に受け入れたローワン様だけど、「悪い虫がつくかもしれん」なんて真顔で心配していたっけ。
 ともかく、マックス君はもちろん、クラスのみんなと仲良くやっていけたらいいなぁ、って思っていたんだけど……んん?
 なんか、教室の反対側からの視線が痛い。顔を上げると、廊下側の席の子たちが冷ややかな目で僕を見ていた。
 え、なに。僕、何かした?
 戸惑う僕を知ってか知らずか、担当保育士さんは「じゃあ、お勉強を始めましょうね」と教科書を開いた。途端、僕を冷ややかに見ていた子たちも視線を黒板に向けたから、冷たい視線を感じなくなったけど……なんだったんだろう。
 内心首を捻りつつ、僕もひとまずリュックから算数の教科書を取り出す。休憩時間まで、担当保育士さんによる授業を受けた。……精神年齢二十歳の僕だから、もう知っている知識ではあったけれども。
 次の授業までは、十五分ほどある。雑談がてら、隣のマックス君に聞いてみた。

「ねぇ、マックス君。さっき、廊下側の席の子たちから睨まれていたような気がするんだけど……僕、何かしたかな?」

 初日から何かしくじってしまったのだとしたら、早めに挽回したい。
 眉をハの字にして相談する僕だけど、マックス君はあっけらかんと言った。

「ジュードは別に何もしてないよ。ただ、『騎士の孫』だから、だよ」
「え?」

 騎士の孫だから? なんだ、それ。

 目をぱちくりとさせると、マックス君は分かりやすく説明してくれた。

「うちのクラスって、貴族派と平民派に分かれてて、仲が悪いんだ。あ、窓際の席は貴族派で、廊下側の席は平民派な。あっちには迂闊に近寄らない方がいいぞ」
「そ、うなんだ……」

 貴族派と平民派、か。
 割合的には平民出身が圧倒的だけど、騎士の身内とか、名ばかりの貧乏貴族の子供なんかは、学童保育所に通う。それを貴族派と呼んでいるんだろう。実質的な権力はないに等しいから、平民派も真っ向から対立できる感じなんだろうな。
 うーん、子供の世界も派閥があるものなんだね。よくよく思い返すと、貴族の子供社会もそうだった記憶はあるけど。
 でも、なんだか残念だ。どうせなら、みんなと仲良くしたいのに。

「それ、先生たちは何も言わないの?」
「みんな仲良くしなさいね、って一応声はかけるけど、特には」

 マックス君は頭の後ろで腕を組んで、背もたれに寄りかかる。

「オレもさ、最初はあいつらと仲良くしようと声をかけたんだよ。でも、話しかけるなって揃って拒否。こればっかりは、仕方のないことなんじゃねぇかな」
「そっか……」

 仕方のないこと。
 そう割り切るのは、簡単なことかもしれないけど……でも、なんだろう。今の僕には、受け入れがたい言葉だ。それはきっと、僕の前回の人生について、本当に『仕方のないこと』だったのか、と思い返してしまうからだろう。
 クラスの件に関しては、僕は……何もしていない。まだ。それなのに、『仕方のないこと』だとは割り切れないし、割り切るべきでもないと思う。
 何かを変えたいのなら、何か行動すべきだよね。
 ――と、いうことで。

「ね、ねぇ! 一緒に遊ばない?」

 昼休み。平民派と呼ばれる廊下側の席の子に、思い切って声をかけてみた。
 相手はリーダー格っぽい男の子だったんだけど、驚いたのちに不機嫌そうに「はぁ?」と聞き返してきた。

「お前、貴族派だろ? オレたちに声かけんなよ」
「貴族とか平民とか関係ないでしょ。ボクたち、同じクラスの仲間なんだから」

 男の子は、鼻で笑った。

「はん。バッカじゃねぇの。仲間なわけねぇじゃん」
「どうしてそう思うの?」
「立場が違うだろ。お前だって、オレたちを見下してるくせに」
「え……?」

 見下している? どうして?
 男の子は、鬱陶しげな顔をして席を立った。ボールを持って、平民派と呼ばれる仲間たちに「遊びに行こうぜ」と声をかけ、教室を出て行く。
 ぽつんと、残された僕に背後から声をかけたのは、マックス君だ。

「な? にべもないだろ」
「……うん」

 僕は、しょんぼりとするほかない。勇気を出して声をかけたら、何かが変わるかもしれないと思ったのに。
 みんな仲良くする、なんて無理なのかなぁ。

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