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第2章
第15話 悪魔ムルムル1
しおりを挟む指令書に書いてある場所は、山の上にある村だった。というわけで、その山の麓までは馬車で移動したが、村までは山登りだ。
体力には自信があるルツでも、山登りとなると使う体力が違う。雪がうっすら積もっているので余計に足元には気も遣う。息を乱しながら、せっせと山を登っていた。
同行しているはずのアイムの姿はない。山の麓に着いてすぐ、ルツの剣に宿ったのだ。理由は言わずもがな、山登りが嫌だったからだ。
「……お前は本っっ当に従魔でよかったよな」
ここまで体を動かすのが嫌いな奴も珍しい。
クロセルによれば、無機物に宿るというのは高度な技術なのだという。おそらく、アイムにしかできないのではないか、と。
しかしそれも、結局は『戦う契約者にいちいちついて回るのが面倒だから』という理由から生まれた発想らしいので、素直にすごいとは賛辞しにくい。
ルツの呆れた声にも、アイムはどこ吹く風だ。
《僕は頭脳労働の方が得意なんだよ》
「そういう問題じゃないだろ」
《君が不利益を被ってるわけじゃないんだから、どうこう言われる筋合いはないね》
まぁ、それはその通りだ。剣に宿っているといったって、別に剣自体が重くなったわけでもない。ただ、山登りの苦楽をともにする相手がいない、というだけだ。
と、思ったら。
《……まぁ、ちょっと魔力を消耗するけどさ》
「はぁ!? 俺、不利益を被ってるんじゃねえか!」
《気持ちよくなれるんだから、別に不利益じゃないでしょ》
「だから、そういう問題じゃねえんだよ! おい、出てこい! 一緒に山登りしろ! お前もたまには運動しろよ!」
《死んでもやだ》
死んでもって。そこまで嫌なのか。
頑として剣から出てこないアイムにルツは閉口して諦め、山登りを再開した。まったく、面倒臭がり屋もここに極まり、だ。
(はぁ……目的地まで、ぱぱっと移動する魔術があればいいのに)
滅魔隊支部から馬車の移動だけでも半月ほど。この山登りも半日くらいはかかるだろう。悪魔を滅するよりも、移動時間の方がかかる。
もしかしたら今、命が失われそうになっているかもしれないのに、すぐに駆け付けられないというのは歯がゆいというか、なんというか。
(って、そうだよな。早く村に行って、悪魔を滅さないと)
今回はどんな悪魔なんだろう。C級というと、現代ではそれなりに力が強い方に分類されるらしいが、ということは元々強く生み出されたか、生み出されてから力をつけたか。
後者であれば、多くの人間を苦しめている凶悪な悪魔かもしれない。滅魔隊隊長のジェフサへの指令であることを考えたら、その可能性は高い気がする。
(俺は……もう同じ過ちは繰り返さない)
どんな悪魔であろうと、必ずこの手で滅する。
心の中で誓い、ルツは急ぎ足で山を登った。朝早くから山登りを始めたが、山頂の村に到着したのは夕方頃だった。
村人たちが使い魔に襲われたりしていないか。そう危惧したが、予想に反して山村の雰囲気はのどかなものだった。血の匂いもしない。ごく普通に生活を営んでいる。
そのことにルツは戸惑った。
(この村に悪魔が……いる、んだよな?)
ルツは悪魔が間近にいないと悪魔だと分からないので、今の段階では分からない。
目的地に到着したということで、ようやくアイムが剣から出てきた。隣に立つアイムを、ルツは困惑した顔で見下ろす。
「なぁ、アイム。本当に悪魔がいるのか、この村」
「いるよ。気配を感じる」
「どこだ」
「気配が濃すぎて近くまで行かないと特定できない。村を見て回ろうよ」
「……そうだな」
この山村が悪魔にどんな被害を受けているのかを確認する必要もある。
そんなわけで山村を歩き回るルツたち。悪魔がいるのであれば、誰かしら被害を受けているはずなのに、ルツが見る限りでは村人たちはみな幸せそうだ。
ただ様子を見て回るだけでは分からず、畑を耕している村人に声をかけてみた。
「お取り込み中のところすみません。ちょっといいですか」
「ん? 見ない顔だな。よそ者か?」
「はい」
「そうか。ということは、あんたらもダニエル様にご用か? 見た感じ、夫夫みたいだし、もしかして死んだ子供を蘇らせたいってところかね」
「……へ?」
呆けた返答になってしまったのは、アイムと夫夫に間違われたことに対してではもちろんない。死んだ子供を蘇らせたいんだろう、という言葉を理解しかねたのだ。
「そ、それ、どういう……いてっ!」
「はい、そうなんです。ダニエル様のお噂を聞いて、藁にも縋る思いで僕たちはこの村にきたんです」
ルツの足を踏みつけて言葉を遮ったアイムが、珍しく愛想笑いを浮かべて村人との会話に応じた。
「ダニエル様が死者を蘇らせることができるって本当ですか?」
「ああ。もちろんだとも。ただ、多額の献金が必要だがね。少額でも、死んだ相手を降霊していただけるから、会話することは可能だよ」
「そうなんですか。お話を聞かせてもらってありがとうございます。……おじさんも、誰かを蘇らせてもらったんですか?」
村人は破顔した。
「病で亡くした妻を、蘇生してもらった。といっても、魂の都合上だとかで生前の記憶はないんだが……それでも、妻が生きて傍にいてくれたらそれでいい。今、私はとても幸せだよ」
「……そう、ですか。では、失礼します」
アイムは「ほら、行くよ」と未だ痛みに顔をしかめているルツの腕を引っ張り、その場から立ち去っていく。ルツは「引っ張るなよ」と苦言を呈して手を払いのけ、痛む足をひきずるようにして隣を歩いた。
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