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第9話 リアムの誕生日
しおりを挟む凍てつくような冬が終わり、陽気な春を迎えたリフォルジア。
国王陛下の正婿にはヒロイン側婿が無事選ばれた。最短ルートで正婿になった彼だから、果たして国王陛下ともう両想いなのかは分からないけど、元は結ばれる運命の二人。きっと、彼らの恋は上手くいくだろう。
そして俺は、というと。とうとう十九歳の誕生日を迎えた。
「「「お誕生日おめでとうございます! リアム様!」」」
ぱあん、とクラッカーが鳴って、色とりどりの紙吹雪が舞う。クラッカーを鳴らしたのは、オリビアさんたち使用人三人の女性だ。今日が俺の誕生日だってことで集まってくれたんだ。
目の前に座っているローレンスも、表情を緩めて「おめでとう」と祝福してくれた。
「誕生日プレゼントだ。開けてみてくれ」
差し出されたのは、赤いリボンで結ばれた小さな白い箱。俺はおずおずと受け取り、赤いリボンをほどいて小さな箱を開けた。すると、中に入っていたのは。
「指輪……?」
中央に小粒のダイヤモンドが輝く銀製の指輪だった。単なるアクセサリー……とは思えないから、もしかして結婚指輪か? こんな高価そうな物をよく贈れるなぁ。
「結婚指輪だ。まだ渡していなかっただろう」
「ローレンス様……ありがとうございます」
俺は努めてにこりと笑った。せっかくもらったんだから、つけなきゃダメだろうと思って、早速左手の薬指にはめる。あ、ぴったりだ。よくサイズが分かったな。
「気に入ってくれたか」
「はい、もちろん。大切にします」
嬉しそうな顔……しなきゃな。顔の筋肉を総動員して笑みを作ると、ローレンスもふっと優しげに笑みをこぼした。
「そうか。では、そろそろ食事をいただこう」
今夜の夕食は、いつもよりちょっぴり豪華だ。オリビアさんたち使用人三人が腕によりをかけて作ってくれて、二人だけでは食べきれそうもない。余り物は明日の朝に食べるか、あるいはオリビアさんたちに持って帰ってもらうか、どちらかにしよう。
おいしい料理を味わいつつ、集まってくれたオリビアさんたち使用人三人と会話を楽しみつつ、たまにローレンスとも話して。誕生日パーティーはあっという間に終わりを迎えた。
夕食の後はシャワーを浴び、俺の自室でローレンスと性行為コース。お決まりというか、もはや日課となっているというか。俺にとっては、ノルマといった方が正しいけど。だって、両想いになった設定なのに拒否するのはおかしいだろ?
俺がローレンスのことをお慕いしている、と伝えたあの日から二ヶ月ほど経つが、交合を交わさない日の方が少ない。慣れって怖いよな。ノンケだった俺が、今や男に抱かれるのが当たり前になっているとか。
「リアム。荷造りはできたか」
性行為を致した後。寝台に並んで横になっているローレンスが聞くので、俺は「終わりましたよ」と朗らかに返した。
「明日、出発するんでしょう?」
「ああ。朝食を食べたら、発とうと思う」
さて、俺たちがなんの話をしているのか。
実は新婚旅行を兼ねて、ローレンスの実家に顔を出すことになったんだ。ローレンスの実家っていうのは、ギルモア地方伯爵家だ。隣国ハヴィシオンと国境を接する辺境の地方。
公爵令息だった『リアム・アーノルド』は国王陛下しか眼中になく、そうでなくても同年代の貴族令息としかつるんでいなかったから、ギルモア地方伯爵がどんな人なのかはさっぱり分からない。オメガの父――ギルモア伯爵夫人の方は残念ながらもう他界しているそうで、実家には家督を継ぐ兄と地方伯爵の父が暮らしているという。
ご家族に挨拶するなんて今からドキドキするよ。何か失礼なことをしたら、ってさ。
ちなみに俺の実家、アーノルド公爵家にも挨拶を、とはならないのは、後宮追放処分を受けた一件で『リアム・アーノルド』は両親から勘当されたからだ。『リアム・アーノルド』の両親は、意外と真っ当な人たちだったので、愚息にほとほと愛想が尽きたらしい。
ローレンスはそっと、俺の結婚指輪がはめられた左手に手を重ねた。
「楽しい新婚旅行にしよう」
「はい」
こいつのほぼ無表情顔からまさか『楽しい』なんて言葉が出てくるとは思わなかったが、せっかくの遠出だ。楽しまなきゃ損というのは大いに同意する。
そのまま、俺たちは眠りについて、朝を迎えた。身支度を整え、一階の食堂でオリビアさんが用意してくれた朝食を食べた後、荷物を持って家の外に出る。家の前にはすでにローレンスが手配した箱型の馬車が停まっており、俺たちはいそいそと乗り込んだ。
俺は隣の席に荷物を置こうとしたのに、それよりも先にローレンスが隣の席に座ってしまった。俺は渋々と目の前の席に荷物を置く。広くはないんだから、わざわざひっつくなよ。
「出発します」
初老の御者がそう言うと、ヒヒーンと馬のいななきが聞こえて、ゆっくりと馬車が動き出した。石畳で舗装された道を、ガタゴトと揺らしながら進んでいく。
窓の外の景色は、初めは王都の街並みだったのが、王都を出ると新緑の木々が並ぶ。過ぎ去る緑の景色をぼんやりと眺めていると、俺の左手にローレンスの手が重ねられた。
ちょっ、おい。こんなところでイチャつこうとするな。
まさか、車内で襲いかかってくるんじゃないだろうな、という別のドキドキ感を味わいながらも、俺は拒否できずにされるがままでいた。
そんな俺たちを乗せた馬車は、ギルモア地方伯爵領へと向かっていくのだった。
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