滅魔騎士の剣

深凪雪花

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第2章

第12話 修行

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 俯いてばかりもいられない。
 翌日から、ルツは改めてジェフサから指導を受けることになった。まずは祓魔に関する基礎知識を徹底的に詰め込まれた。
 一つ、悪魔の倒し方について。(悪魔の心臓と呼べる核を滅すること)
 一つ、悪魔の階級。(S級~E級に分けられるそうだ)
 一つ、従魔の扱い。(負の思念か七欲を、定期的に補充しないといけないらしい)
 そして――。

「従魔から与えられる魔術は、七段階に区分される。初級、下級、中級、上級、特大級、極限級、秘奥義。これらは与える七欲の数で使用段階が決まる。たとえばルツ、今のお前が与えられるのは『憤怒』だけだから初級魔術しか使えない、という風に」

 ホワイトボードにすらすらと書かれた知識を、ルツはノートに書き写す。ふむふむ、以前アイムが自分を使いこなせるかどうかはルツ次第と言っていたが、そういうことだったのか。

「強力な魔術を使うためには、いくつもの七欲を従魔に与えなきゃならない。そのためには自分自身の七欲を見つける必要がある。七欲全制覇しろとまでは言わないが、最低でも三つ、中級魔術までは会得してほしいところだ」

 七欲は、『傲慢・強欲・色欲・憤怒・羨望・貪食・怠惰』の七つ。ルツが与えられるという『憤怒』は亡き家族を襲った悪魔への怒り、復讐心だろう。

(最低でも他に二つ、か)

 いや、亡き家族を襲った悪魔が何級か分からない以上は、それで満足してはダメだ。七欲全制覇するくらいの気概を持たなくては。

「ということで、お前にはしばらく、俺が生み出した負の思念の人形を相手に修行してもらう。剣を持って外に出ろ」
「あ、うん」

 ジェフサの言葉に従い、ルツは剣を携えて滅魔隊支部を出た。その後ろを歩くアイムは、「ふああ」とあくびをしている。座学が退屈で仕方なかったようだ。

(マイペースな奴だよなぁ)

 クロセルから聞いた話によると、昔からこういう性格らしい。自然が何よりも好きで、その中でのんびりと過ごすことが好き、なんだそうな。

『心根は優しい子なので、仲良くしてあげて下さいね』

 保護者のように言うクロセルに、アイム本人は『どうして仲良くしなきゃいけないの』とつんつんとしていたが。

(本当に可愛くねえの)

 と、それはさておき。滅魔隊支部は街外れにあるので、人通りはほぼない。これなら思う存分、剣を振るえるというものだ。

「これがその人形だ。名付けて『キタエアゲル君』」

 ルツの目の前に現れたのは、黒い粒子で構成された人型の使い魔……とは違う気がする。なんというか心のない、ジェフサの言う通り人形のような雰囲気だ。
 ……それにしても。

「鍛え上げる君って、ネーミングセンス壊滅的じゃね? あいたっ!」

 つい本音をこぼしてしまったルツの頭を叩いたのは、もちろんジェフサだ。「分かりやすくていいだろ」というのがジェフサの主張である。

「いいから、相手をしてみろ」
「え、相手をしろっていっても、動かな……うわっ!?」

 突然、『キタエアゲル君』が剣の突きを繰り出してきた。ルツは咄嗟に避けたが、攻撃が掠ったようで衣服が少し破れた。

「こいつ、動くのかよ!?」
「当たり前だろ。ほら、応戦しないとフルボッコだ」
「ま、待て! 動きが速すぎ…っ……」

 こんなの、とてもじゃないが捌き切れない。ルツの師匠であるシモンの動きだって、もっと遅かった……はず。

「く、くそっ、――炎魔の初剣【焔斬り】!」

 燃え上がる剣を、『キタエアゲル君』の胴体に叩き込んだ。が、攻撃は通用せずに弾かれる。ルツは息を切らしながら後ろに飛び退いた。
 ジェフサは面白そうな顔をして、声を張り上げる。

「中級魔術以上じゃないと倒せないように設定してあるから、いくら初級魔術を使ったって無駄だぞ!」
《ソウダ。ハヤク、エトクシロ》
「しかも、喋るのかよ!?」

 なんだこれ。意味不明すぎる。
 しかし、今のルツよりも強いのは歴然だ。

(こいつを倒せたら、俺は最低限のラインをクリアできる)

 やってやろうじゃないか。
 ルツは剣を構え直し、地を蹴った。『キタエアゲル君』へ向かって突っ走る。

《アマイゾ、コゾウ》
「はんっ、どっちが!」

 突きを連発する『キタエアゲル君』の剣撃を、重心を下げてかいくぐる。動き自体は速いが、その動きは機械のように規則的なので、読むのはそう難しくない。
 懐に飛び込み、剣を構えた。

「炎魔の中剣……あ、えっと?」

 初級魔術の時は技名が頭に浮かぶのに、今回はそれがない。そして『キタエアゲル君』の胸元に突きをお見舞いしたが、一切刃が通らず、また弾き返された。
 ルツはなんとか体勢を立て直し、後ろに飛び退ける。

「な、なんで使えないんだ……?」
「……お前、バカだな」

 ジェフサは呆れた顔をして『キタエアゲル君』の動きを一旦止めた。

「七欲を与えなきゃ使えないって、説明したばっかりだろ」
「い、いや、でも、俺は早く昼飯を食べて休憩したいなーって思いながら攻撃したぞ!」
「ほう、『怠惰』と『貪食』を狙ったのか。目の付け所は悪くない。だが、その程度の気持ちじゃ、欲望とは呼べないな」

 言いながら、ジェフサは剣を抜いた。

「一度だけ、手本を見せてやる。クーちゃん、行くよ」
「はい」

 地を蹴るジェフサ。その速度はルツよりも圧倒的に速く、目で追うことすらできない。気付いたら、ジェフサは『キタエアゲル君』の頭上に跳躍しており、

「水魔の中剣【水簾閃】」

 水を纏った剣撃が、『キタエアゲル君』の体を頭から真っ二つに分断していた。『キタエアゲル君』は黒い粒子と化し、風に紛れて消えていく。
 ルツは無意識に感嘆の声をもらしていた。

「すげえ……」

 身体能力。剣術の腕前。七欲のコントロール。
 そのすべてがルツよりも遥かに優れている。だてにこの若さで隊長を務めているわけじゃない、ということらしかった。
 難なく地面に着地したジェフサは、かちゃん、と剣を鞘に収める。

「まぁ、まずは下級魔術から会得することだ。じっくりと自分の中の欲望と向き合え。そして欲望をたぎらせろ。俺から言えるのはそれだけだ」

 くるりと背を向け、ジェフサはひらひらと手を振った。

「じゃ、頑張れ」

 クロセルを連れ、滅魔隊支部の中へと戻っていく。いや、『キタエアゲル君』はどうするんだよと思ったが、これまた気付いたら目の前に復活していた。

《ハヤク、エトクシロ》
「分かってらぁ! すぐに倒してやるからな!」

 ルツは剣の柄をきつく握りしめ、『キタエアゲル君』と対峙するのだった。

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