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おまけ レイテシア断罪後

レインハルトの苦悩

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 ループ前、レイテシアが断罪されてからその後が気になるとの声が多かったので、書いてみました。

 ※注意※ 雰囲気暗め

******



「レインハルト様、鑑識の結果が出ました」
「ずいぶん遅かったな」

 レイテシアが俺に渡した薬に毒草を混ぜた件で、薬草士に鑑定を依頼していた。

「実は……」

 薬草士が重い口をおずおずと開く。その結果を聞き、驚愕で目を見開いた。

「なにっ!?」

 それと同時だった。扉がノックされ、側近レオネルが部屋になだれ込んできたのは。


「レインハルト様、レイテシア様が……!!」


***

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 椅子の背もたれに寄りかかり、ギュッと目を閉じた。

 レイテシアが亡くなった。

 彼女が塔に幽閉され、半年が過ぎた。もう十分反省したことだろうし、そろそろ出すつもりでいた。仮にも昔は婚約していた関係だ。塔から出た後は、遠い地でひっそりと残りの人生を過ごすといい、勝手にそう思っていた。

 その為にも塗り薬に混ぜた毒は致死量ではないと、証明させるつもりで出した鑑識だった。
 そこで判明した衝撃の事実を知り、頭を鈍器で殴られたみたいだ。

 ――そして彼女は間に合わなかった。

***


 その足で、俺は時忘れの塔へ向かう。

「ここからは俺一人で行く」

 護衛は塔の外で待たせた
 中へは一人で来たかったのだ。いや、来なければいけなかった。
 レイテシアがどんな最後を迎えたのか、この目で確認しなければいけない。

 塔の看守は老婆一人だった。老婆がレイテシアの食事を運び、身の回りの世話をした。突然現れた俺に驚いたものの、態度は努めて冷静だった。

「こちらでございます」

 老婆が案内した先の部屋は薄暗く、閉ざされた狭い空間。

 こんな場所でたった一人で――。

「レイテシア様は大人しくして過ごされていました」

 塔で過ごした彼女の様子を聞く。最初こそ、泣いて暴れることもあったが、いつしか落ち着き、本を読んだり、ボーッとして過ごすことが多かったと。

 その時、部屋の隅にカサカサと動き回る物体に気づき、目を見張る。すぐに老婆も気づいたようだ。

「ここに大きなクモやヘビ、ネズミなどが出没するのは、日常茶飯事です。レイテシア様も最初こそ絶叫しておられましたが、後半は平気になったようです。それこそネズミにはパンくずなど与えておられ――」
「もういい」

 それ以上は聞いていられなかった。耳を塞ぎたい衝動に駆られる。

 老婆を下がらせ、部屋の中央でポツンとたたずむ。

 あんな害虫などでも、少しでも彼女の話し相手になったのだろうか。
 もっと早く彼女をここから出していたら――。
 いや、最初から幽閉などしなければよかったのだ。

 自責の念にかられ、苦しくて吐きそうだ。

 レイテシアは俺を恨んでいただろう――。

「ちょっと、早く案内してよ」

 その時、部屋の外から聞こえた声に我にかえる。

 この声はエミーリア……?

 彼女がなぜ、ここにいるのだろう。疑問に思っていると、老婆につめ寄る声が聞こえた。

「早く案内してくれない? あの女がどんな悲惨な場所で最後を迎えたのか、この目で確認しなくちゃね!!」

 この場にそぐわぬ、はしゃいだ声。人と思えぬ発言を聞き、目を見開く。

「嫌だわ、ジメジメしているし、臭いわね、この塔」

 始終楽しそうに話すエミーリアの声が耳障りで、唇をグッと噛みしめた。

 老婆が扉を開くと、笑顔のエミーリアが視界に飛び込んできた。凍り付いた視線を投げると彼女は一瞬口元を歪め、目を見開く。

 そしてすぐに涙を一筋流す。

「レインハルト様……。私もレイテシア様がお亡くなりなったと聞き、悲しくてひっそり追悼にきましたの」

 彼女の態度や行動、すべてが白々しく感じる。

 同時に湧き上がる感情は怒りだった。拳をグッと握りしめ、息を深く吸い込んだ。
 だが怒りで我を忘れないよう、左手で右腕を抑えた。

「なぜ――俺をだました」
「えっ?」

 エミーリアの表情が強張る。

「レイテシアからもらった塗り薬に、毒草が混じっていると俺に言ったのは、エミーリアだったな。彼女が毒草を混ぜて俺に渡したのだと」

 もうこれ以上、嘘を重ねることなど許さない。真っ直ぐに相手を見つめる。

「先ほど、薬草士から鑑定結果が出た」

 静かに伝えるとエミーリアはウッと言葉に詰まる。

「あれは、ロークの葉で作った薬に、あとから毒草を混ぜたものだ。ロークの葉と毒草を最初から混ぜた場合、薬は白くなる。だが毒草をあとから混ぜた場合は、赤くなると結果がでた!!」
「それは……」
「レイテシアから受け取った時は、確かに白かった!! だが、数日後には赤くなっていた。薬に毒を混ぜることができるのは、俺の側にいた人物しかいないだろう」

 エミーリアは唇をギュッと噛みしめた。

「それはエミーリア、お前だ!!」

 指を差して糾弾するが、エミーリアは負けずに反論する。

「ですが、レインハルト様も困っていたはずです!! 現に手っ取り早く、彼女と離れることができたじゃないですか!!」
「黙れ!! 取り返しのつかないことをしたことに、気づかないのか!?」

 怒りに感情が揺さぶられたまま叫ぶと、エミーリアは少し困ったような顔を見せる。

「ですが、もう終わったことですわよ? 私はこの国の聖女です。レインハルト様も私を選んでくれたのでしょう?」

 その時見せた笑顔に心底ゾッとする。

 俺はこの魔女のような女を盲信し、この事態を引き起こしたのか。

 彼女を責めてはいるが、信じた俺が一番愚かだ。
 それを自覚しているからこそ、胸が苦しい。

「いつまでも悔やんでいても仕方ないですわ。レインハルト様はこの国の王になられるお方なのですから、小さいことは忘れましょう」

 人の命を軽くみたことが、些細なことだと口にするのか――。

「――黙れ」
「……えっ?」

 腹の底から冷たい声が出る。

「俺は王になどならない。いや、なる資格がない」

 そう、罪を犯したのだ。

「な、なにを……!! レインハルト様が王にならなければ、他にだれがおりますの!?」
「従兄弟のデューイにでも譲る」
「なっ、まだ五歳ではないですか!?」
「それでも今の俺よりは、ずっといい王になるだろう」
「そんな!!」

 自分の発言に自嘲気味に笑った。
 エミーリアはよほど王位が気になるらしい。なにかをわめきたてているが、今大事なのはそんなことじゃない。

「それにエミーリア。今までは目を瞑っていたが、部屋にあふれかえるほどのドレスに装飾品。贅沢しすぎだ」
「私は国を代表する聖女ですから、一流の物を身に着けるのは当然ですわ!!」
「なるほど……」

 今まで俺に見せたことがなかったが、強気に自己主張するこの態度こそ、彼女の本性なのだ。

「そんな理由で俺を選んだのだな」

 ただの聖女の装飾品の一つとして選ばれたのだ。
 エミーリアはギクリとして表情を強張らせた。

 見抜けなかった俺は愚か者だ。
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