64 / 64
おまけ レイテシア断罪後
レインハルトの決意
しおりを挟む
「……去れ。のちほどお前の罪が決定しよう」
「ま、ま、待ってください、レインハルト様!!」
「お前も罪を償うべきだ」
――もちろん俺も。
喉の奥から出かかった言葉をグッと飲み込んだ。
塔の外まで声が漏れていたのだろう。兵士が聞きつけ、駆けつけてきた。
「ちょうどいい、連れていけ」
「えっ、ちょっと待って!! 話をしましょう、レインハルト様」
押さえつけられたエミーリアは最後まで騒がしくしながら、視界から消えた。
******
暗い気持ちのまま、ベッドに横になるとふと思い出す。
そう言えば昔は、目覚めたらレイテシアの顔があり、絶叫したこともあったな。
どうしてあの時、なぜこんなことをしたのか理由もたずねず、すぐに部屋から叩き出したのか。
もっと話を聞いてやれば良かった。
そして自分が嫌なことは止めてくれと、言ってみれば良かった。なにも言わずに突き放しては、彼女も困惑するばかりだっただろう。
「もうすべて遅いがな」
ポツリとつぶやいた言葉に顔をゆがめた。罪悪感で胸が締め付けられる。
この胸の痛みは罪のないレイテシアの命を奪った代償。
あの時、皆の前で断罪し、目を見開いたレイテシア。美しい顔をゆがめ、唇が震えていた。
彼女は自分に罪はないと主張した。だが、それを聞き入れなかったのは、他でもない自分自身。
彼女に悲しい最期を迎えさせたのは、俺なのだ。
もう一度、最初からやり直せるのなら――代償はいとわない。
***
翌日、ロン・フランクスのもとをたずねた。
彼は稀代の発明家と名を馳せている人物。王宮の一室に研究室を持ち、ここに日々籠り、人々の生活に役立つ発明に人生を捧げていると言っても過言ではない。
「レインハルト様、こんな乱雑な部屋にどうなされました?」
「ああ、聞きたいことがある」
自分でもなぜ彼をたずねたのか、わからない。だが、この胸の痛みを救ってくれる発明品の一つでもあるのではないかという、藁にも縋る情けなさからだ。
「亡くなった人に会える発明品はないか?」
「亡くなった方に……ですか」
キョトンとした顔を見せるロンは瞬きを繰り返した。
「恐れながら、人の生命に関する発明はしておりません」
「そうか……」
せめてレイテシア本人に、一言でも謝罪がしたい。この気持ちは自分の中の罪悪感を軽くしたいだけの、ただの自己満足か。
もっとも彼女は俺の顔など見たくもないだろうが。自分を死に追いやったのだから。
「――時を戻す発明品ならあります」
ロンの言葉にバッと顔を上げる。
「本当か……?」
ロンはゆっくりとうなずいた。
「ですが、自分で作っておいて言うのもなんですが、おすすめはできません」
「なぜだ」
乗り気でないロンにつめ寄る。
「もとは古くなった機械を新品に戻すために作られた発明品。つまり、人では前例がないからです」
ロンは息をスッと吸い込み、真っすぐに目を見つめた。
「それに時を戻す発明品は、大きな代償があるはずです」
「例えばどんな?」
「はっきりとは断言できませんが、記憶を失くす、最悪の場合体がバラバラに千切れるかと――」
「はっ」
ロンの話に絶望を感じ、肩を揺らして笑うしかなかった。
「お力になれずにすみません」
「いや……」
「ですが、せっかくなので説明だけでも聞いていってください!!」
日頃、口数が少ないロンだが、発明品のことになると饒舌だ。
気持ちは沈んだままだったが、しばらくロンの話を聞いていた。
「お気になるようでしたら、持ち帰って確認してみてください」
「いや、俺は……」
そうして半ば押し付けられる形で時戻りの発明品を手にし、部屋に戻った。
*****
深夜、暗闇に包まれていると気持ちが落ち着いてくる。
同時に決意が生まれる。
代償を払おう――。
無実の罪を背負ったまま亡くなったレイテシア。
ロンは確か言っていた、戻りたい時に合わせた懐中時計を、時戻りの発明品にセットしろと。
そうだ、どうせならレイテシアが亡くなる直前ではなく、出会いからやり直せばいいんじゃないか?
そして再び出会えたのなら、俺はレイテシアの話に耳を傾けよう。たとえ記憶を失っていたとしても、一から彼女との関係を築こう。
そして彼女に悲惨な最後を迎えさせることは、二度としない。
たくさん話をして彼女のことを知っていこう。恋心は芽生えなくとも、友人にはなれるはずだ。
手にした懐中時計が示す時は、帝国アカデミーに入学を控えた、俺たちが出会う前。
これがうまくいけば、レイテシアはやり直せるはずだろう?
例え俺が代償を払ったとしても、彼女の命は繋がるんだ。どういった形になるにせよ、再びチャンスを得られる。
手に懐中時計をギュッと握りしめたまま、ゴクリと息を呑む。
覚悟を決め、時戻りの発明品に手を伸ばした――。
***********
そうして巻き戻りは成功ということで。
End
「ま、ま、待ってください、レインハルト様!!」
「お前も罪を償うべきだ」
――もちろん俺も。
喉の奥から出かかった言葉をグッと飲み込んだ。
塔の外まで声が漏れていたのだろう。兵士が聞きつけ、駆けつけてきた。
「ちょうどいい、連れていけ」
「えっ、ちょっと待って!! 話をしましょう、レインハルト様」
押さえつけられたエミーリアは最後まで騒がしくしながら、視界から消えた。
******
暗い気持ちのまま、ベッドに横になるとふと思い出す。
そう言えば昔は、目覚めたらレイテシアの顔があり、絶叫したこともあったな。
どうしてあの時、なぜこんなことをしたのか理由もたずねず、すぐに部屋から叩き出したのか。
もっと話を聞いてやれば良かった。
そして自分が嫌なことは止めてくれと、言ってみれば良かった。なにも言わずに突き放しては、彼女も困惑するばかりだっただろう。
「もうすべて遅いがな」
ポツリとつぶやいた言葉に顔をゆがめた。罪悪感で胸が締め付けられる。
この胸の痛みは罪のないレイテシアの命を奪った代償。
あの時、皆の前で断罪し、目を見開いたレイテシア。美しい顔をゆがめ、唇が震えていた。
彼女は自分に罪はないと主張した。だが、それを聞き入れなかったのは、他でもない自分自身。
彼女に悲しい最期を迎えさせたのは、俺なのだ。
もう一度、最初からやり直せるのなら――代償はいとわない。
***
翌日、ロン・フランクスのもとをたずねた。
彼は稀代の発明家と名を馳せている人物。王宮の一室に研究室を持ち、ここに日々籠り、人々の生活に役立つ発明に人生を捧げていると言っても過言ではない。
「レインハルト様、こんな乱雑な部屋にどうなされました?」
「ああ、聞きたいことがある」
自分でもなぜ彼をたずねたのか、わからない。だが、この胸の痛みを救ってくれる発明品の一つでもあるのではないかという、藁にも縋る情けなさからだ。
「亡くなった人に会える発明品はないか?」
「亡くなった方に……ですか」
キョトンとした顔を見せるロンは瞬きを繰り返した。
「恐れながら、人の生命に関する発明はしておりません」
「そうか……」
せめてレイテシア本人に、一言でも謝罪がしたい。この気持ちは自分の中の罪悪感を軽くしたいだけの、ただの自己満足か。
もっとも彼女は俺の顔など見たくもないだろうが。自分を死に追いやったのだから。
「――時を戻す発明品ならあります」
ロンの言葉にバッと顔を上げる。
「本当か……?」
ロンはゆっくりとうなずいた。
「ですが、自分で作っておいて言うのもなんですが、おすすめはできません」
「なぜだ」
乗り気でないロンにつめ寄る。
「もとは古くなった機械を新品に戻すために作られた発明品。つまり、人では前例がないからです」
ロンは息をスッと吸い込み、真っすぐに目を見つめた。
「それに時を戻す発明品は、大きな代償があるはずです」
「例えばどんな?」
「はっきりとは断言できませんが、記憶を失くす、最悪の場合体がバラバラに千切れるかと――」
「はっ」
ロンの話に絶望を感じ、肩を揺らして笑うしかなかった。
「お力になれずにすみません」
「いや……」
「ですが、せっかくなので説明だけでも聞いていってください!!」
日頃、口数が少ないロンだが、発明品のことになると饒舌だ。
気持ちは沈んだままだったが、しばらくロンの話を聞いていた。
「お気になるようでしたら、持ち帰って確認してみてください」
「いや、俺は……」
そうして半ば押し付けられる形で時戻りの発明品を手にし、部屋に戻った。
*****
深夜、暗闇に包まれていると気持ちが落ち着いてくる。
同時に決意が生まれる。
代償を払おう――。
無実の罪を背負ったまま亡くなったレイテシア。
ロンは確か言っていた、戻りたい時に合わせた懐中時計を、時戻りの発明品にセットしろと。
そうだ、どうせならレイテシアが亡くなる直前ではなく、出会いからやり直せばいいんじゃないか?
そして再び出会えたのなら、俺はレイテシアの話に耳を傾けよう。たとえ記憶を失っていたとしても、一から彼女との関係を築こう。
そして彼女に悲惨な最後を迎えさせることは、二度としない。
たくさん話をして彼女のことを知っていこう。恋心は芽生えなくとも、友人にはなれるはずだ。
手にした懐中時計が示す時は、帝国アカデミーに入学を控えた、俺たちが出会う前。
これがうまくいけば、レイテシアはやり直せるはずだろう?
例え俺が代償を払ったとしても、彼女の命は繋がるんだ。どういった形になるにせよ、再びチャンスを得られる。
手に懐中時計をギュッと握りしめたまま、ゴクリと息を呑む。
覚悟を決め、時戻りの発明品に手を伸ばした――。
***********
そうして巻き戻りは成功ということで。
End
321
お気に入りに追加
3,079
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(35件)
あなたにおすすめの小説
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
はじめまして
一気に読ませて頂きました
つい笑ってしまう所もあり面白かったです
ハッピーエンドで良かったです
次の作品も楽しみにしています
TOMOさん
感想ありがとうございます。
私の作品で笑っていただけるなんて、
嬉しいお言葉ありがとうございます。無事にハピエンです。
次の作品……頑張ります!(笑)
レインハルトが時を戻していた!?
それもロンの発明品だったとは。
残念ながら記憶は無かったんですね。
レイテシアが覚えていただけなんですねぇ。
聖女に至っては悪が栄えたためしがないっていうことかしら。
みゃん さん
後悔と反省と苦しくて発明品に頼ったのでしょうね。記憶はなくしてもいいから、やり直したいと。償いです。聖女…うわべだけの優しさじゃ、いつかメッキが剥がれる、ということですね。
レインハルトの苦悩の次は、エミーリアの絶望が読みたい😆
よろしくお願いします🙏
かなさん
エミーリアの絶望はドロドロしてそうですね~! しかもすべて人のせいにしてそう! 自分の非を認めない限り、幸せにはなれないでしょうね。