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おまけ レイテシア断罪後

レインハルトの決意

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「……去れ。のちほどお前の罪が決定しよう」
「ま、ま、待ってください、レインハルト様!!」
「お前も罪を償うべきだ」

 ――もちろん俺も。

 喉の奥から出かかった言葉をグッと飲み込んだ。

 塔の外まで声が漏れていたのだろう。兵士が聞きつけ、駆けつけてきた。

「ちょうどいい、連れていけ」
「えっ、ちょっと待って!! 話をしましょう、レインハルト様」

 押さえつけられたエミーリアは最後まで騒がしくしながら、視界から消えた。

 ******

 暗い気持ちのまま、ベッドに横になるとふと思い出す。

 そう言えば昔は、目覚めたらレイテシアの顔があり、絶叫したこともあったな。

 どうしてあの時、なぜこんなことをしたのか理由もたずねず、すぐに部屋から叩き出したのか。

 もっと話を聞いてやれば良かった。

 そして自分が嫌なことは止めてくれと、言ってみれば良かった。なにも言わずに突き放しては、彼女も困惑するばかりだっただろう。

「もうすべて遅いがな」

 ポツリとつぶやいた言葉に顔をゆがめた。罪悪感で胸が締め付けられる。

 この胸の痛みは罪のないレイテシアの命を奪った代償。

 あの時、皆の前で断罪し、目を見開いたレイテシア。美しい顔をゆがめ、唇が震えていた。
 彼女は自分に罪はないと主張した。だが、それを聞き入れなかったのは、他でもない自分自身。

 彼女に悲しい最期を迎えさせたのは、俺なのだ。

 もう一度、最初からやり直せるのなら――代償はいとわない。


***

 翌日、ロン・フランクスのもとをたずねた。

 彼は稀代の発明家と名を馳せている人物。王宮の一室に研究室を持ち、ここに日々籠り、人々の生活に役立つ発明に人生を捧げていると言っても過言ではない。

「レインハルト様、こんな乱雑な部屋にどうなされました?」
「ああ、聞きたいことがある」

 自分でもなぜ彼をたずねたのか、わからない。だが、この胸の痛みを救ってくれる発明品の一つでもあるのではないかという、藁にも縋る情けなさからだ。

「亡くなった人に会える発明品はないか?」
「亡くなった方に……ですか」

 キョトンとした顔を見せるロンは瞬きを繰り返した。

「恐れながら、人の生命に関する発明はしておりません」
「そうか……」

 せめてレイテシア本人に、一言でも謝罪がしたい。この気持ちは自分の中の罪悪感を軽くしたいだけの、ただの自己満足か。

 もっとも彼女は俺の顔など見たくもないだろうが。自分を死に追いやったのだから。

「――時を戻す発明品ならあります」

 ロンの言葉にバッと顔を上げる。

「本当か……?」

 ロンはゆっくりとうなずいた。

「ですが、自分で作っておいて言うのもなんですが、おすすめはできません」
「なぜだ」

 乗り気でないロンにつめ寄る。

「もとは古くなった機械を新品に戻すために作られた発明品。つまり、人では前例がないからです」

 ロンは息をスッと吸い込み、真っすぐに目を見つめた。

「それに時を戻す発明品は、大きな代償があるはずです」
「例えばどんな?」
「はっきりとは断言できませんが、記憶を失くす、最悪の場合体がバラバラに千切れるかと――」
「はっ」

 ロンの話に絶望を感じ、肩を揺らして笑うしかなかった。

「お力になれずにすみません」
「いや……」
「ですが、せっかくなので説明だけでも聞いていってください!!」

 日頃、口数が少ないロンだが、発明品のことになると饒舌だ。
 気持ちは沈んだままだったが、しばらくロンの話を聞いていた。

「お気になるようでしたら、持ち帰って確認してみてください」
「いや、俺は……」

 そうして半ば押し付けられる形で時戻りの発明品を手にし、部屋に戻った。

*****

 深夜、暗闇に包まれていると気持ちが落ち着いてくる。

 同時に決意が生まれる。

 代償を払おう――。

 無実の罪を背負ったまま亡くなったレイテシア。

 ロンは確か言っていた、戻りたい時に合わせた懐中時計を、時戻りの発明品にセットしろと。

 そうだ、どうせならレイテシアが亡くなる直前ではなく、出会いからやり直せばいいんじゃないか?
 そして再び出会えたのなら、俺はレイテシアの話に耳を傾けよう。たとえ記憶を失っていたとしても、一から彼女との関係を築こう。

 そして彼女に悲惨な最後を迎えさせることは、二度としない。

 たくさん話をして彼女のことを知っていこう。恋心は芽生えなくとも、友人にはなれるはずだ。

 手にした懐中時計が示す時は、帝国アカデミーに入学を控えた、俺たちが出会う前。

 これがうまくいけば、レイテシアはやり直せるはずだろう?

 例え俺が代償を払ったとしても、彼女の命は繋がるんだ。どういった形になるにせよ、再びチャンスを得られる。

 手に懐中時計をギュッと握りしめたまま、ゴクリと息を呑む。

 覚悟を決め、時戻りの発明品に手を伸ばした――。

***********
 
 そうして巻き戻りは成功ということで。
                                                         
                   End
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感想 35

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みんなの感想(35件)

TOMO
2023.12.08 TOMO

はじめまして
一気に読ませて頂きました
つい笑ってしまう所もあり面白かったです
ハッピーエンドで良かったです
次の作品も楽しみにしています

夏目みや
2023.12.09 夏目みや

TOMOさん

感想ありがとうございます。
私の作品で笑っていただけるなんて、
嬉しいお言葉ありがとうございます。無事にハピエンです。
次の作品……頑張ります!(笑)

解除
みゃん
2023.11.26 みゃん

レインハルトが時を戻していた!?
それもロンの発明品だったとは。

残念ながら記憶は無かったんですね。
レイテシアが覚えていただけなんですねぇ。

聖女に至っては悪が栄えたためしがないっていうことかしら。

夏目みや
2023.11.27 夏目みや

みゃん さん

後悔と反省と苦しくて発明品に頼ったのでしょうね。記憶はなくしてもいいから、やり直したいと。償いです。聖女…うわべだけの優しさじゃ、いつかメッキが剥がれる、ということですね。

解除
かな
2023.11.26 かな

レインハルトの苦悩の次は、エミーリアの絶望が読みたい😆
よろしくお願いします🙏

夏目みや
2023.11.26 夏目みや

かなさん

エミーリアの絶望はドロドロしてそうですね~! しかもすべて人のせいにしてそう! 自分の非を認めない限り、幸せにはなれないでしょうね。

解除

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