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第11話 新婚旅行2

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 メイドに案内された客室は、思っていたよりも広かった。ツインベッドというのがちょっと嫌だけど……多分、新婚夫夫だからという配慮だろう。
 おお、寝台はふかふかだ。俺たちの家の寝台も硬いってわけじゃないけど、それを上回るふかふか具合だ。今晩はぐっすり眠れそうだな。

「リアム。すまないが、使用人たちにちょっと声をかけてくる」

 荷物を片付けた後、ローレンスはそう言って客室を出て行った。あいつ、無愛想でとっつきにくい奴だけど、使用人たちにもそういう気遣いをするところは、律儀というか、なんというか。一応、伯爵令息なわけだけど、偉ぶったところがないよな。そういうところは感心するよ。
 というわけで室内に一人になった俺は、ふかふかの寝台を堪能した。ああ、気持ちいい。気を抜いたら、うっかりうたた寝してしまいそうだ。
 本当に瞼が重くなってきてしまったので、俺は慌てて寝台から下りた。さて、夕食の時間までは多分一時間半くらいありそうだけど……何をして暇をつぶそう。

「……とりあえず、水でも飲むか」

 緊張していたせいだろう。喉がカラカラだ。紅茶を飲んでいたとはいえ、カフェインの入った紅茶は水分補給に適さないからな。
 典型的な貴族の屋敷の造りから考えて、台所は地下だろう。客室を出た俺は、通りすがりのメイドに地下への階段はどこかと訊ねた。
 水を飲みたいからと理由を話すと、客室までお持ちしますよと言われたが、なんだか手間をかけさせて申し訳ないし、喉が渇くたびにいちいちメイドに運ばせるというのも面倒だ。
 せっかく、遊びにきたのだから探検したい、という建前を理由にして地下へ続く階段の場所を教えてもらい、俺は地下へ足を向けた。
 と、階段を下りたところで、話し声が聞こえてきた。

「まさか、あんたが結婚するとはねぇ。よく結婚相手が見つかったものだわ」
「余計なお世話だ」
「仲良くやってるわけ? あんた、無愛想なんだから」
「お前に心配される筋合いはない」

 ローレンスの声と……若い女性の声だ。目的地である台所から話し声が聞こえてきたこともあって、俺は台所に顔を出した。すると、ローレンスが話していたのは、ローレンスと同年代に見える小柄で可愛らしいメイドだった。

「リアム。どうした」

 俺の姿に気付いたローレンスが声をかけてきたので、俺も言葉を返す。

「ちょっとお水をいただきに……あの、そちらの方は?」
「メイドのサマンサだ。父上の執事の娘でな、俺の幼馴染なんだ」

 へぇ、こいつにも仲のいい幼馴染がいたんだ。
 メイドことサマンサさんは、花のような愛くるしい笑顔を浮かべた。

「初めまして。サマンサと申します。ご紹介に預かった通り、ローレンス様の幼馴染です」
「初めまして。私はローレンスさんの夫となったリアムです。夫と仲良くしていただいてありがとうございます」

 テンプレのような挨拶を交わした後、求めていた水をコップに注いで、それを持って「では、私はこれで」と俺はその場を立ち去った。地下から一階、二階、と上がって客室に戻る。
 椅子に座ってコップの水を飲みながら、サマンサさんのことを思い返した。サマンサさん……可愛い子だったな。ローレンスの幼馴染、か。
 なんとなく胸にもやっとしたものがあったが、長旅で疲れているんだろう、とこの時は気にしなかった。それから一時間ほどして戻ってきたローレンスとともに食堂へ行って、豪華な夕食をご馳走になり、シャワーを浴びてあとは客室でまったりと過ごした。
 ちなみに夕食の席もあの四人でいただいたんだけど……やっぱり、お義兄さんだけがオアシスだったよ。俺もすっかり打ち解けて、会話が弾んだ。塩対応なお義父さんとは……ほとんど話せなかったけど。明日はもう少し頑張ろう。
 と、ひそかに目標を立てたところへ、ローレンスもシャワーを浴びて戻ってきた。いつもならこいつなりに俺に何か話しかけてくるところなんだけど、おかしいな。無言だ。具合でも悪いのか?
 気になった俺は、俺からローレンスに声をかけた。

「ローレンス様。どうかされましたか。お体の具合でも悪いんですか?」
「……いや、別に」

 別にって……そっけないな。放っておいてほしいってこと?
 そう解釈して「そうですか……」とだけ返し、あとは気にせずに寝台の上で休んでいたんだけど、ローレンスはつかつかと寝台までやってきて端座位した。
 しばらく無言のままだったけど、やがてぽつりと呟いた。

「兄上と話が盛り上がっていたな」
「え? え、ええ。親しみやすい方でしたので」

 どうしたんだ、急に。それに神妙な顔をしてさ。

「それがどうかされましたか」
「ああいう男の方が好きなのかと思って」

 え、マジでどうした。まさか、ヤキモチ……とは、ちょっと違うような気もするな。表情とか、雰囲気的に。
 お義兄さんに気なんてないよ。いや、そもそもお前にも気はないんだけども。

「私がお慕いしているのはローレンス様です。どうしてそのように思われるんですか」
「俺には……兄上のような社交性とか愛想がないから」

 俺は目を丸くした。意外だ。一匹狼キャラを貫いているこいつだけど、無愛想で無口なところを自分でも気にしていたのか。コンプレックスってやつ?
 そう弱音を吐かれると、優しくしたくなるのが人情ってもんだろう。もう何ヶ月も生活をともにして、おまけに肉体関係まであるものだから、俺にだって情くらいはある。

「ローレンス様。短所と長所というのは紙一重です。あなたが短所だと思っている性格は、誰かにとっては長所に映るものですよ。それに」

 俺はローレンスの隣に座って、顔を伏せているローレンスを覗き込むようにして笑った。

「冬の生誕祭で私を助けてくれたのはローレンス様です。お義兄様ではありません」
「リアム……」
「ローレンス様だってお義兄様が持っていない長所をきっとたくさんお持ちです。あなたのよさを分かってくれる人を大事にされたら、それでいいと私は思います」
「……ありがとう。少し心が軽くなった気がする」

 やっとローレンスは顔を上げて、俺にふっと微笑んだ。あまりにも優しい表情だったものだから、俺は一瞬どきりとしてしまった。

「今夜はもう寝ようか。長旅で互いに疲れているはずだ」
「はい」

 ローレンスは俺におやすみのキスをしてきて。
 そんなこんなで、ギルモア地方伯爵家での滞在一日目は終わった。

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