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第20話 ボランティア3

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「テディ君のご両親とお話がしたい、ですか?」
「はい。その、テディ君が勉強嫌いな理由が家庭環境にあるんじゃないかと、思い至りまして……今夜、テディ君と一緒に帰ってご両親にお話を伺いたいんですが、大丈夫でしょうか」

 翌日のボランティアにて。学童保育所の保育士に許可をもらおうと事情を話すと、保育士は「それは構いませんけど……」と許可しつつも、戸惑ったような顔をした。

「何もそこまでする必要はありませんよ? リアムさんはボランティアなんですし」
「いえ、私がやりたいんです。テディ君に勉強をさせるのは私の仕事でもありますから」
「そう、ですか……そういうことでしたら、どうぞご自由にして下さい」
「ありがとうございます」

 よし、許可をもらえた。今日はテディ君と一緒に帰って家庭訪問だ。
 ちなみに学童保育所に通う子供は、年齢によって親の送り迎えがあるかどうかが変わる。テディ君はもう十歳ということで、基本的に親の送迎はない。だから、テディ君の両親とはまだ顔を合わせたことがないんだよな。どんな人たちなんだろう。
 一応、資料を見た限りでは、母親が食堂の経営、父親が街学校の先生、らしいけど。それだけでも忙しそうな両親だと思うから、ローレンスが予測した通りのような気がする。親に気にかけてもらえないほど、子供にとって寂しいものはないよな。
 まだ決めつけるわけにはいかないけど、それでもテディ君の気持ちに寄り添ってきちんと対処しないと。
 そんなことをつらつらと考えつつ、その日のボランティアを終えて、俺はテディ君と一緒に帰路についた。日が少しずつ短くなってきているから、外はうっすら暗い。空には一番星が瞬いている。
 俺の隣を歩くテディ君は不思議そうな顔だ。

「なんで先生がウチにくんの?」
「家庭訪問だよ。テディ君が一番目」
「先生はボランティアじゃん。それに街学校の先生も家庭訪問しにくるけど?」
「もっとみんなについて知りたいんだよ。迷惑?」
「……いや、別にいいけどさ」

 今まで関わったボランティアの人たちはここまでしなかったんだろう。テディ君は「変な先生だなぁ」とこぼしつつ、家まで案内してくれた。

「母ちゃん、ただいま」
「おかえり。……あら、そちらの方は?」

 出迎えてくれたのは、食堂を経営しているというお母さんだ。見慣れない俺の顔に目をぱちくりとさせていた。

「学童保育所で勉強を見てくれるリアム先生。家庭訪問だってさ」

 家庭訪問、という言葉に、テディ君のお母さんは悟ったような顔をした。多分、街学校の先生からも、テディ君が勉強嫌いなことで話を聞きにこられたことがあるのかもしれない。

「リアム先生、息子がお世話になっています。ご足労おかけしました。紅茶くらいしかお出しできませんが、どうぞ家に上がって下さい」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 煉瓦造りの赤い外壁の家に入ると、奥の広間に通された。俺はソファーに腰かけ、テディ君のお母さんが紅茶を淹れ終わるのを待つ。テディ君本人は、二階の自室へと元気よく駆け上がっていった。

「お待たせしました、リアム先生」

 ほどなくして、紅茶が運ばれてきた。せっかく淹れてもらったので口をつけないのもどうかと思い、一口飲んで「おいしいです」と笑いかけた。
 テディ君のお母さんも微笑み返してくれた。

「お口に合ったのならよかったです。それで……家庭訪問というのは、息子が勉強嫌いな件のことでお話があるのでしょうか」
「……以前にも、そのことでお話を聞かれたことが?」
「ええ。息子のことをもっと気にかけてもらえないか、と街学校の先生に言われました。ですから、なるべく息子との時間を大切にするようにはしているんですが……」

 あ、街学校の先生もローレンスと同じ予測を立てたんだな、きっと。本職だもんな。そりゃあ、色々な子供を見てきているのか。
 でも、それでも解決していないってことは……他に理由があるってことか。

「旦那さんは何か言っていますか? 街学校の先生だと伺いましたが」
「夫は何も。嫌いなものを無理矢理やらせる必要はないだろう、とだけ。なにぶん夫は仕事が忙しくて、朝早く帰りは遅い、といった感じでして」

 街学校の先生のわりに、自分の子供は放任主義なんだな、お父さんは。仕事が忙しいっていうのは仕方ないことではあるけど……でも、そんな感じじゃ、育児はお母さんに丸投げしてそうだ。それはそれで、あんまりよろしくないような。

「では、旦那さんはテディ君とあまりお話をされないんですか」
「そうですね。休日も仕事の準備で自室にこもりきりですから……」

 テディ君は、お母さんだけじゃなくてお父さんにも気にかけてもらいたい、のかな。だとしたら、まだ解決していない理由にはなるけど。
 それにしても、街学校の先生でよその子供の面倒は見るのに、自分の子供はほったらかしとか、なんか本末転倒感があるよな。一番大切にしなきゃいけない存在を間違えてるよ。
 うーん、俺がもし、テディ君の立場だったら。そんな父親なんて見限ってお母さんを大切にするだろうけど……でもそれは、あくまで大人の俺の考えだ。
 子供だったら、どんな親でも愛されたいと思うはず。だとしたら、そんなお父さんにもやっぱり気にかけてほしいんじゃないか? だって、自分の父親がよその子にばかり構って、自分には一切構ってくれなかったら……なんというか、嫉妬してしまう気がする。俺のお父さんなのに、みたいな。

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